第八十八話
「うわっ!!?」
扉を開き中に入ろうと足を踏み入れた瞬間、廣谷に向かって”何か”が飛んできた。回避する間もなく”何か”は廣谷の真横、扉に突き刺さった。——矢だ。
攻撃されたと理解したと同時に、サギッタリウスがタウルスとレオと同類であることに気づく。自身の視界に映るモンスターがサギッタリウスなのだと、廣谷は察する。
――ケンタウロスだよな、アレ。……弓持ってるし……なんか神話にそういう奴がいた気が……。
「——ってそんなこと考えてる場合じゃない! いきなり攻撃するな、危ないだろ……!!!?」
『試練ですのでノーカンでは?』
「ノーカンじゃない! ……!? ちょっ、待て! 打つな!!」
空間の中心で弓を構え、攻撃を仕掛けたケンタウロス「サギッタリウス」。彼は頬を赤らめた状態で二発目、三発目と矢を廣谷に向かって放ち続けた。サギッタリウスの「試練」という言葉に、廣谷は今絶えず攻撃をされているのは試練だからと察することは出来たが、態勢や準備を整える為に廣谷はサギッタリウスに攻撃の手をやめるよう制止の声をあげた。しかしサギッタリウスは一切攻撃をやめることはなかった。
『止まれば即死! ドキドキしますね』
「ならやめろ!!!」
『ノンノン、これは恐怖ではなく興奮のドキ☆ドキです』
「やかましい!!!」
声を弾ませ呟かれた言葉に、廣谷は青筋を立て怒鳴り声をあげた。
――本当やかましい。何がドキ☆ドキだよ。腹立つ。
『ああそうだ。貴方達も、逃げないと私の矢に貫かれてしまいますよ?』
「はい? ――ッ!? シロさん避けて!!」
「わぉーん!!?」
『ぎゃーっ!! こっちも矢来たあ!!』
廣谷に向けて攻撃を続けていたはずのサギッタリウスが、突然何かを思い出したかのような素振りを見せた。かと思えば、弓を廣谷からスター達へ向け、「え?」とまさか巻き込まれるとは思っていなかった二匹に向かって矢を放った。矢が放たれる寸前、サギッタリウスの思惑にスターが気づいたことで、二匹はサギッタリウスの矢に貫かれることはなかった。
「わたくしが誰か理解しているはずでは? 何故攻撃を?」
矢を避けたあとスターは何故自分達も狙っているのか意味が分からないと言った様子でサギッタリウスに問いかけを行った。
『理解してますがそれはそれとして攻撃しない選択は私の常識にはありません』
「……………………廣谷様、彼は一体何を言っているのですか?」
「僕に聞くな……!!!」
問いかけの返事に、スターは疑問符で思考が埋め尽くされサギッタリウスの言葉が理解出来ないと廣谷に助けを求めた。だが助けを求められた所で廣谷もサギッタリウスの今の発言が理解出来ず、首を激しく横に振った。
『理解出来なくても結構です。……嫌、無理やりにでも理解させた方が後々役に立ちそうな気がしますね。それはそれとして……私に攻撃しないのですか?』
「話をコロコロ変えるな」
『変えていませんよ。先程の話はもう終わったことですから』
「勝手に終わらせるな」
「終わりにした覚えはありません」
『終わりました』
――なんなんだこいつ……。
突然話題を変えたことに廣谷は思わずサギッタリウスに突っ込みを入れた。するとサギッタリウスは先程の話題はもう終わったものだと迷いなく口にした。怒りを通り越し呆れかえるしかなかった。
廣谷はこれまでの一連を通しサギッタリウスに抱いた印象は――癖が強い。暫く頭の中に残ってしまうほどに。
――止まる様子はない……止めるか。
矢を避け続け数分後。廣谷は自らが行動しなければサギッタリウスは一向に攻撃をやめることはない――そう悟り、矢を避け続けるのをやめ反撃に出る。サギッタリウスの弓に向かって指差し、廣谷は『宣言』する。
「『宣言。君の弓は5秒後に壊れる』」
『……壊れた』
宣言通り5秒後にサギッタリウスが持っている弓がいきなりぼろぼろと崩れ壊れてしまった。屑となった弓だったものをサギッタリウスは呆然と見つめ、地面に捨て去ると……。
『では次は格闘ですね!!!』
——満面の笑みでファイティングポーズを取った。サギッタリウスの行動に廣谷は目を瞬かせたあと、呆れたようにため息をつき抑揚のない声で廣谷は不満を口にするのであった。
「止まれよ」




