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第八十九話

 出会ってから一度も人の話を聞かないサギッタリウス。「止まれよ」と不満を言葉にした所でサギッタリウスは止まらない。それで止まるのならば最初から行動を停止させるはずだ。シュッシュッと拳を何度も突き出し、カツンカツンと踵を鳴らし興奮している彼に廣谷は「はあああ」とため息を吐き額を手で押さえた。


――リナは、どうやってこいつを手懐けたんだ……。


 好戦的で話を聞かないモンスター。それをダンジョンマスターになる為の試練の一つとして設置している。一体何をどうやって言うことを聞くように躾けたのか物凄く疑問に思ってしまった。

 

『来ないのですか? では私から行きますね!!』

「来るな……」

――来るよな……知ってた。


 準備を終えたのか素振りをやめたサギッタリウスは、意気込みをしたあと比較的距離が短い方にいる廣谷に向かって走ってきた。自分の方に向かってきそうと予想していた廣谷は、予想通り一直線に向かってきたサギッタリウスに向かって淡々と宣言する。


――無理やり止めるにはこれしかない。

「『宣言。君は僕の目の前で眠りにつく』」

『お!! またさっきの力を使うんですね!! でも私は眠りませんよ!!』


 秒数指定なしの宣言。だが場所を指定したので効果はあるだろうと確信をもって廣谷はそう宣言した。むしろ効果がないとサギッタリウスの攻撃をもろに受けてしまう可能性があるので、廣谷はどうかこの指定でも効果があってくれと願うばかり。そんな不安は杞憂で終わったけれど。


『すやぁ』


 自信満々に廣谷の力に対抗できると高を括ったサギッタリウスは、一秒も力に抗うことも出来ず呆気なく眠りについた。走っていた状態で眠りについたので、サギッタリウスは地面に滑り込む形で地面へと倒れ伏す。寸前で廣谷はサギッタリウスから距離を取り、ズサササササと体と地面の擦れる音と光景を目にし、当事者でもないのに廣谷は痛みを想像しゾッと顔を顰めた。


「うわ……痛そう……」

「そうさせた本人がそれを言うのですね」

「僕は眠らせただけ、傷つけるつもりは…………あんまりなかった」

「最後の方聞き取れませんでした。何を言いました?」

「気にするな」


 倒れ伏したサギッタリウスを見て、廣谷は思ったことを素直に口にした。それは独り言のようなもので回答は特に欲しかったわけではないが、スターが廣谷の独り言を拾ってしまった。スター達とは少し距離がある為聞こえないだろうと思っていた廣谷は、少し気まずそうに言葉を発す。発言途中の傷つけるつもりは――までははっきりとスター達にも聞こえるように声を大きくしていたが、あんまりなかった。の辺りは気まずさと傷つけるつもりは100%なかったとは言えないので小声で呟いた。それからもう一度最後の部分を答えてほしいと要求するスターに首を横に振り拒否した。


 スター達からサギッタリウスに廣谷は視線を向け眠っているのをいいことに廣谷はサギッタリウスの体をじろじろと観察する。


「……ぐっすり眠ってる。……あ、傷ついてる……治しておくか……」


 観察し彼の体に擦り傷が複数で出来ているのを確認した廣谷は罪悪感に包まれ、申し訳なさそうに彼の傷を癒した。


――これで試練が終わるといいんだけどな。


 先程までの行為で得たサギッタリウスの性格を思い出し廣谷は物凄く、これでもかと試練が終わりますように。と願った。

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