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エルフ少女の探しもの  作者: 紅茶


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中編:古き守護者

 一週間後。

 どんよりとした曇り空の下、王都の冒険者ギルド前で一行は合流した。


「おいおい……冗談だろ、嬢ちゃん。お前、一週間猶予があって、装備はそれだけか?」


 『鋼の暁』の重装甲兵ガストンは、呆れ果てたような声を上げた。

 彼の全身は分厚い超硬合金の鎧で覆われ、左腕には展開式の巨大な機械盾シールドが装備されている。隣に立つ狙撃手のシエラも、自身の身長ほどもある大口径の対装甲狙撃銃を持参し、弾薬袋をいくつも腰に下げていた。


 Sランク冒険者である彼らでさえ、Bランクダンジョンへ挑むとなればこれほどの重装備を要求されるのだ。


 対して、少女――エルミナと名乗った彼女は、一週間前と全く同じ灰色の外套に帽子という出で立ちだった。


 唯一変わった点と言えば、腰に一本の「小ぶりな刀」を提げていることくらいだ。機械的な仕掛けも、圧搾チューブも何もない、ただの薄っぺらい鉄の板にしか見えない古臭い武器。


「ええ、これだけです」


 エルミナは腰の刀をポンと叩き、飄々とした態度で答えた。


「……そんなおもちゃみたいな刀で、機獣の装甲が斬れるわけねえだろうが! 俺が言ってるのはな――」


「よし、やめろガストン」


 文句を言い募ろうとするガストンを、リーダーのヴォルフが片手で制した。


「本人がこれでいいと言っているんだ。実際に危険な目に遭えば、俺たちの言葉の意味も理解するだろう。彼女の護衛は俺がメインでやる。行くぞ」


 ヴォルフの言葉に、仲間たちは渋々引き下がる。

 エルミナは静かに「よろしくお願いします」とだけ言い、彼らの後に続いた。


 王都から装甲車に揺られること数時間。


 彼らはBランクダンジョン『大断層・機獣の墓標』へと到着した。

 大地がパックリと割れた巨大な亀裂の底に、そのダンジョンの入り口は存在した。

 内部は、太古の昔に打ち捨てられた巨大な地下工廠のようだった。錆びついた鉄骨がむき出しになり、そこかしこに這い回る太い排気ダクトからは、今も得体の知れない蒸気がシューシューと噴き出している。


