第15話 憧れのお泊まり
▼26.06.14誤字修正
▼26.06.21誤字修正
結局、僕がぎゃーぎゃー喚くからって夜に移動することになった。思ってたのと違うのは僕、ロイ、ユックは自分で飛んで、オルがユックに運ばれていること。
そういえば僕、目的地がどこか聞いてなかったんだよね。いや、本当はこれも坑道を歩いてる時に話題になってたらしいんだけど、僕が聞いてなかったみたい。
友達、友達ってうるさい僕をの言葉は適当に聞き流して、二人で色々決めたってんだからプンプンだよね。
で、今向かってるのは外国への船便が出てるガルルイユ港のある港町。大陸から突き出した半島の先っぽにある風光明媚な所らしい。ユックの隠し財産もそこで引き出せるから一石二鳥なんだってさ。外国はいいよね。大賛成だよ。
「ねぇ~、やっぱり僕が皆を運ぶよ。これじゃあ夜明けまでに港町に着かないよ~?」
「俺はこのままがいいぜ~!!」
ロイは初めての飛行でぎこちないとこはあるけど、自由に飛び回れることにずっと感動してる。今も空中一回転してひゃっほ~とか言ってるもん。
「別に夜明けまでにつかなくても問題ねぇだろ。お前ってけっこうビビりなのな。なっさけねぇな~」
ロイとは違うかたちだけど同じく空中散歩楽しんでるオルがドヤッてくる。
スリ常習犯だったオルにはわかんないだろうけど、僕は犯罪とは無縁の良識あるゴーレムなんだ。犯罪者認定されたくないにきまってるじゃん。
「俺は今すぐ降りて寝てぇんだがな……」
ユックはずっとあくびをしている。確かに今日は魔法を使ってばっかりだったもんね。適当に河の魔物を見繕って連結しようかな。そうやってユックの体力や魔力の底上げをしたら眠気も吹き飛ぶと思うんだ。
けど真っ暗な河を解析してみたら、ジーナスサーモンモドキとか黄色カミツキガメとかイロロギスライムっていう連結しがいのない雑魚魔物しか見つからなかった。しかもスライム以外は寄生虫もち。
「おい! 向こうの方に明かりが見えんぞ!」
がっかりしてたらロイが右前方を指差した。
確かにぽつぽつと明かりが見える。漁村とか集落があるのかも。
「あ~もう限界だ。ど田舎の馬房でも野宿でもかまわねぇから降りるぞ。こんだけ離れりゃもう疑われねぇよ」
誰の了承も得ずユックがふらふら明かりの方へ飛んでいく。ロイもそれについて行っちゃった。
「もう、だから僕が運ぶよって言ったのに!」
仕方ないから僕も行く。
明かりの正体は中洲に建てられた灯台だった。河に灯台なんて変なのって思ったけど、ジーナス河は海と見紛うほどの大河。中洲だってちょっとした小島くらいある。夜の河を渡る舟のために灯台の一つや二つ――実際には五つあるけど、それくらいあったっておかしくはない……のかもしれない。
「どうするの?」
「あそこでいいだろ」
ユックは一番近い灯台へ近付くと、光を発してるとこから一つ下の階、何もはめられていない窓から中へ入っていった。
微かにだけどユックの声で、拐われた子どもを故郷へ返す途中だとかなんとかって嘘八百が聞こえてきた。やたら丁寧な口調だし、心なしかさっきより良い声な気もする。もう逆に感心したよ。不良司祭、凄いね。
「俺たちもユックの真似すんぞ」
ロイが僕の後ろに来て脇の下に手を入れてきた。
僕が運ばれるってのがすご~く気に食わなかった。だけどロイは子どもの姿になれないもんね。ルトルとコルキスみたく一部の標準装備と固有スキルは連結スキルで選べないから。
「僕のことコルキスって言っちゃダメだよ」
「言わねぇよ。どっちの姿でもイコルアはイコルアだ。アホ丸出しのな」
「アホって言う方がアホなんだよ~だ」
べーってしたけどまったく相手にされず、僕は灯台の中へ連れていかれた。
「お前ぇさんもか!」
「ああ、一晩頼む」
窓をくぐった瞬間に灯台守のオジサンドワーフに声をかけられる。オジサンはユックの嘘を信じてて、あっさり僕らも受け入れてくれた。
服が全然違うのにロイのことも司祭だと思ってるみたいで「狭いとこですがゆっくり休んでってくだせぇ」とか「こんな小さな子どもを拐うなんて許せねぇですな」とか言ってヘコヘコしている。それからちょっとすると「あっしは寝ずの番なんで」と言って上の階へいった。
「俺たちはここを借りる。ロイとイコルアはそこで寝てくれ」
ユックが一つしかないベッドを確保しやがった。ここにソファなんてものはない。つまり「そこ」とはペラッペラのマットが敷かれた床のことだ。
「僕もベッドがいい」
「見てのとおり、俺とオルでギリギリだ。残念だったな」
「あ、兄貴がここで寝てくれ」
オルがベッドから飛び降りた。主張したのは僕なのに僕のことをガン無視だなんて失礼なやつだ。
「いや、オルが使え」
ロイはオルの頭を撫でてごろっと床に寝転がった。
「……えへへ。ありがう」
少し戸惑いながらも嬉しそうに笑ったオルがベッドに戻った時には、ユックはもう寝息を立てていた。やっぱりすごく疲れてたんだね。無理させちゃったかな。
「オル、ちょっとだけどいてくれる?」
「ああ!? ベッドはやらねぇぞ!」
相変わらず僕にだけガラが悪いな。さっき飛んでるときはユックにも懐き気味だったのにさ。まあいいけど。
「はいはい。盗ったりしないからどいたどいた」
オルはどいてくれたけど、疑いの眼差しを隠そうともしない。いつでもすぐベッドに飛び乗れる準備してるよ。
それを無視してルトルフレームになってユックを持ち上げる。はからずもお姫様抱っこみたくなったけど、ユックは既に爆睡でピクリとも動かない。本当、無理させちゃったなぁ。失敗失敗。
僕はできる限り優しくユックを床に寝かせ直した。
「は、はぁ? 何やってんだお前?」
オルが困惑顔だ。何がそんなに……当たり前のことじゃないか。
「僕は友達なのにユックだけベッド使うのが気に食わないだけだよ。ベッドはオル一人で使えばいいからね」
体を起こしてこっちを見てたロイも何故か呆れ顔になってたけど、すぐに小さく笑ってまた横になった。
「お前やっぱおかしいよ。普通疲れてる友達にベッドくらい譲るだろ」
「ロイと僕だって疲れてるよ。でも大丈夫。友達と一緒に寝れば疲れなんて吹き飛ぶからね」
僕はロイとユックの間に寝転んで目を閉じた。きちんとマットが三等分使えるように……あ、どうやっても無理だこれ。
「何ゴソゴソしてんだ」
眠そうな声のロイにだったけど、お願いして一旦、立ってもらった。ユックの下からマット引っ張り出すとき、ユックがちょっぴりカクンってなったけど起こさずに済んだ。
「さ、寝ようか」
マットを放り投げた僕を心底不思議そうな顔で見てたロイに微笑みかけて横になる。
「ロイ、早く早く」
小さく床を叩いてロイを促すとロイは何も言わず隣に横たわった。
えへへ、これってあれに似てるよね。友達のお家でお泊まり。憧れだったんだよなぁ。今日は良い夢見れそう。僕はあっという間に睡眠状態へ移行した。




