第1話「初めてのドラマ現場――新人たち、プロの世界へ」
「東雲月詠音さん、九重結羽乃さん、そして天ヶ瀬綺星さん。来月放送開始の連続ドラマ『青空のその先へ』への出演が決まりました」
朝十時。
M’s Create Entertainment本社大会議室。
私――篠原瑞稀の言葉に、新人たち十人は一斉に息を呑んだ。
「えっ……」
「ほ、本当ですか……?」
呼ばれた三人は、信じられないという表情を浮かべていた。
「本当だよ」
隣に座っていた篠原美紅が優しく微笑む。
「おめでとう」
「お、おめでとう!」
「すごい!」
会議室には拍手が響く。
しかし。
拍手を送りながらも、複雑な表情を浮かべる少女たちもいた。
神代瑠璃寧。
桜宮詩珠希。
白銀柚羽璃。
天星院澪珠。
全員が同じ夢を追う仲間であり、同時にライバルでもある。
そのことを、少女たちは少しずつ理解し始めていた。
「ただし」
私は言葉を続ける。
「今回は主要キャストではありません」
「皆さんは主人公たちが通う高校の生徒役です」
「台詞も多くはない」
「でも」
私は三人を見つめる。
「初めてのドラマ現場で学べることは、きっとたくさんある」
三人は真剣な表情で頷いた。
「はい!」
◇◇◇
数日後。
都内撮影スタジオ。
連続ドラマ『青空のその先へ』クランクイン当日。
「すごい……」
綺星はスタジオへ足を踏み入れた瞬間、思わず声を漏らした。
巨大な照明。
忙しく動き回るスタッフ。
衣装ラック。
メイクルーム。
そして。
数十人のキャストたち。
まさにテレビの世界そのものだった。
「緊張する……」
結羽乃が小さく呟く。
「私も」
月詠音も表情は固い。
その時だった。
「おはよう」
優しい声が聞こえた。
振り返る。
そこにいたのは――。
主演を務める篠原美紅だった。
「美紅さん!」
三人は慌てて頭を下げる。
「そんなに緊張しなくていいよ」
美紅は笑った。
「今日は失敗してもいい」
「まずは現場を楽しもう」
その言葉に、三人は少しだけ表情を和らげた。
◇◇◇
午前九時。
スタッフ全員が集合する。
「本日より『青空のその先へ』撮影開始となります!」
監督の挨拶。
続いてキャスト紹介。
主演・篠原美紅。
人気俳優たち。
ベテラン女優たち。
次々と紹介されていく。
そして。
「M’s Create Entertainment所属新人女優」
「東雲月詠音さん」
「九重結羽乃さん」
「天ヶ瀬綺星さん」
三人は緊張しながら前へ出た。
「よろしくお願いします!」
現場から温かい拍手が送られる。
「新人さん?」
「かわいいね」
「頑張って」
スタッフたちの声に、三人は少し安心した。
◇◇◇
最初の撮影は教室シーンだった。
三人はクラスメイト役。
月詠音には一言だけ台詞がある。
『おはよう、今日のテスト勉強した?』
たった一言。
しかし。
カメラが向けられた瞬間――。
「お、おはよう……」
声が小さい。
「カット!」
監督の声が飛ぶ。
「東雲さん」
「はい!」
「もっと自然にいこう」
「はい!」
二回目。
「カット!」
三回目。
「カット!」
月詠音の顔は次第に青ざめていった。
一方。
綺星も笑顔を作るタイミングが分からず苦戦していた。
結羽乃も立ち位置を何度も間違える。
プロの現場。
その厳しさを三人は痛感していた。
◇◇◇
昼休憩。
控室。
月詠音は一人で俯いていた。
「私……向いてないかもしれない」
「そんなことない」
声を掛けたのは美紅だった。
「でも、何回も失敗して……」
「月詠音ちゃん」
美紅は隣へ座る。
「私、デビューした最初のドラマで三十回以上NG出したことあるよ」
「えっ?」
「本当」
「美紅さんが……?」
「うん」
月詠音は驚いていた。
「誰でも最初は失敗する」
「大事なのは、次どうするか」
「……はい」
「それに」
美紅は微笑む。
「監督さん、月詠音ちゃんのこと褒めてたよ」
「え?」
「目がいいって」
「カメラに映ると、自然に視線が集まるんだって」
月詠音の瞳が少しだけ明るくなった。
◇◇◇
午後。
再び撮影。
月詠音は深呼吸をした。
(大丈夫)
(失敗してもいい)
(まずは楽しむ)
そして――。
「おはよう! 今日のテスト勉強した?」
監督がモニターを見る。
数秒後。
「……OK!」
現場から拍手が起こった。
「やった!」
綺星が飛び跳ねる。
結羽乃も笑顔で拍手する。
月詠音は思わず涙ぐんでいた。
「ありがとうございました!」
大きな声で頭を下げる。
その姿を、美紅は少し離れた場所から見守っていた。
「成長したね」
隣にいた私も頷く。
「うん」
「まだ始まったばかりだけどね」
◇◇◇
撮影終了後。
三人は疲れ切っていた。
「ドラマって大変なんだね……」
綺星がソファへ倒れ込む。
「うん」
結羽乃も頷いた。
「でも」
月詠音が静かに言う。
「すごく楽しかった」
「私も!」
「また現場に来たい!」
三人は顔を見合わせる。
そして笑った。
今日、三人は知った。
ドラマの現場は厳しい。
失敗もする。
悔しい思いもする。
それでも――。
演じることは、楽しい。
その気持ちこそが、女優としての第一歩なのだと。
そして翌週。
新人たちは、さらに厳しい演技レッスンへ挑むことになるのだった――。
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