第4話「仲間か、ライバルか――揺れる少女たちの心」
「来月放送のドラマ追加キャストが決まりました」
ある月曜日の朝。
M’s Create Entertainment本社・大会議室。
朝のミーティングに集められた新人十人は、私――篠原瑞稀の言葉に、一斉に姿勢を正した。
「今回、事務所から二名出演します」
その瞬間。
空気が変わった。
誰もが分かった。
これは、初めての大きなチャンスなのだと。
「選ばれたのは――」
私は手元の資料へ目を落とす。
「東雲月詠音さん」
「はい!」
月詠音が緊張した表情で立ち上がる。
「そして」
「九重結羽乃さん」
「は、はい!」
結羽乃も驚きながら立ち上がった。
「おめでとう」
会議室には拍手が響いた。
しかし。
拍手をしながらも、複雑な表情を浮かべる少女たちもいた。
天ヶ瀬綺星。
神代瑠璃寧。
桜宮詩珠希。
白銀柚羽璃。
皆、笑顔だった。
けれど、その笑顔の奥には隠しきれない悔しさがあった。
◇◇◇
レッスン終了後。
更衣室。
綺星は一人、ロッカーの前で座り込んでいた。
「……悔しいな」
本音だった。
もちろん月詠音と結羽乃のことは好きだ。
仲間だと思っている。
だからこそ、心から祝福したい。
でも。
同時に。
「私も選ばれたかった……」
そう思ってしまう自分がいた。
「綺星ちゃん」
振り返る。
そこには神代瑠璃寧が立っていた。
「瑠璃寧ちゃん」
「隣、いい?」
「うん」
瑠璃寧も静かに座る。
「悔しいね」
「……うん」
「私も」
二人は顔を見合わせる。
そして、どちらからともなく笑った。
「同じだね」
「うん」
その時だった。
更衣室の外から明るい声が聞こえてくる。
「月詠音ちゃん、すごーい!」
「おめでとう!」
咲琉愛たちの声だった。
綺星は少し俯いた。
瑠璃寧は静かに言った。
「私たち、ライバルなんだね」
「え?」
「だって、同じ役を取り合うんだから」
綺星は考え込む。
確かにそうだった。
芸能界では、どれだけ仲が良くても、仕事は一つしかない。
誰かが選ばれるということは、誰かが選ばれないということなのだ。
◇◇◇
午後。
演技レッスン。
講師を務めるのは美紅だった。
「今日は二人一組で演技をします」
組み合わせはくじ引き。
結果。
・綺星&月詠音
・瑠璃寧&結羽乃
・詩珠希&柚羽璃
・咲琉愛&心暖
・月乃愛&澪珠
となった。
最初のペアは綺星と月詠音。
テーマは、
『親友との別れ』
二人は向かい合う。
しかし。
綺星の演技はどこかぎこちなかった。
「カット」
美紅が止める。
「綺星ちゃん」
「はい」
「何か悩んでる?」
綺星は驚いた。
「え?」
「演技に迷いが出てる」
綺星は俯く。
そして。
「……私」
「うん」
「月詠音ちゃんが羨ましかったんです」
スタジオが静まり返る。
「ドラマに選ばれて」
「私も頑張ったつもりだったから」
「悔しくて……」
綺星は涙を流した。
「最低ですよね」
すると。
月詠音が首を横に振る。
「最低じゃない」
「え?」
「私も綺星ちゃんが羨ましい」
「え?」
今度は綺星が驚く。
「綺星ちゃん、誰とでも仲良くなれるし」
「いつも明るいし」
「私にはできないから」
「そんな……」
「だから私も憧れてる」
二人は顔を見合わせる。
そして、同時に笑った。
「そっか」
「うん」
美紅は静かに見守っていた。
「皆」
新人たちへ視線を向ける。
「芸能界では仲間でありライバルでもある」
「その気持ちは間違ってない」
「羨ましいと思うことも、嫉妬することもある」
「でも」
美紅は続ける。
「相手を蹴落とそうと思った瞬間、その人の成長は止まる」
誰もが真剣に聞いていた。
「相手を認めること」
「相手から学ぶこと」
「それができる人が、長く活躍できる人」
その言葉は新人たちの胸に深く刻まれた。
◇◇◇
その日の夕方。
社長室。
私は新人たちのレッスン映像を見返していた。
すると、美紅がコーヒーを持って入ってくる。
「お疲れ」
「お疲れ」
「どうだった?」
私は少し笑った。
「思ったより早く来たね」
「うん」
「何が?」
「ライバル意識」
美紅も頷く。
「避けては通れないものね」
「そう」
私は窓の外を見る。
スタジオでは、新人たちが自主練習をしていた。
綺星と月詠音。
瑠璃寧と結羽乃。
皆、楽しそうに笑っている。
「でも」
私は微笑んだ。
「大丈夫そう」
「うん」
「いい子たちだもんね」
美紅も優しく笑った。
◇◇◇
数日後。
新人たちに、新たな知らせが届く。
『M’s Create Entertainment 新人お披露目イベント開催決定』
初めてファンの前に立つ日。
夢への新たな一歩。
新人たちの緊張は、再び高まっていくのだった――。
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