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【連載】確かに、私たちは婚約しておりますが。  作者: ククリ


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十二話 改めて素敵なプロポーズをしましょう

 卒業パーティーのプログラムでは、ワルツから始まったこのダンスの時間は十五分ほどで終わり、その後は閉幕となる。


 ロアナは、アレキサンダーの忘れられないプロポーズを実現させるために、この二ヶ月まるまる使って一人奔走した。

 まず、卒業パーティーの会場で立ち入って良い場所はどこまでなのかをイザベラに確認してもらった。結果としては、防犯の関係上大広間から外に出ても良いとされていたのは五つあるバルコニーと化粧室と休憩室二部屋だけであった。それを聞いて、ロアナはごく当たり前に納得して次の案に移った。そもそも大広間を借りられると思ったアレキサンダーの常識が規格外だっただけで、一般人からすれば『それは、そう』という話である。アレキサンダーと違って気軽に王城へ下見に行くこともできず、当日閉幕直前に空いているバルコニーをどうにか見つけるか、ダメなら諦めて別のシチュエーションに持っていくしかないと考えていた。その後に控えている十ヶ条の最後を考えると、バルコニーが最適解なのだがこればかりはどうしようもなかった。

 そんな悩んでいたロアナに声をかけてくれたのが、ローズガーデン侯爵令嬢だった。あの一件からイザベラと仲良くなったローズガーデン侯爵令嬢に、寮部屋で毎夜頭を捻らせているロアナを見かねたイザベラが気を利かせてそれとなく相談したのだ。


『今回の会場にはね、とっておきのバルコニーがあるの』


 王城と貴族たちの嗜みに精通した彼女が教えてくれたのは、大広間の玉座から一番近い西側のバルコニーだった。そこは、昔からそういった恋人たちのために、ダンスが終わった後は使わずに空けておくという伝統があるのだそうだ。これはどんなパーティーであっても例外なく守られており、卒業パーティーでは毎年必ず誰かが使っているそうだ。


『知りませんでした』


『この話は、そこでプロポーズされた者が次の人に伝えていくお話ですのよ』


 そう可愛らしく笑ったローズガーデン侯爵令嬢をロアナは思い出しながら、満を持して挑もうとしたプロポーズが隣国の騒動で全てが水の泡になるところだったことに一瞬身震いした。まだ大団円を迎えていないのだが、ここ最近の苦労や心労を考えると、今アレキサンダーが隣に立っているのがエンディングでいいようにさえ思えた。


(でも、最高のエンディングをアレクが望んでいるんだもの……頑張らなくちゃ)


 ダンスを踊り終え、自然と皆が拍手をしてクライマックスへ雰囲気が高まっていた。ロアナとのダンスで胸がいっぱいになっているアレキサンダーの手を引いて、親しくした者たちへ挨拶をして回っている卒業生たちの間を縫っていく。教えてもらったバルコニーは、まだ誰にも使われていなかった。

 そっと二人でそこへ滑り込むと、窓際に立っていた警備のための騎士がサッと重たいカーテンを閉じて、二人の姿を隠してくれた。そのバルコニーは月明かりで照らされて、手すりには色とりどりの花が美しく飾られていた。ロアナは、王城の粋な計らいに驚きながら、その伝統が守られ続けている意味を理解した。


「ロアナ?」


「『俺の嫁』だって言われて驚いたけどね……今は、相手がアレクで良かったと思ってるわ」


 何を伝えれば一番良いのか分からないから、この二ヶ月ロアナはプロポーズの言葉を考え続けていた。どんな言葉が一番喜んでもらえるのか、そんな単純なことさえ分からない程度の付き合いでしかなかった。けれど、彼はそんなことは考えずに、ありのままの気持ちをロアナにぶつけ続けてきた。ロアナの好きな物や好きなことを知っているのに、自分の好きな言葉や物でロアナを飾っていく。彼の中に引き算は無いのだろうな、とロアナは気が付いた。全部全部足していくのなら、いつかロアナを全部差し出せた時に、二度と心が独りぼっちにならないように二人で一つになれないだろうかと願った。ロアナがアレキサンダーにそう願った時点で、ロアナの心の片隅で寂しくて泣いていたあの日の幼いロアナは泣き止んでいたのだろう。


「四歳の時に、君の話を聞かされた時から、俺はずっと君に夢中なんだ」


「だから、私が……初恋?」


「そうだ」


 ロアナは、十歳の頃の自分に言ってあげたかった。

 恋をしていたのだ、きっと。

 そうでなければ、彼と一度も廊下ですれ違わない事や、クラスが同じにならない事、両親が頑なにこの婚約について話してこなかった事、それら全てに気がついていた自分に説明がつかなかった。

 興味のない振りをして視界から無理やり追い出した男の子は、ずっと自分を見つめ続けてくれていたのだ。こんな臆病だった自分を、ずっと待ってくれていた。

 ロアナは幸せそうなアレキサンダーを見つめながら、胸元のポケットから一対の結婚指輪を取り出した。言葉は無くとも、スッと一つ指輪を右手で差し出せばアレキサンダーは丁寧にそれを受け取り、とても大切そうにロアナの右手の薬指に飾った。

 その優しいアレキサンダーの所作に、これからの未来が容易に想像できて、ロアナの瞳から涙が一筋溢れた。その涙を拭ってくれた大きな右手を取って、大切に大切に結婚指輪を飾った。


「私の初恋、もらってくださる?」


 一生懸命考えたセリフは、少し震えてしまった。


「本当に、君を好きで良かった」


 そう笑ってアレキサンダーは、ロアナを力一杯抱きしめた。


「俺の全部をあげるから、君の全部が欲しい」


「……ちょっとずつで良い?」


 その時、夜空に華やかな花火が上がった。


「最高」


 そう言って、アレキサンダーが声を立てて笑ったのだった。





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