第16話 召喚魔法の悲劇
▼26.06.12誤字修正
▼26.06.12誤字修正 及び オルと強制連結する描写を追記
▼26.06.14誤字修正
▼26.06.21誤字修正,加筆訂正
『――ア』
あ~? なんか頭がガンガンする。
『――ア!』
それになんか妙な音も聞こえてくる……。
『おい、イコルア!!』
ああ、もう朝かぁ……。
「んにゃあ……ふぁい。報告しますぅ」
『はあ!?』
「本日もダンジョンは異常、アドイード様もいつもの調子で正体不明の植物をばら蒔きながら転がっていく最悪の寝相でふ。例のごとくダンジョン全域に草むしり及び清掃指示発令済み……むにゃむにゃ、清掃済み区域前日比6千%、但し散らかり具合は既に前日比8万%、全然おいついてまてん……」
なんだかガクンガクンしてきた。地震? いや、これは違うね。
「ほえから、深部塔ナヘロ地区にて外部魔物同士の縄張り争い発生を感知……むにゃ、B‐7ZUポイント崩落を確認……C2AAポイント崩壊を確認……至急、鎮圧及び修復に向かいまふぅ……」
朝っぱらから大仕事だよ。嫌だなぁ……。
「ふぇ!? コルテ地区、ナサザ地区で生き人形のクーデター発生、優先して鎮圧を――っ!? ナルル廃神殿とフェグナリア螺旋庭園で謎の大爆発を確認、さらにリリカ7号の暴走とグルフナの食糧庫襲撃が、襲撃がぁぁぁ――――んはっ!!?」
とんでもない状況に絶望して目を閉じたつもりが、何故か思い切り目を開けていた。眼前にはユックの顔のどアップがある。
「ふぁ、なんだぁ、良かったぁ……」
「何がだ!? オイ、コラ、寝るんじゃねぇ!!」
ユックが胸ぐらを掴んで揺さぶってくる。ああ、友達に起こしてもらえるってこんなに幸せなんだなぁ……。
「もう昼過ぎだぞ! いい加減起きやがれ!!」
「ほぇ……昼…………昼過ぎ!!?」
一気に目が覚めた。
なんてことだ、朝ごはんと昼ごはんを食べ損ねてしまった!!
「ごはん、僕のごはんは!? とってあるよね!?」
僕はゴーレムだから本当は食事なんか必要ない。けど、食事を抜くと不思議と精神力の減りが速くなっちゃうんだよね。だからか怒りっぽくなっちゃうんだ。
一度、どこかが故障したのかと思ってたクインさんに相談したことあるんだけど、ストレス? とかいうのが原因らしい。
「腐りかけのパンと気持ち悪ぃのが生えた干し肉ならあんぞ」
僕を離したユックがテーブルに向かって顎をくいっと動かした。
「……ああ、じゃあその気持ち悪いのにしようかな」
「うえぇ、あれ食うのかよ」
ベッドに座っていたオルが気持ち悪そうに僕を見てくる。
ロイは……あ、水を汲みに行ってたんだね。鍋を持って飛んでるのが窓越しに見えた。よっぽど空を飛ぶのが気に入ったんだろうね。もんのすごく楽しそうだよ。
「モーヘンドリアなら夜が明けてすぐ飲みに出掛けたぞ」
「え、誰?」
「灯台守だ」
別に彼のことは探してなかったけど、きょろきょろしてたからそう思ったのかな。
「つかよぉ、なんでそっちの姿で寝てんだよ」
頭をガシガシ掻きながらユックは背の低い椅子に腰掛ける。
今気付いたけど、ここの家具は全部小さめだ。とか思ってたらユックがテーブルに足を乗っけた。
ふむ、ユックは忘れてるのかな。僕、そこに置いてある干し肉に生えたカニを食べるって言ったよね……。
「ったく、モーヘンドリアに説明すんのがダルかったじゃねぇか」
僕がじっとりした目で見ても気付かないユックは話し続ける。
なんでも僕がルトルフレームのまま寝ちゃったから、仕事を終えて降りてきた灯台守のオジサンが驚いちゃって、ユックは叩き起こされたんだって。
でもさ、ああだこうだと言ってるけど、要は良いように丸め込んだから解決済みってことでしょ。じゃあもうよくない?
