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第2話「カメラが回る瞬間――“演じる”ということ」


「皆、おはようございます!」


翌週月曜日、午前九時。


M’s Create Entertainment本社・第一レッスンスタジオ。


新人十人は、いつもより少し早い時間に集合していた。


先日のドラマ撮影を経験した東雲月詠音、九重結羽乃、天ヶ瀬綺星の三人はもちろん、他の七人もどこか表情が引き締まっている。


プロの現場を目の当たりにした三人から話を聞き、全員が改めて芸能界の厳しさを実感していたからだった。


「今日は特別レッスンを行います」


私――篠原瑞稀がそう告げると、十人は姿勢を正した。


「講師は……」


スタジオの扉が開く。


「おはよう」


入ってきたのは、篠原美紅だった。


「よろしくお願いします!」


十人は一斉に頭を下げる。


「そんなに緊張しなくていいよ」


美紅は柔らかく微笑む。


「今日は“演じる”ってどういうことか、一緒に考えていこう」


◇◇◇


最初の課題は、感情表現だった。


テーマは――


『大切な人へ感謝を伝える』


「一人ずつ演じてみて」


トップバッターは天ヶ瀬綺星。


「お母さん……いつもありがとう!」


元気いっぱいに演じる。


しかし。


「うん、気持ちは伝わる」


美紅は優しく頷いた。


「でもね、綺星ちゃん」


「はい」


「綺星ちゃん自身が“ありがとう”を言ってる感じかな」


「え?」


「役の人物として生きてみよう」


綺星は首を傾げた。


次は神代瑠璃寧。


彼女は涙を浮かべながら演じた。


「お母さん……本当にありがとう……」


スタジオは静まり返る。


「上手……」


心暖が呟く。


しかし、美紅は少し考えていた。


「瑠璃寧ちゃん」


「はい」


「感情はすごくいい」


「でも、泣こうとし過ぎてるかな」


「……」


「涙は結果であって、目的じゃない」


新人たちは真剣にメモを取っていた。


◇◇◇


そして。


東雲月詠音の番。


「……ありがとう」


たった一言だった。


だが。


スタジオの空気が変わる。


静寂。


その場にいた誰もが、自然と月詠音へ視線を向けていた。


演技終了。


数秒間、誰も言葉を発しなかった。


「すごい……」


綺星が呟く。


美紅も頷いた。


「月詠音ちゃん」


「はい」


「天性の才能がある」


月詠音は驚いた。


「でも」


美紅は続ける。


「まだ技術が追いついてない」


「だから、これからもっと伸びる」


「はい!」


月詠音は嬉しそうに頷いた。


◇◇◇


昼休憩。


スタジオ横の休憩スペース。


綺星、瑠璃寧、月詠音、結羽乃の四人は昼食を食べていた。


「月詠音ちゃん、本当にすごいよね」


綺星が素直に言う。


「私、全然敵わないや」


すると。


「そんなことない」


月詠音が即座に否定した。


「え?」


「綺星ちゃんは笑顔がすごい」


「結羽乃ちゃんは姿勢が綺麗」


「瑠璃寧ちゃんは感情表現が上手」


「私にはないものを皆持ってる」


結羽乃が笑う。


「でも、やっぱり悔しいよね」


「うん」


四人は顔を見合わせる。


ライバル。


だけど仲間。


その距離感が少しずつ形になり始めていた。


◇◇◇


午後。


今度は二人芝居。


テーマは――


『親友との再会』


ペアはくじ引きで決まった。


・綺星&瑠璃寧


・月詠音&結羽乃


・詩珠希&柚羽璃


・咲琉愛&心暖


・月乃愛&澪珠


最も苦戦していたのは、最年少の天羽咲琉愛だった。


「ごめんなさい……」


何度やっても感情が乗らない。


「咲琉愛ちゃん」


美紅が近付く。


「はい……」


「今、一番会いたい人は誰?」


「……お母さんです」


「どうして?」


「地方にいるから、最近会えてなくて……」


「会えたら何て言う?」


咲琉愛は少し考えた。


「ただいまって言います」


「じゃあ、それを相手に伝えてみよう」


数分後。


再び演技。


「お母さん……ただいま!」


その瞬間。


感情が溢れた。


「カット!」


美紅が笑顔になる。


「それ」


咲琉愛は涙を流していた。


「演技って、自分の気持ちを使うことでもあるの」


「はい……!」


◇◇◇


夕方。


全レッスン終了後。


新人たちは床に座り込んでいた。


「疲れた……」


「でも楽しかった!」


「うん!」


すると。


美紅が最後に皆へ話し始めた。


「皆に一つだけ伝えたいことがあります」


十人が顔を上げる。


「演技に正解はありません」


「だからこそ難しい」


「でも」


「カメラが回っている間だけは、その人物として生きてください」


誰もが真剣に聞いていた。


「役を愛して」


「相手を信じて」


「そして、自分を信じること」


その言葉は新人たちの胸へ深く刻まれた。


レッスン終了後。


帰り際。


綺星が空を見上げながら言った。


「私、もっと上手くなりたい」


「私も」


「絶対に」


十人はそれぞれ新たな決意を胸に、事務所を後にする。


そして翌日。


現役高校生組に、新たな日常が待っていた――。


それは、学校と芸能活動を両立する少女たちの、もう一つの物語だった。   



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