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バイオウド!  作者: 咲作桜裂柵炸狂羅(さくさくさくさくさくさくら)


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lower。

 ピピピピッ……ピピピピッ……ピピピピッ……。


 無機質な電子音がこだまする部屋の中で、女性の目が覚める。


 女性はキャミソール型の薄いシャツと、真っ白な下着だけをつけた状態で、目覚まし時計のボタンをバシッと叩いた。


 周囲には、昨日着ていたであろうスーツが脱ぎ捨てられている。


「朝やー……朝嫌や〜〜……」


 女性は、自身が体を預けているクッションの群れの中の一体に顔を突っ込むと、うむうむと唸り出す。


 そのまましばらく唸っていたが、観念したのか大きくため息を吐き、意を決したように勢いよく飛び起きた。


「うあ〜〜! 会社〜〜〜!」


 飛び起きた女性は、裸足の足でわざとペタペタ音を立てながら家の中を進んでいく。


 目的地は洗面台だ。


 そこでうがい、手洗い、歯磨き、洗顔を済ませた女性は、次の目的地を目指し、またペタペタと歩き始める。


「ごはん〜〜〜」


 洗顔と歯磨きで多少マシになったとはいえ、まだ眠そうな女性が向かったのは冷蔵庫だった。


 女性は冷蔵庫の扉を開けると、冷蔵庫の中から茶色い液体で満たされたタッパーを迷いなく取り出す。


 中には、醤油漬けされたツヤツヤの生肉がぎっしりと詰められていた。


 どれもこれも、綺麗に加工されている。


「いただきま〜〜あむっ」


 女性はその中の一つを右手の指先でつまむと、頭より高く持ち上げ、醤油が足らないように上を向きながら口の中へ入れた。


 もにゅり……もにゅり……とゆっくり咀嚼しながら、醤油の旨みがよく染み込んだ柔らかく舌触りのいい肉をゆったりと味わう。


「う〜〜〜ん、ぼーにょぼーにょ」


 女性は肉を咀嚼しながらうんうんと頷くと、まだ飲み込んでいないのに次の中へと手を伸ばす。


「あっ」


 女性が次の肉を摘んだ瞬間、ぷるりと揺れた肉から醤油が数滴飛んだ。


 醤油は女性の真っ白いキャミソール型の薄いシャツと真っ白な下着に向かって飛ぶと、白い両の下着に目立つ茶色いシミを作り出した。


「あちゃーー。んーーーーまいっか! 別に誰に誰に見せるわけでないし」


 女性は肉を飲み込んでそう呟くと、それ以上気にする事なく次の肉を口の中へと放り込んだ。


 今度は一つではなく、いくつかまとめてだ。


「うみゃ〜! うみ〜ね〜〜!」


 もちゃり、もちゃりと、さっきより多い肉を咀嚼する。


 柔らかい肉は、たくさん口に含んでもの不快ではなく、むしろもっともっとと思えるほど、口の中に旨みの爆弾を落とし続けた。


「おいしかったー! 今日は、ここまで! ご馳走様でした!」


 それからしばらく食べ進めると、満足したのか女性はタッパー蓋を閉め、量の手のひらを合わせてご馳走様を言う。


「わーーーん会社だーーーー、嫌ーーーーー」


 女性は面倒くさそうにそう天井に向かって唸ったが、結局立ち上がり仕事へ行く支度を始めた。




 スーツに着替え、デカめのバッグを肩にかけ女性は、家を出ると、バッグから家の鍵を取り出す。


「よし鍵! 鍵穴にブスっ! ガチャ! バッグに戻して! よしっ! 閉まってる! よしっ! 閉まってる! よしっ!」


 女性は鍵をかけたドアをガチャガチャとして何度か鍵が閉まっていることを確認すると、その場を後にした。


 駅に着き、満員電車に揺られ、会社に到着する。


「おはようございまーす」


「「「おはようございます」」」


 女性の挨拶に数人の社員が挨拶を返した。

何か特別な意識を向けたものではなかったが。

ともかく返した。


 女性は自身の席に座ると、早速昨日やり残した仕事を片付け始める。


 また長い一日が始まる。

女性はそう思った。


 昼になり、女性は一人、椅子に座って休憩をとっていた。


 するとそこへ、遠くの方からこんな話が聞こえてくる。


 最近もっぱら噂になっている話だ。


 なんでも、行方不明者が多発しているとかなんとか。


 物騒な話だな。

と女性は思う。


 そんなにたくさん、何がしたいのか。


 まぁでも、せっかくの休憩時間そんな話を聞いてるのも嫌だし、移動しよ。


 女性は立ち上がると、階段を登って十階上の屋上まで上がる。


 ここなら聞こえてこないでしょ。


 そうして彼女は、屋上の床に静かに座り込むと、膝を抱えて風を感じる。


 女性は三十階だてのオフィスビルの屋上が好きだった。


 ここならどこよりも声が聞こえない。


 どこより静かだ。


 女性は両手で耳を塞ぐと、空を見る。


 綺麗な空。


 私の血の音だけが聞こえる。


「屋上行こうぜ、屋上で飯食おう!」


 突然声が聞こえる。


「いいねぇ! 俺なんだかんだ屋上行った事ねぇんだよな!」


「いやお前らただの屋上だから、別に山とかの頂上じゃねぇんだからよ」


「おい! こいつのこと馬鹿にすんなよ!? バカと煙は高いところが好きとかいうなお前!」


「いや一番馬鹿にしてるのお前だろ!w」


「ぷゆゆ〜? そうだっけぇ?」


「キッショ」


 誰かが……全部で三人……登ってくる…………。


 もう終わりか、降りなきゃ。


 女性は両耳を塞いでいる手を両耳から離すと、立ち上がり、屋上を後にした。


 女性が階段を降り始めた頃、声が少しずつ近づいてきていることで、声の主が階段を上がって来ているのだとわかった。

子供のようにはしゃぎながら、二段飛ばしで階段を登っている。


 女性が七階分ほど階段を降りた頃、先ほどから聞こえていた声の主たちとすれ違った。


 それは彼女の、普通では無い生態を表していた。




 定時になり、女性が大きく体を伸ばした。


 もうすでに、太陽がオレンジ色に変わっている。


 うーーーーーん、今日も乗り切った。


 女性は心の中でそう呟くと、バッグを肩にかけ帰宅の準備を始めた。


 書類よしパソコンよしもろもろよし!


