十三話 結婚の報告をしましょう
まだバルコニーを使う人がいてはいけないとのことで、花火を数発見届けると、二人はバルコニーから大広間へ戻ってきた。そんな二人を、待ち構えていたかのように王太子とローズガーデン侯爵令嬢が出迎えた。
戻る道すがら、ロアナは胸の奥がじんわりと熱を帯びているのを感じていた。夜空に咲いた光の名残が、まだ瞼の裏に焼きついて離れない。隣を歩くアレキサンダーの体温と、先ほどまで握られていた手の感触が、現実なのだと静かに教えてくれていた。
「俺からのサプライズはどうだった?」
「一生の思い出になりました」
そう答えたアレキサンダーに、王太子はいたずらが成功した子どものように笑った。
まだ花火は終わっていなかったが、皆の視線がそちらへ向いているうちにと、ロアナは居住まいを正した。胸の高鳴りは収まらない。それでも、今日という日を曖昧なまま終わらせたくはなかった。喜びも、不安も、これから背負う責任も、すべて抱えて前に立つのだと決めていた。
そっと息を整え、微笑む。指先がわずかに震えていることには、誰も気づかなかった。
「改めてご挨拶申し上げます。長い婚約期間を経て、私の十八歳の成人をもって婚姻いたしました。ジャックロード辺境伯家次男アレキサンダーを婿に迎えました、フォーリオ伯爵家長女ロアナと申します」
言い終えた瞬間、胸の奥に張りつめていた糸がふっとほどけた。やっと言えた――その安堵に、思わず目元がやわらぐ。
「やっと聞けたな! 結婚おめでとう、二人とも」
「私からも、ご結婚おめでとうございます」
アレキサンダーとともに最上級の礼をすると、王太子とその婚約者は本当に嬉しそうに手を叩いて喜んだ。
「結婚おめでとう、ロアナ!」
「ありがとう、イザベラ」
声をかける機会を見計らっていたイザベラが、泣きながらロアナに抱きついた。
親友のぬくもりを抱き返しながら、ロアナの胸にも熱いものが込み上げる。学園で過ごした日々、何気ない会話、励まし合った時間――それらが一息に思い返され、危うく涙がこぼれそうになった。だが今日は泣き顔より、笑顔でいたかった。
気がつけば、花火はすべて打ち上がっていたようで、広間へ戻ってきていた関係者たちからも祝福の拍手が送られていた。その中には、学園の教師たちや、アレキサンダーとロアナの両親たちの姿もあった。
見慣れた顔ぶれを見つけるたび、ロアナは胸の内でそっと感謝を重ねる。ここまで来るまで、決して平坦な道ではなかった。それでも今、自分は幸福のただ中にいる。
「アレク、ご両親に紹介していただける?」
「もちろんだ」
「また『俺の嫁』って抱き上げないでね?」
「どうかな」
呆れたように言いながらも、ロアナの声は弾んでいた。隠しきれぬ嬉しさが頬に滲み、瞳にはやわらかな光が宿っている。
楽しそうに笑うロアナを、アレキサンダーは幸せそうにエスコートして連れて行く。
そんな若い夫婦を、いつまでも温かな祝福の拍手が包んでいた。




