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多種族国家の診療録〜白髪の元神官は命を背負い、現場を駆ける〜  作者: 稗田


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Case16 人魚の嗄声〜後編〜

「ちょっと待ったー!」


 ヤゴコロはジャンプで人魚の頭を飛び越え、輪の中心へ着地する。


「中央治癒班だ、事情を聞こう!」


 突然のヤゴコロの登場に人魚たちは戸惑い、歌が止まった。

 うんうんと頷くヤゴコロの元へラグも後から追いつく。


「喋れそうなのは君だね? 名前を教えて?」


 ニコッと微笑みヤゴコロは人魚との会話を試みる。

 相手の懐にスッと入っていく技は、ヤゴコロならではだ。


「あ、の、セリーナ、と、いいます」


 聞き取りにくくガサガサとした声、喉に問題が起こっているのは明らかだった。


「セリーナちゃんね? みんなでどうしたの、喉治らないの?」


 ヤゴコロの言葉に人魚達はシクシクと涙を流した。


「病院、行った、のに、悪くなる……。喉、痛いし、目も痛い、何より、綺麗に、歌えない」


 歌は人魚の中で最も大切なものとされており、歌えなくなった人魚が死を選ぶことも広く知られている。


「フロール、治癒院、すぐ治るって、いってたのに……」


 セリーナの言葉に、ヤゴコロとラグが頭を抱えそうになる。


「セリーナちゃん、辛かったね……。セリーナちゃんみたいな被害者いっぱいでフロール治癒院潰れたの。ちゃんとしたところで診てもらおう?」


 死を選ばなくて良くなった安心感か、治ることへの希望か、人魚達はナイフを落とし砂浜にへたり込み大声で泣き出した。


「ヤゴコロさん、ここにいる全員が同じ症状って……」


「ううん、ちょっと厄介なことになりそうだね。とりあえずここにいる6人は隔離して、明日署長に報告して色々確かめよう」


 人魚達の喜びの顔と対照的に、ヤゴコロとラグの表情は晴れなかった。


ーーー


「さすがヤゴコロ、いい判断だったね」


 翌日、ヤゴコロとラグはクロッサに人魚達のことを相談した。

 ラグはクロッサの横に立っているロワルと目があったが、なんとか顔を赤くするだけに留めれた。


「ロワル、どう思う?」


嗄声させい、声の掠れのことだが、これが6人に出てるってことは集団感染、もしくは海の汚染だろう。至急6人の治療と発症原因の究明、居住地域の調査が必要だ」


 ロワルの言葉にクロッサが頷き指示を出す。


「よし、ロワルはラグとともに人魚の元へ行き、感染防止をして治癒院へ移動。ヤゴコロは6人が住んでいる海域を聞き出して、調査班と向かってくれ」


 了解の掛け声とともに3人は動き出す。


「えーっと、ロワルさん、行きましょう!」


「ああ、案内頼んだ」


 なんとか声を振り出したラグに向かい、ロワルは軽く微笑み言葉を返す。

 ラグはパッとロワルに背を向け走り出した。


ーーー


「こんにちはセリーナさん、みなさん、中央治癒班のロワルといいます。治癒院まで距離があるので馬車で移動しますが歩けますか?」


 ロワルの声かけにセリーナ達は頷き、砂浜に上がると一斉に魔法を唱えた。

 すると、色とりどりの美しい尾ひれはスカートのようになり、足が現れた。


「大丈夫、歩けます」


 ロワルはよろよろと歩く人魚1人1人に手を貸し、馬車へ乗り込ませる。


「それでは、もし感染症だったときのことを考えて、病気が出ないよう魔法を使わせていただきますね?」


 人魚達が頷くのを確認し、ロワルは魔法をかける。


「『聖域・病・全てを・断絶せよ』対病結界」


 白い光が発生し、やがて目に見えなくなる。

 それを確認し、ロワルは御者ぎょしゃに指示をだす。


「よし、出してくれ。ラグ、俺らも行こう」


「はい!」


ーーー


 治癒院の中で、研究に特化した施設へ人魚達は運び込まれ検査を受ける。


「自覚症状は喉の激痛と嗄声させい、息苦しさ、そして視力障害。喉と目を見ると激しい炎症がありますね。これ以上摂取していればさらに他の症状が出ていたかもしれません」


 ロワルとラグは、治癒院の職員から症状の説明を受ける。

 検査により、原因は毒物に晒されたことだと判明した。


「6人の共通点が判明したぞ、いつも住んでいる場所からさらに北東へ泳いで行ったら6人とも同じ症状が出たらしい。ヤゴコロにも連絡して今調査してもらっている」


