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第八十七話

 げっそりとした顔つきで廣谷は来た道を走って戻っていた。地面に強く叩きつけられた体は、能力を使って治したので今廣谷の体はどこにも傷一つない。


――あーいやだいやだ……。うっ思い出しただけで吐き気が。


 スコルピウスの試練(死骸の処理)を思い出し廣谷は言葉に出さず不満を溢す。死骸処理時に嫌と言う程味わった死骸の臭いや、虫の臭い、地面が見えない程溢れかえった虫の光景を思い出し顔を青く染めた。

 背後からシロに乗ったスターが走る廣谷に向けて声をかける。


「待ってください」

「待たない」

「どうしてですか?」

「助けてくれなかっただろ」

「試練ですので」


 シロも走っているのに、廣谷との距離は一向に縮まらない。廣谷が自身を回復する際に加速もするよう能力を付与していたからだ。早くスコルピウスの所から離れたかったからだ。断じて試練の最中一切手を貸さなかったスターに怒っているわけではない。


「——はあ」


 そう、断じてスターに怒りを覚えているわけではない。廣谷が今スターに抱いている感情は「呆れ」だ。


 結局一度も廣谷はスターの言葉に従うことはないまま中央に戻る。そして休憩も取らずすぐさまⅨ——サギッタリウス(射手座)の通路を走っていく。


――スコルピウスは名前の通りだったけど……さ、サギッタリウス……言いにくいな。射手座は何になるんだ。流石に射手に見えるモンスターはいないだろ。……いないよな。


 弓を射る人(射手)。その名(?)を貰うのに相応しいのは人間であってモンスターではない。ただでさえ名前とモンスター関係性が結びつかないのに、射手なんてどう捉えればいいのか、どう関係性に結び付ければいいのか廣谷は分からない。それに、こうして考えた所で扉を開け、中に入れば正体が分かる為、思考する行為は完全に無駄なのだが、それでも廣谷は考えられずにいられない。考えたくなってしまう。スターに聞いても教えてはくれないので、この問題に対して全く役に立たない。そうこう考えている内に目の前に試練の扉が見え、廣谷は自身に付与した加速を解除する。


「わおーん」

『廣谷速いよ~!』

「ごめんごめん」

「虫のような速さ」

「虫の話はするな」

「トラウマにでもなりましたか?」

「いや??? 別に??? トラウマになってないけど」

「そうですか」


 置いていった二匹を扉の前で待ち、一分か二分後に二匹が廣谷の元へ合流を果たした。早いと文句をつけるシロを宥めていると、シロの上に乗っているスターが、悪気があるのかないのか分からない声色で廣谷の速さを虫のようだ、と口にした。スコルピウスの件で虫に嫌気がさしている廣谷はスターのその発言を聞き、顔をこれでもかと顰めた。それからスターの煽りにも取れるような言葉に「そんなわけない」と平然を装いながら否定した。——トラウマになるわけがない。と自身に言い聞かせ。


 首を横に振り虫を思考から消し去り、一息ついたあと廣谷は扉に手をかけ二匹に目配せを行う。


「……開けるぞ」

「はい」

「わん」

『はーい!』


 準備完了の声を聞き、Ⅸ『サギッタリウス(射手座)』の扉をゆっくりと開くのだった。

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