第2話「レッスン開始――社長・瑞稀と、美紅の特別授業」
「おはようございます!」
朝八時三十分。
M’s Create Entertainment本社。
まだ少し緊張の残る声が、レッスンスタジオに響いた。
大型新人オーディションを突破した十名の新人女優たち。
彼女たちは今日から正式に、M’s Create Entertainmentの所属タレントとして活動を始めることになった。
集まったのは、
・天ヶ瀬綺星(17)
・神代瑠璃寧(16)
・東雲月詠音(17)
・九重結羽乃(18)
・天羽咲琉愛(15)
・白銀柚羽璃(19)
・桜宮詩珠希(17)
・天星院澪珠(18)
・神楽坂心暖(17)
・久遠月乃愛(19)
十人全員が、真新しいレッスンウェアに身を包み、緊張した表情を浮かべていた。
「緊張してる?」
スタジオへ入ってきた私――篠原瑞稀が尋ねる。
十人は慌てて立ち上がった。
「はい!」
「そりゃそうか」
私は笑った。
「でも安心して」
「ここは皆を落とす場所じゃない」
「皆を育てる場所だから」
少しだけ緊張がほぐれる。
「まずは自己紹介から始めようか」
◇◇◇
自己紹介が始まった。
「天ヶ瀬綺星です! 明るさだけは誰にも負けません!」
「神代瑠璃寧です。歌も演技も頑張ります」
「東雲月詠音です。経験は少ないですが、一生懸命頑張ります」
それぞれの夢。
憧れた理由。
将来の目標。
新人たちは真剣に語っていった。
その時だった。
「失礼します」
スタジオの扉が開いた。
「「「!!」」」
一瞬で空気が変わる。
そこにいたのは――
篠原美紅だった。
「おはよう」
「お、おはようございます!!」
十人全員が慌てて頭を下げる。
当然だった。
目の前にいるのは、日本を代表するトップモデル兼女優なのだから。
「そんなに緊張しなくて大丈夫」
美紅は優しく笑った。
「今日から皆さんの特別講師も担当します」
「よろしくお願いします!」
◇◇◇
最初のレッスンはウォーキング。
指導するのは元トップモデルであり、現在は専属スタイリストでもある柏木彩乃だった。
「まず歩いてみて」
一人ずつ歩き始める。
しかし。
現実は甘くなかった。
「猫背」
「目線が下がってる」
「肩に力入りすぎ」
「足音が大きい」
次々と注意が飛ぶ。
特に苦戦していたのは神代瑠璃寧だった。
「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていい」
柏木が優しく言う。
「今はできなくて当たり前」
その隣で。
東雲月詠音は比較的上手く歩いていた。
バレエ経験者の九重結羽乃も姿勢が美しい。
一方、最年少の天羽咲琉愛は何度も転びそうになっていた。
「難しい……」
思わず涙目になる。
すると、美紅が近付いた。
「咲琉愛ちゃん」
「はい……」
「最初からできる人なんていないよ」
「でも……」
「私も新人の頃、何十回も怒られたから」
「え?」
「本当」
咲琉愛は驚いた顔をした。
「だから大丈夫」
「一緒に頑張ろう」
咲琉愛は力強く頷いた。
◇◇◇
午後。
次は演技レッスン。
担当は私だった。
「芸能界で長く生き残るために必要なのは演技力」
「今日は感情表現をやります」
テーマは――
『大切な人との別れ』
新人たちは順番に演技していく。
天ヶ瀬綺星。
神代瑠璃寧。
桜宮詩珠希。
誰もが懸命だった。
しかし。
「……」
私は少し悩んでいた。
全体的に技術が足りない。
すると。
美紅が静かに立ち上がった。
「少し、お手本やってもいい?」
「もちろん」
スタジオ中央。
美紅は静かに立つ。
数秒後。
「行かないで……」
その一言だけだった。
だが。
空気が変わった。
「お願いだから……置いていかないで……」
涙。
震える声。
表情。
沈黙。
すべてが演技だった。
しかし。
新人たちの多くは涙を流していた。
演技終了。
スタジオは静まり返る。
「これがプロです」
私が静かに言う。
「凄い……」
「鳥肌立った……」
「同じ人間とは思えない……」
新人たちは圧倒されていた。
美紅は少し照れながら笑った。
「でもね」
「私も最初からできたわけじゃない」
「努力したから今がある」
「だから皆も絶対に成長できる」
その言葉は新人たちの胸に深く刻まれた。
◇◇◇
夕方。
最後は発声レッスン。
担当は元舞台俳優の城之内拓人。
「腹から声を出す!」
「はい!」
「もっと!」
「はい!」
スタジオには大きな声が響く。
二時間後。
全員が疲れ切っていた。
「こんなに大変だと思わなかった……」
神楽坂心暖が床に座り込む。
「私も……」
綺星も息を切らしていた。
すると、美紅がスポーツドリンクを配り始めた。
「お疲れ様」
「ありがとうございます!」
「今日はどうだった?」
新人たちは顔を見合わせる。
そして。
「悔しかったです」
「できないことばかりでした」
「でも、もっと頑張りたいです」
皆、同じ答えだった。
私は笑った。
「それなら大丈夫」
「悔しいと思えるうちは成長できる」
新人たちは大きく頷いた。
レッスン終了後。
帰り際。
天ヶ瀬綺星が美紅へ言った。
「私、絶対に美紅さんみたいな女優になります!」
美紅は優しく微笑む。
「うん」
「でもね」
「私を目標にするのはいい」
「だけど、最後は綺星ちゃんだけの女優になってね」
綺星は少し考えた後、力強く頷いた。
「はい!」
その姿を見ながら私は思う。
この十人は、きっと大きく成長する。
まだ始まったばかり。
夢への第一歩は、ようやく踏み出されたばかりなのだから。
そして翌日。
新人たちへ、初めての仕事の連絡が届くのだった――。
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