バイオウド。
「エスト……それはバイオウドの最高位。単独で災害級の被害を出し、それを討伐するために数多くの人間が犠牲となった」
みんな、静かにその話に耳を傾けていた。
それはきっと、みんながここにいる理由にも……少しくらいは、関係している気がする……。
だから僕も、いつもより真剣に、その話を聞く。
「先ほど私が話したバイオウドのことを覚えているな?」
「は、はい……」
室長に質問を投げかけられた柊さんは、その質問に、恐る恐る答えた。
「バイオウド“エスト”『裸体』。一切の衣服を身につけていないの女子高生であり、人目の有無や場所、時間帯などに関わらず捕食行為を行っていた」
室長は、身長差が三十センチくらいある柊さんを見下ろしながら続ける。
「そして何より、エストととしても、バイオウドとしても、かなり異質な生態をしていた」
多分室長からしてみれば、柊さんにだけ話しているような感覚なのだろう。
それはそうだ、だってそうやって始まった会話なんだから。
「通常、バイオウドとは強者となればなるほど戦闘時の姿は人間離れして行く。だが『裸体』は違った」
室長は話しながら徐に白衣のポケットに手を入れた。
「彼女は人間の姿のまま、一切姿を変える事なく戦闘、捕食を行っていた。戦闘方法は拳や肘での殴打や両脚から繰り出す蹴り、そして締め技などの、武器を持たぬ人間でもできるような攻撃のみ」
そうしてポケットの中を弄ると、目当ての物を見つけたのかそれをポケットから取り出す。
「他に確認されているエストと違い、範囲のある攻撃はできないバイオウドだった。とても大規模な討伐作戦が行われた時も、それは同様だった」
取り出されたのは一枚のカードのようなもの。
光っ……てる……?
「だが、それでも前述の通り数多の犠牲者を出した。バターは、有望な職員を多く失い、また大きな損失を出したのだ。……その頃はまだ、職員、バイオウド共々、estという階級が存在しなかった」
室長はそのカードを持ったまま、さっき紹介されたバイオウドで作られた武器。
それが収納された場所へと近づいて行く。
「だが、もしあったとして、戦いの結果は変わらなかったかもしれない。死亡した職員は皆、その階級にしてはおかしい実力をしていたものたちばかりだったからな。特に死亡したハイエスト五名の内二名は、今であればestであってもおかしくないほどの実力があった……」
「……………………。」
少しの沈黙が流れる。
「そこにいる隊長の友人も、複数いた」
室長が人差し指だけを動かしてその人を指す。
「え……?」
柊さんが小さく驚いた声を出して室長がその人の方を見た。
僕たちも、その方向を見た。
そこには、
余計なことは言わなくていい。
とでも言いたげな顔をした残陽隊長の姿があった。
「余計なことは言わなくていい」
言った。
「そうか……ん? そういえば話がズレたな初めは何の話しを……」
「……あの……」
柊さんが、小さく手を上げながら申し訳なさそうに室長へと声をかけた。
「なんだね……あぁ、そういえば武器の……」
「あ、あの…………違くて……ですね……」
「?」
「そ、その…………結果は…………?」
多分柊さんが聞きたいのは、討伐作戦の結果の事だ。
確かに……失敗とも成功とも言われていない……。
僕も気になる。
「……あぁ、そうか。そうだったな。結果だが……」
室長は手に持ったカードを、何か、白い箱についた挿入口に挿入しながら答える。
「失敗した」
室長は、表情一つ変えずにそういった。
でもすぐ新しい言葉を付け加える。
「だが無駄死にではなかった。作戦は失敗したが、結果その“エスト体”は討伐されたのだからな。そして……」
室長はカードを挿入した白い箱を開きながら続けた。
「これがバイオウド“エスト”『裸体』から作った…………」
みんな、開かれた箱の中を見て目を丸くした。
師にいたっては、手を口に当てて驚愕の目を向けている。
「AI思考型独立戦闘兵器『裸の偶像麺』だ」
そこには、目を閉じた女の子が収められていた。
裸の。
腰まで伸びたサラサラとした長い黒髪が、雪のような白く柔らかそうな艶のある肌を包み、神々しいまでのコントラストを生み出している。
眠っているだけ。
そう言われても信じてしまうほどに、血色も良く、生気が漂っている。
まるで今にも目を開けて、笑いかけてきそうだ。
「こ、これが……武器……!?」
大きく目を見開いたみらちゃんが、驚愕の声を上げた。
僕は、あまり見られない。
きっと見ても誰も何も言わないんだろうけど……。
なんか……よくない気がして……。
「討伐の後、貴重なサンプルとして元の形のまま武器とした」
女子校生と言っていたし、多分僕より年下だ。
そんな子が、急に知らない大人たちに寄ってたかって攻撃され。
結果、殺された。
でも、それはこの子に殺された人たちも、殺された人たちを大切に思っていた人たちも同じなのだろう。
普通の毎日を送っていたはずなのに、いきなりそれを奪われる。
いや、きっとこの子の方がよくないのだろう。
それでも僕は、可哀想だなと思った。
もしかしたら、人を遊び半分で殺したり、人を殺して楽しむような子だったのかもしれない。
それでも僕は……。
……“バイオウド”って、なんだろう……。
バイオウドの幸せって、僕たちとおんなじなのかな……。
何のために、何を目指して生きているんだろう……。
……………………。
……でもそれは、僕も同じだ……。
僕には……目標がない……。
多分、ここにいるみんなと違って……。
「これを見せたのは、これがここにある。ということを伝えておきたかったからだ」
室長はそう告げると、開かれた箱の扉を閉めた。
閉めてから、柊さんに向き直った。
「武器の話が聞きたいのならいつでもここへ来るといい。“誰か”はいるはずだ。覚悟と自覚、そして罪悪感があるのなら、な」
室長は軽く手を持ち上げると、柊さんの頭を軽く撫でた。
まるで子供を諌めるように。
柊さんは僕たちといた時のオドオドとした目とは違う、キラキラとした瞳で室長の顔を見上げた。
柊さんがかけているメガネまで、輝いているように感じる。
「因みに、もうすでに身体検査は終わっている」
「早く言え」
室長が残陽隊長に蹴られた。