そういえば、済んだことをぐちぐち言うのはストレスが溜まってるからってクインさん言ってたな……あ、そうだ。
「あのさ、ユックは昨日みたく灯台守のオジサンと話してたときの口調の方が万人受けすると思うよ」
「あ゛あ゛ん?」
ほら、そうやってすぐ睨むのもストレスのせいだよ、きっと。
「丁寧な口調だとお尻をズコバコしてくれるヒトも簡単に見つけられると思うんだよね。最近お尻に入れてもらってないんでしょ? ストレス溜め込むのはよくないよ?」
「なっ――んで今そんな話になんだよゴルァ!!」
ユックは真っ赤な顔になってまた掴みかかってきた。
おかしいな。ヒト種は他の種と違って性生活が充実してれば大抵のストレスは解消されるってクインさん言ってたのに、ユック怒ってるね。助言したつもりなんだけど、言い方が良くなかったのかな……。
「もしあれなら、僕がしてあげようか? 指でもいい? あ、腕まで入れられるのが好きなんだっけ?」
「ふっざけんじゃねぇ、お断りだ!!」
危うく殴られそうになったけど、ひょいっと躱して僕はカニを食べにテーブルまで歩いて椅子に座る。うん、小さすぎて座りにくい。ユックがテーブルに足を乗っけたくなった気持ちが少しだけわかった。
友達の気持ちが理解できるって嬉しいなぁ。あ、そうだ。
「ねぇユック。今の話だけど、気が向いたらいつでも言ってね。僕、友達の役に立てるならなんでもするよ」
ユックは嬉しくて言葉が見付からないようだね。パクパクっと口を動かして感動してるや。
「お前ら何騒いでんだ。外まで聞こえてんぞ」
窓からロイが入ってきた。するとずっとキョトンとしてたオルがベッドから降りて鍋を受け取って、下へ行く階段の横にある平らな出っ張りにそれを置いた。
ああ~、あそこ魔導コンロなんだ。にしてもずいぶん旧式だなぁ。動くのかなあれ。
「モーヘンドリアがよ、酒を飲んだらぶっ殺すけど紅茶なら許すって言ってたんだ。紅茶だぜ、すげぇよな。イコルアも飲むだろ?」
「うん。僕、紅茶大好きだよ」
同じ口が悪いロイでも、こっちはあんまりストレス溜まってなさそうだね。ま、それもそうか。石拾いのついでにしょっちゅうゼルカトマンドラゴラと遊んでたみたいだし。
二人の記憶データにロックはかけたけど、印象的だったことは覚えてるんだよね。他にもいつくか覚えてるけど、あんまり言わない方がいいのかな。さっきもユック怒ってたし。
干し肉からカニを千切り取りながらユックをチラ見。窓に腰掛けてむくれっ面で外の方を向いてる。
なんで怒ったのかわかんないけど、後で謝っとこう。怒った理由も聞かなくちゃだしね。
「ところで、皆はごはん食べた? あ、もしかして待っててくれ――」
「んなわけねぇだろ」
「何時だと思ってんだ」
ロイとオルが食い気味に否定。ユックは無視。
こういう気を使わない関係って最高だ。もうオルとも友達になってもいいかもね。
ま、でも今はごはん、ごはん、っと。
「いっただっきま~す!」
干し肉に戻ろうとじたじた動くカニを掴んで口に放り込む――直前、突如僕の上下に赤く揺らめく魔法陣が出現した。
『――よ。――えよ』
頭の中で声がする。誰かに喚ばれてるんだ。直ぐ様、上下の魔法陣を確認する。
「はわわわわ! 大変だ!」
慌てて皆の方を向いたら、いまいち状況がわからないのか、また僕が何かやってらって感じなのか呑気なもんだった。
「使い魔召喚の魔法陣だよこれ! 僕、どこかへ召喚されちゃうんだよ!!」
「「「なんだって!?」」」
そんな状況じゃないのに三人とも同じ表情になってて少しだけ可笑しい。
「え~っと、え~っと、魔法陣が上下に二つしか出てないからクランバイア系以外の召喚魔法なのは間違いないよ! それから、えっと、形が不安定だからたぶん学生に喚ばれてる! あ、使用文字がミコレジャン様式だからフルマトリローナか、カリアトストミラ系の魔法学校な気がする!」
「何言ってる!? どういうことだよ!?」
ロイが鍋をぶん回してお湯で魔法陣を消そうとしてくれる。でもそれじゃあ無理だよ。全部僕にかかっちゃった。気持ちは嬉しいんだけどね、ありがとう。
『――応えよ。――現せよ』
まずい。もう詠唱が終わっちゃう。拒絶しようにも魔力も精神力も足りなくて拒絶しきれない。仕方ない。賭けだ。オルとも強制連結して――ふぇ~ん、全然足りないよぉ。
「ど、どうしたオル!?」
ぶっ倒れたオルに気付いたロイがパニくってる。ごめん!
『我は――』
ああああ召喚されちゃう、ぶっ飛んじゃう! せっかくできた友達と離れ離れになっちゃうよ~!!
「探して! もうすぐ僕ここからいなくなっちゃうから探して!!」
「どこをだ!」
あれだけツンッてしてたユックも大声を出した。魔法陣に魔力を流して対抗してくれてるけど、向こうの方が遥かに多い強大な魔力を感じる。
「えと、聞こえてくる呪文にちょっと訛りがあるから……たぶん、アルフトラズマ大陸! の北の方!! 隣の大陸だからガルルイユ港から行けるんじゃないかな! わかんないけど!! 絶対に何においても先ずは僕を探してね!!! あとあと、僕の装備とか強制連結とかアルコルトルアとかフラテリス教の注意事項なんだけど――」
『汝の名はイコルア!!』
あぁぁぁぁぁ、名前を呼ばれちゃった。もうダメだぁぁぁぁ!!
「――それは頑張って僕から流れ込んだ記憶を思い出してへぇぇぇ~!」
言い終わるかどうかのタイミングで景色がシュパッと切り替わった。世界の景色がごちゃ混ぜになった魔空間回廊にだ。ドップラー効果のかかって聞こえる自分の声が反響しまくってて気持ちが悪い。
ちゃんと伝わったかな。また会えるかな。そんな心配と悲しみは、次に景色が切り替わると同時に激しい怒りへと変わった。
「や、やったぞ!! やったぞーーーー!!!」
僕は目の前で大喜びする男の顔面を全力でぶん殴ってやった。




