泉埜 情。
目が覚めたら……そこには、知らない天井があった。
「コヒュー…………コヒュー…………。」
……ん……いや……天井っていうには、なんか……。
なんか……天井っぽくない、っていうか……。
…………目が、ポヤポヤして…………。
「コヒュー…………コヒュー…………。」
変な音も聞こえる…………。
何が……あったんだっけ……。
……………………。
…………ん…………?
声が……うまく出せない……。
それに…………なんだかくるしい…………。
「コヒュー…………コヒュー…………。」
…………寝起きだからかな…………。
……………………起きなきゃ……。
「コヒュー…………コヒュー…………」
…………あれ…………?
……体も、動かない……………………?
「おはよう」
……? 室長の……声…………?
ここは……? どこ……?
僕…………なんで…………。
「今、意識を失った君の脳にデータを送っている」
…………? 何…………? 何が…………。
「脳波の正常化を確認。おはよう」
「え…………?」
何日も寝ていないみたいなぐったりとした頭を、急に取り付けられたみたい。
おもったい……目開けるの……。
「…………。」
ぼやっ……っと真っ白い天井が見える……。
あっ……。
口に、息するためのマスクみたいなやつがついてる……。
「コヒュー…………コヒュー…………」
あぁ……この変な音は、僕が出してたんだ……。
「おはよう、泉埜 情君」
「…………しづ…………ぢょう”……?」
わっ声がガラガラしてる……。
恥ずかしぃ……それに今気付いたけど、僕はだかんぼだ……。
病院とかにある白くて薄いシーツみたいなのは被せてあるけど……。
「記憶があるようで何よりだ。ここはラボ内“一番綺麗にされたラーメンの器”、通称“綺ラ器”。寝起きですまないが聞いてくれ」
僕はコクコクと、小さく首を縦に振った。
室長は一回小さく息を吸うと、話を始めた。
「まずだ、君の身体の損傷は激しかった。背中の中だけではなく、背骨や臓器に至るまでかなりのダメージを負っていた。君が死亡していなかったのは、バイオウドの黒い液体が君の背中に付着していたことが大きい」
黒い……? いつついたんだろう……。
「成分分析の結果、君がつけられた黒い液体は身体に染み込み鮮度を落とさないまま保存するための麻酔のようなものだった。あのバイオウドは獲物を事切れる寸前まで痛めつけた後、黒い液体をかけて長期保存するのが目的だったのだろう」
「あ……」
「どうした」
「い”ぐざ…………と……とごやず…………あ”……」
「安心しろ、二人は無事だ。二人についた液体も麻酔のようなものだったが、すでに除去した。元々人体を長持ちさせるため、生きながらえさせるためのものだ。健康な人間にとってそこまでの害はない。守人の背中の傷は、まだ癒えきってはいないがな」
「そぅ……ですあ”……」
「話を戻すが、君の身体の損傷は激しかった。極めて激しかった。特に背骨。まともな生活はまず送れない。一生車椅子での生活が関の山だった」
「…………………………。」
そっか……じゃあ僕は……ずっと…………。
せっかくみんなと会えたのにな……。
こんなに優しい人たちと…………。
もう…………お別れか…………。
「故に少し、無茶をした」
「?」
「君の身体に、現場に残っていたバイオウド。その腕を移植した」
「!?」
え…………? うで……を……?
なんで…………?
「バイオウドの腕、それを君の背骨へと加工して移植した。出来た理由は二つ。一つは君の身体に、バイオウド由来の黒い液体が染み込んでいたこと。それは麻酔の役目を果たし、拒否反応を出さない明確な理由となった」
せぼねに…………うで…………??
「二つ目は、君がest隊であった事。est隊は機密組織、所属した者は入隊した時点で死亡扱いだ。他の職員などと違ってな。それ故、本来許される事のない非人道的なこの行為を君の確認なく迅速に行うことができた。君の命が尽きる前にな」
「…………。」
ぼく、しぼうあつかいなんだ……。
初めて知った……。
「現在、君の体は背骨から右上腕にかけてバイオウド由来の人工生体となっている。それを念頭に置いて、これからは生活してくれ。と言っても、特段気をつけることはない。先程測定した脳波が君の上腕部分からも一つ確認されたくらいだ」
「ぞゔ…………ですあ”…………」
「…………………………。」
「…………え?」
あれ……? 僕の聞き間違い…………かな……。
みぎじょうわんにのうはがひとつ…………?
「み”ぎ…………じょゔわ”ん”に”…………?」
「あぁ、右上腕に一つだ。おそらく背骨という巨大な神経伝達の基盤となっていたものの代わりとして、脳から全身に信号を送るようになった際、君の中の様々な情報が、脳から新たな背骨へと伝達された。情報を伝達された新たな背骨は脳へ吸い付くように繋がり、短時間、君の脳と新たな背骨は一つとなった。新たな背骨が、ほんの少しの間君の脳の一部となったのだ」
? ん? ????????
「そして、新たな背骨が背骨として安定し、接続が切れると同時に。それは君の中の記憶や意識を持ったもう一つの存在として君の身体に残った。完璧な脳、と言うわけではないが。取り除くことはできないので、今後はそれと共に生活してくれ」
え…………?
「さて、これからだが。体調を見ながら少しづつ固形食へと変更していき……」
いやもっと聞きたいことあるっ!
でもうまく声出ないよっ!!
長く話すの辛いよっ!!
「今はゆっくり休むといい。まだ初仕事までは、多少ではあるが時間はある」
そうだけどそうじゃないよ!
もっとこう! なんか!
「あ”の”…………じづぢょ…………」
「あぁ、すまない。私がいては休めるものも休めないな。失礼した。すぐに出ていくとしよう」
なっ! 違あぁ〜〜〜うっ!!
もっと話をして〜〜〜〜〜っ!??
「ま”…………っで…………」
「? ……! あぁなるほど。次の案件だが……」
違ううううううううっ!!!!!
「おそらくhigherが関わっている案件だ。十分注意するといい」
え!? いきなりhigher!??
僕たちまだひよこもひよこなのに…………。
それだけest隊が厳しいって事だよね…………。
……そうじゃなくて! 室長!
あれ? 室長? 室長!?
室長……僕が違うこと考えてる間に外出ちゃった……。
なんなのぉ!? 僕の背中どうなってるのぉ!??
上腕に脳波って何ぃ!?? どういう状況なのぉ!?
教えてよぉおおおおおぉぉぉっ!??
ねぇ! 誰か!?
だれかぁ〜!??
それから十数分。
声は出せないし体も痛いし。
どこか動かせるわけでもなかったので。
僕は諦めて。
寝た。




