第3話 初めての馬車
とりあえず、ただ雷鳴のした方角へ歩く。
夕陽が眩しくなってくると、雷鳴のした方角から馬車がこちらに向かって走ってきた。馬車はマチルダの前で停まった。馬の手綱を握っていた男が下りて、マチルダと向き合うように立つ。その男が言う。
「王子様がお待ちです。さぁ、乗って。楽しい旅の始まりです」
マチルダは聞く。
「ここはどこなの?」
男は答える。
「クリームメロンソーダ王国です」
クリームメロンソーダ王国……。
マチルダは口の中で復唱しながら馬車に乗った。
馬車は砂丘から出発し、市街地に入った。暗くなってきた街は灯で明るさを保っている。
間もなく馬車の中の天井にも明かりがついた。
マチルダは車窓からレストランの中を覗く。大人も子供も関係なく、皆クリームメロンソーダを飲んでいる。
マチルダは馬車の中から男に自分から声をかけてみた。
「ねぇ、そこの貴男? 私、このままで良いの?」
男はちらりとこちらに振り向いてから言った。
「えぇ、そのままで結構だそうですよ。王子様は異国のファッションに興味がおありのようですから」
なぜか、男にはマチルダの声は聴こえるらしい。
本当に不思議な世界へ来てしまったんだなと、マチルダは思うのだった。
「でも、足の裏に砂が残っているのは気になるでしょう? 近くのシャワールームへご案内しますよ」
男は本当にシャワールームへ連れて行ってくれた。
「バスタオルとフェイスタオルは貸し出しているようですね」
「ちょっとシャワー浴びてくるわ。森で汗かいたし」
「いってらっしゃい。私はここで待っています」
マチルダは頭と体を洗った後、急いで足裏に付いた砂を洗い流した。完全に砂が足に残っていないことを確認すると、バスタオルで全身を拭いた。
それが終わるとフェイスタオルで顔と髪を拭いて。スキンケアとメイクをして、花柄のワンピースに着替えると、靴も履いた。
「お待たせ」
マチルダは再び馬車に乗る。
今度は馬の手綱を引く男のほうから声をかけてきた。
「私の名はスタグス。王家に仕える馬車使いだ。宜しく」
「私はマチルダよ。こちらこそ、宜しく」
馬車は街灯に照らされながら走る。
マチルダはうっとりした。この国の夜景のキレイさに、言葉がでないほどに。
「左側に見えるのは、ツインクロックタワーだ。右側にこれから見えてくるのは。アナザーの城砦だ」
「城砦ってことは、かつてこの国は他の国と戦争をしていたの?」
「それについては王子様のほうがお詳しいんじゃないでしょうかね。毎朝家庭教師が王子様に授業をしに来ているみたいなので」
馬の歩く速度が、次第にゆっくりになった、
「間もなく宮殿に着きます。旅の終わりです。お忘れ物なさいませんように」
「ありがとう。楽しかったわ」
マチルダを乗せた馬車は、ほどなく宮殿に着いた。
マチルダは再び例の本を取り出した。
クリームメロンソーダコードの文字列も、バーコードも、記号や番号も、もう光っていなかった。