 ロワルの説明にラグは頷く。


「そこで何かを口にしてしまったんですか……。そういえば人魚さんって水の中はエラ呼吸ですよね? 陸ではどうしているんですか?」


 ラグの疑問にロワルは笑いながら説明する。


「人魚は、人間で言うところの、気管の蓋が発達しているんだ。水中ではしっかり蓋が閉じてエラ呼吸に、陸に上がるとエラが閉じて、肺呼吸になるんだ」


「なるほど、それでどっちでも呼吸できるんですね……」


「お詳しい、ですね、ロワル様」


 後ろから、ぎょくを転がすような美しい声が聞こえてきた。

 ロワルが振り返ると、セリーナが喉に手を当て立っていた。

 視力も戻り、真っ直ぐロワルの目を見つめることができている。


「声、戻ったのですね? よかったです」

 

 「おかげさまで、違和感はまだありますが、じきに消えると……」

 

 セリーナはラグの方を向き、頭を下げる。


「ありがとうございます、あなたのおかげで死なずに済みました。兎人の方にもぜひお伝えください」


「わかりました、きっと喜びます!」


 笑顔で話すラグにつられて、セリーナも笑みをこぼす。


ーーー


 人魚の歌は船を沈める。


 人魚は歌に魔力を込め、操舵手を魅力し船を岩礁にぶつけるという逸話が残っている。

 ハクタクではその力を使い、海賊などの船を沈めてきた。


「これはきな臭いねぇ……」


 ヤゴコロは調査隊とともに海に出て原因を探していた。

 そしてその原因はすぐに判明した。


 人体に有毒な鉱石が、樽に詰められ大量に廃棄されていた。


「原因は判明したね、私は一旦これ持って戻るから、みんなは他にもないか探しててね!」


 ヤゴコロは船を漕ぎ、クロッサの元へと向かった。


ーーー


 ヤゴコロから報告を受けたクロッサは、すぐさまドワーフ、人魚、東区域防衛隊それぞれの代表と、人魚を治療した治癒師を集めた。

 

 クロッサはハクタクの東側にあり、世界からは西方海域と呼ばれている海域の地図を取り出した。


「まず、鉱石が詰まった樽があったのがここだ」


 クロッサは地図の上に目印となる駒を置く。

 駒の位置は西の大陸にある都市、ヴェルーダよりもさらに北。

 ドワーフが住む山とハクタクを結ぶ点。

 そして、樽に入っていた鉱石を机の上に取り出した。


「こちらの鉱石をご説明いただけますか?」


 ドワーフのおさは立派なひげを撫でおろし、説明する。


「龍酸鉱だな、龍が食ったら腹を溶かして出てきたって逸話のあるやばい鉱石だ。水分につけると、強力な酸をだすんだ」


 ドワーフの説明に集まった全員が顔を青くする。


「治癒師さん、人魚達の症状はどうでしたか?」


「はい、比較的早くに汚染区域から離れたおかげか、命に別状はありませんでした。しかし、毒物による激しい炎症で眼、鼻、喉、こちらがかなりひどい状態でした。今回は中級治癒魔法で治せましたが、これ以上となると欠損扱いとなり、上級治癒魔法でないと治せません。」


 人魚の長は胸に手を当て、沈痛な面持ちをする。


「わかりました。さて、1番の懸念事項ですが、これを受けて、防衛上の見解を伺いたい、東区域部隊長殿」


「明らかな攻撃とみるべきでしょう。ドワーフの長様、海賊がドワーフの山に入りこの鉱石を大量に集めることは可能ですか?」


 ドワーフは大きく首を横に振る。


「採掘も取り扱いも難しい鉱石だ、無理だろう」


「ありがとうございます。でしたら今回の攻撃は、グランバル帝国の関与が疑われます。軍団長へ報告すべきだと愚考いたします」


 クロッサは東区域部隊長の言葉に頷く。


「私から報告しておこう、人魚の長は該当区域に近づかないよう偵察任務に就いている人魚達にも伝えてください」


「わかりました、ありがとうございます」


「東区域部隊長殿は人魚達が見張っていた北東の警戒を強めてください」


「承知いたしました」


 クロッサは全員を見渡す。


「これが準備だとすれば、さらに何かをしてくる可能性が高い。大規模な戦闘も覚悟するように、以上」


 挨拶とともにクロッサ以外の全員が席を立ち退席する。


「フロールの件が終わったと思えば次は戦争か……? 勘弁してほしいね」


 残されたクロッサは1人大きなため息をつく。


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