 油と鉄の匂いが鼻を突く、暗く冷たい迷宮だ。


「いいかエルミナ。俺の背中から絶対に離れるなよ。はぐれたら命はないと思え」


 ヴォルフが背中の機械大剣の安全装置を外し、エンジンをアイドリング状態にさせながら警告する。


「はい」


 エルミナは短く返事をしたが、その足取りはピクニックにでも来たかのように軽い。

 一行は警戒を厳重にしながら、第一層のメイン通路を進んでいく。

 しかし、数百メートルも進まないうちに、エルミナはふいっと列を離れ、薄暗い脇道へとズカズカと歩いていってしまった。


「おい、ちょっと! そっちは行き止まりだぞ!」


 ヴォルフが慌てて声をかける。ギルドの事前情報によれば、その脇道は崩落で完全に塞がれているはずだった。


「これでいいんです」


 エルミナは行き止まりの岩肌の前に立つと、手袋を外し、その表面をペタペタと触り始めた。

 何かを探るような、岩の脈動を確かめるような奇妙な仕草。


「ほら、やっぱり行き止まりじゃないか。大人しく戻って――」


 ガストンが呆れ顔で言いかけた、その時。


 ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 ダンジョン全体を揺るがすような重い地鳴りが響いた。

 冒険者たちが慌てて武器を構えると、エルミナが触れていたただの岩肌が、まるでパズルが解かれるように複雑にスライドし、奥へと続く巨大な隠し通路を形成したのだ。


「な、なんだと……!?」


「機械式の隠し扉……!? いや、スイッチも動力線もなかったぞ!」


 歴戦の冒険者である彼らでさえ、かつて見たことのない現象に息を呑んだ。

 エルミナだけは、開かれた暗闇に向かって満足げに頷く。


「奥に進みますよ」


 彼女は呆然とするヴォルフたちを置いて、さっさと隠し通路の奥へと歩き出した。

 慌てて後を追う一行。

 薄暗い通路を抜けた先。

 そこに広がっていた光景に、彼らは再び言葉を失った。


「嘘だろ……」


 ヴォルフがうめくように呟く。

 地下深くの閉鎖空間にいるはずなのに、彼らの頭上にはどこまでも高く澄み切った『青空』が広がっていた。

 足元には一面の緑の草原が風に揺れている。

 ダンジョン深部特有の、空間の次元が歪み、内部構造と外観が完全に矛盾する超常現象。その存在は噂にしか聞いたことがなかった。

 そして、その広大な草原の中心に、ポツンと石の台座があった。

 そこに、一振りの『剣』が深々と突き刺さっている。


 機械仕掛けの武器が主流のこの世界において、それは異質すぎるほどに洗練された、純粋な鋼の剣だった。


 長い年月が経っているはずなのに、刃は錆びるどころか星の光のように白く輝き、神々しいまでのオーラを放っている。


「まさか……古代の遺物アーティファクトか……!?」


「伝説の剣だ! あんなもの、ギルドに持ち帰れば国が買えるぞ!」


 ガストンとシエラが興奮して身を乗り出す。

 しかし、彼らが台座に向かって一歩を踏み出そうとした瞬間。

 上空の太陽を覆い隠すほどの、巨大な影が草原に落ちた。


『GYYYRRRROOOOOOOOOOッッ!!!』


 大気を震わせる絶叫と共に、空から舞い降りたのは、この次元空間の主だった。

 全長三十メートルはあろうかという巨体。全身を覆う鱗は、まるで磨き上げられたミスリルのように鈍い金属光沢を放っている。四本の逞しい脚と、城壁すら粉砕しそうな太い尻尾。

 古い伝承にのみ語られる、最強にして最悪の幻想生物。


「ド、ドラゴン……!? 馬鹿な、完全に絶滅したはずじゃ……!」


「迎撃態勢! 散開しろ!!」


 ヴォルフの叫び声で、パーティは一瞬にして臨戦態勢に入った。

 ドラゴンが巨体を揺らして着地した衝撃で、草原が爆発したように吹き飛ぶ。


「シエラ、目を狙え! ガストン、俺と前衛を張るぞ!」


 シエラが対装甲狙撃銃を構え、轟音と共に徹甲弾を放つ。

 しかし、重戦車の装甲すら貫くその銃弾は、ドラゴンの眼球を覆う透明な瞬膜に弾かれ、空しく火花を散らすだけだった。


「嘘でしょ、徹甲弾が効かない!?」


 ドラゴンが苛立ちの咆哮を上げ、巨大な前足をガストンに向かって振り下ろす。


「舐めるなァァッ!」


 ガストンが機械盾の圧搾ガスをフル稼働させ、受け止める構えをとる。

 凄まじい激突音。だが、超硬合金の盾は紙くずのようにひしゃげ、ガストンは数十メートル後方へと吹き飛ばされた。


「ガストン!」


 ヴォルフが背中の機械大剣のエンジンを全開にする。

 ギュオオオオオッ! というタービン音と共に、刀身が赤熱し、超振動を始める。


「おおおおおっ!」


 ヴォルフはドラゴンの懐に飛び込み、渾身の力で赤熱した大剣を横薙ぎに振り抜いた。

 しかし、刃が鋼鉄の鱗に触れた瞬間、ガキンッ! という甲高い音と共に、ヴォルフの大剣の刀身が根元から真っ二つにへし折れてしまった。


「なっ……!」


 絶望が、ヴォルフの脳裏をよぎった。

 機械文明の粋を集めた彼らの武器が、何一つ通用しない。これが、純粋な太古の力。

 一瞬の判断の迷い。それが命取りだった。

 武器を失い、硬直したヴォルフの頭上へ、ドラゴンが巨大な尻尾を大木のように振りかぶった。

 回避は不可能。直撃すれば、肉片すら残らない。


「しまった――!」


 ヴォルフが死を覚悟し、強く目を閉じた、その時だった。

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