 そうして、彼女は帰路についた。


 が、会社を出てすぐ、女性に聞き覚えのない声が聞こえてくる。

しかも複数。


 なんとなく、女性は慣れでこの時間帯の声の感覚を覚えていた。


 大抵はみんな、疲れているか楽しそうかのどちらだった。


 だがこの声たちは違う。


 まるで今から仕事を始めるみたいに真剣であり、そして明確な意思を持った声だった。


 女性は嫌な予感がして足早にその場を去る。


 だが、その声の主たちは、女性が右に動けば右に、左に動けば左に。


 一定の距離を保ちながら、女性の進む方向へあわせて女性についてくる。


 日が沈むたび、女性の心臓がその鼓動を強め始める。


 まるで飛び跳ねるスーパーボールみたいに。


 もしそうなら、きっと最後は止まってしまう事であろう。


 そうなるわけにはいかない。


 今日は、人気の多いところで過ごそうかな……。


 女性がそう思い始めた頃、女性の後をつけてきた内の一人であろう、スーツにハットを被った若い男が姿を現し、女性に話しかけてきた。


こんにちは、いい夜ですね。


 気がつけば日もすっかり落ち、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。


 辺りに、人が少なくなっている。


「待って」


わかっているはずです


 男は自身の首筋についた長方形の首枷のようなもの、その両端から伸びるレバーののようなものに手を伸ばすと、ゆっくりとそれをこちら向けた。


「待って」


勿論人払いはできています。そのための私たちですから。


「待っ……」


 男がレバーをガチャリと引く。


 瞬間、女性の体は吹っ飛んだ。


 長方形の首枷についたレバー、その側面に開いた穴から、砲弾のような者が発射され、それが彼女を襲ったのだ。


 女性は壁に叩きつけられ、バッグともどもずしゃりと地面へと落ちた。


 女性はなんとか上体を起こし、スーツの男を見やる。


 が、勝負はすでに決していた。


 男の腹部に、茶色い長方形の枠のようなものが食い込んでいたのだ。


 それはずるりと男の腹部から抜け落ちる。


 そこには、枠の形と同じ穴があった。


 文字通り型抜きでもしたかのようにして、男の腹部には、男の腹部に刺さっていた茶色い型と同じ形の穴が空いていた。


 抜け落ちた型の中には、男の腹部から背中にかけての内臓や骨などといったものが隙間なく詰め込まれている。


 茶色い型枠とその中の真っ赤な仲間。


 その様子はさながら、白い部分が赤くなったパンのようであった。


 腹部をくり抜かれた男は、しばらく静止したまま立っていたが。


 完全に息絶えたのか、時期前に向かってずしゃりと倒れた。


 女性は立ち上がると、男と男の肉が詰まった型枠を見る。


 きっと他に仲間がいる。


 早く逃げないと。


 そう思い、女性がバッグを持ち上げた。


 その時。


バイオウド“lower”『茶色の型枠(ブレットイヤー)


 声が聞こえる。


 遠くから。


聞こえているんだろう、お前なら。


俺は逃さない。


逃げたいなら、俺を殺してからいけ。


じゃなきゃ俺が。


地の果てまでお前を追っていくぞ。


 瞬間、女性はバイオウドへなった。

宙に浮いたパンの耳のような形の型枠が女性の周囲に出現し、身体のいたるところにそれと似た装飾が浮かび上がった。


 戦うためではなく、逃げるために。


 彼女はバイオウドとなった。


 彼女は、戦うのが好きではなかった。


 バイオウドとなった彼女は何からでも逃げられた。


 大丈夫。


 今回も逃げられる。


 女性はもう一度、自身が殺した男、その方へと目をやった。


 ……………………。


 ごめんなさい……。


 女性は心の中でそう呟くと、夜の暗闇の中へ身を投じる。


「こっちだ」


 ふと、声が聞こえる。


 敵意のない、なんだかとても落ち着く声。


 女性が、声のした方を恐る恐る見ると、そこには神々しい雰囲気を放つ、色素の薄い少年の姿があった。


「少なくとも、ここよりは安全だ」


 そう言って、女性の手を引くと、少年はふわりと地を蹴った。


 少年は一蹴りで、もう男の死体がビー玉くらい小さく見えるほど、高く、遠く、飛び、駆けた。


 風圧で目を閉じてしまいそうだ。


「……………………。」


 女性は、閉じてしまいそうな目を開いて、さきほど狂おしいほどの殺意が籠った声がした方に視界を移す。


 そこにはもう、誰もいなかった。


 ほっとすればいいのか、怯えればいいのか、よくわからない。


 ただ、今は逃げなくては。


 そう思った。


「我々は生まれてきた。何のために? 何が喜びとなる? 己の。他者の」


 地を高く駆けながら、少年が話を始める。


「考えることは出来れど、答えを知ることはできない」




「我々は『巫の丘』。『バイオウド』、その生き方で、もがく者たち」

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