第17話 召喚者の長い名前
▼26.06.12タイトル修正
▼26.06.14加筆修正
僕を使い魔召喚した男はフルマトリローナ魔法大学の新入生だった。微妙に元ご主人様たちを想起させる薄緑色の髪と暗い青の瞳が極めて不快。あと自信満々な感じも、正統派ど真ん中を地でいくハンサム顔なのも同じ理由で気に食わない。
だいたいさ、使い魔って雑用ばっかり押し付けられる最悪の仕事じゃん。パシりと言ってもいい。二度と働かないって決めた僕がなるわけないよ。
ただ、ほぼ予想通りの場所に喚ばれてたのはちょっとほっとした。この大学はアルフトラズマ大陸北西部ギルゼサセッタ王国にあるらしいからね。
だけどさ、僕の怒りは1ミリだって収まってないよ。歓迎の意を表するとかでテーブルに所狭しと並べられた豪華な魔物用の料理なんか僕は……僕は…………げっふぅ、もう食べらんないや……はっ!? ごはんがまだだったせいで、つい、完食しちゃった。ほとんど無意識だったよ。きっと料理にそういう薬が混ぜてあったんだ。怖い怖い。
「良き食べっぷりだ」
正面にはあの新入生が座っている。顔面にめり込んだパンチの影響なんて治癒魔法のお陰で無に帰してて、すました様子でず~っとこっちを見てくる。そのくせニヤケ顔を抑えきれてないのがこれまた不快だった。
「喜んでもらえたようでなにより。ではこれで供物の授受は完了だな。次は……そうだな、自己紹介といこうか」
な~にが供物の授受だよ。僕は悪魔系の魔物じゃない。そんなもの使い魔契約のきっかけにもならないっての。基礎から魔法の勉強やり直した方がいいんじゃない?
「私はレギス。レギス・メキザパット・ウルテス・カヴァナフェリート・イルルス・サティクォ・ナッソッテ・ヤト・カロカスピリ・ヘネーゼ・デリガ・ラ・ク・ル・ス・マ・グ・ア・フルマトリローナだ」
いや、長い長い長い。それこそ悪魔召喚の呪文かと思ったよ。あと僕、喜んでないから。勘違いしないでほしい。
「だから、私のことはジェダと呼んでくれたまえ」
――は? ジェダ? どっからきたそれ。だから、とは? 何が?
ジェダでいいならその無駄に長い名前、本当に無駄じゃないか。
「君はイコルアだったな。うむ、良い名前だ」
そっちはあんまり良い名前とは言えないね。そういう文化なのかもだけどやっぱり長すぎだよ。そもそもさ、いるかな? あの一音の連続。急に声がぶつ切りになったから壊れたのかと思ったよ。
あとやっぱ、ジェダてwww
ナルシスト臭ぷんぷんで鼻を摘まみたくなるセンスだ。悪いこと言わないから別のに変えよ? 『のん太郎丸・ぷぅ』とか身の丈に合ってそうで良いんじゃない? 昔不滅のアルコルトルアに迷い込んできたふてぶてしいあの犬の名前がさ。
「さて、これから君は使い魔として生涯を私と共にする。忠誠を誓い、存分にその力を発揮して私を高みへと導いてくれたまえ。よろしく頼むぞ」
よろしくしません。お断りです。
ていうかさっきからなんなの? なんでそんな偉そうなの?
一応フルマトリローナって名乗ってたから系譜外の七大魔女の直系なんだろうけど、のん太郎丸自身からは何一つ凄みを感じない。治癒魔法だって別のヒトにかけてもらってたし、なにより召喚魔法に大量の魔石と魔道具を使ってズルしてたじゃん。礼節もなにもあったもんじゃない。最低の所業だ。しかも魔石はクズ魔石ばっかり。失礼しちゃうよまったく。
「さ、こっちへ来い。私自らが、主従の証たるこの漆黒純金の首輪をつけてやろう」
「絶対にヤダ」
「……え?」
「だから絶対にヤダって言ったの!」
のん太郎丸は性根だけじゃなくて耳も腐ってんのか。哀れなやつだ。
「え、しゃべっ……えっ?」
「え、しゃべっ? 何それ? ド田舎の方言は理解できないんだけど」
アルフトラズマ大陸はその大きさの割にダンジョンがめっちゃくちゃ少ない。だからダンジョン関係者からはクソ田舎とか未開のドドド辺境とか過疎地獄大陸とか呼ばれてる……あ、しまったしまった。僕もうダンジョン関係者じゃなかったね。アイツらと縁切ったもん。
「なんでこの超超超超ちょ~優秀な僕が、のん太郎丸みたいなクソ小物の使い魔なんかにならなきゃいけないわけ?」
「の、のんたろう――まる?」
あ、声に出しちゃった。のん太郎丸がキョトンとしてるや。でもま、いっか。
「寝言は寝て言いなよ。ううん、寝言だって許さないよ! 僕、友達との生活を満喫しようと思ってたのにのん太郎丸のせいで台無しだよ! このバカ! アホ! えっと、それからそれから……バカ! わかったら今すぐ送還して!!」
まあ送還魔法なんて召喚魔法よりも難しくて使い道も限られる魔法だからね。使える存在は稀だって知ってる。言ってやりたいこと言ってやったんだ。
「しゃ、しゃべっ……」
まただ。どういう意味なんだろう。博識な僕でも聞いたことない言葉だ。
「しゃ、喋った! 喋ったぞ!!」
突如のん太郎丸は立ち上がって、さっきまでの雰囲気が嘘みたいにはしゃぎ始めた。それからそのまま小躍りでもするように窓まで駆けていき大声で叫んだ。
「皆来てくれ! 私の使い魔は未契約でも人語を理解する!!! 高等種族だ!!!」
まあ、間違っちゃないね。でも絶対、使い魔契約なんてしないもん!




