第1話「夢への第一歩――五百二十七人の中から選ばれた十五人」
「応募総数、五百二十七名です」
朝九時。
M’s Create Entertainment本社会議室。
秘書兼副マネージャーの高瀬奈々子が資料を手に報告すると、会議室にいたスタッフたちから小さなどよめきが起こった。
「去年を超えましたね」
元キャスティング担当の水瀬祐介が眼鏡を押し上げながら呟く。
「うん……正直、ここまで来るとは思わなかった」
私は資料を見ながら苦笑した。
社長になって三年目。
M’s Create Entertainmentは、業界内でも注目される若手育成事務所になっていた。
理由は明確だった。
篠原美紅。
トップモデルであり、女優。
結婚、出産を経ても第一線で活躍し続ける看板女優。
そして何より、
『新人を大切に育てる』
という私たちの方針が、多くの人たちに伝わり始めていたのだ。
「社長」
奈々子がスケジュール表を差し出す。
「本日の最終審査参加者は十五名です」
「ありがとう」
私は立ち上がった。
「じゃあ、未来の女優さんたちに会いに行こうか」
◇◇◇
都内大型スタジオ。
最終審査会場。
控室には、緊張した表情の少女たちが集まっていた。
五百二十七人。
書類審査。
オンライン面接。
二次審査。
三次審査。
そのすべてを突破した十五人。
彼女たちは、まさに全国から選ばれた精鋭だった。
「緊張する……」
そう呟いたのは十七歳の少女。
天ヶ瀬綺星17歳。
隣に座っていた少女が微笑む。
「私もです」
彼女は、
神代瑠璃寧16歳。
さらに。
皇凰院紗玻18歳。
東雲月詠音17歳。
九重結羽乃18歳。
天羽咲琉愛15歳。
白銀柚羽璃19歳。
月城星乃叶20歳。
西園寺羽瑠妃18歳。
桜宮詩珠希17歳。
そして追加最終審査通過者として、
天星院澪珠18歳。
神楽坂心暖17歳。
双葉羽々音16歳。
久遠月乃愛19歳。
白鷺妃莉愛18歳。
十五人全員が、それぞれの夢を胸にこの場所へやってきていた。
◇◇◇
午前十時。
最終審査開始。
審査員席には、
社長・篠原瑞稀。
看板女優・篠原美紅。
副マネージャー・高瀬奈々子。
キャスティング責任者・水瀬祐介。
そして特別審査員として映画監督・城崎誠一。
五名が並んでいた。
「それでは、最終審査を始めます」
最初は自己PR。
「天ヶ瀬綺星です! 私は誰よりも笑顔に自信があります!」
「神代瑠璃寧です。歌と演技でたくさんの人に勇気を届けたいです」
一人ずつ。
想いを語る。
続いて演技審査。
泣く演技。
怒る演技。
喜ぶ演技。
戸惑う演技。
緊張から実力を出し切れない者もいた。
反対に、本番で力を発揮する者もいた。
そして最後はカメラテスト。
そこでは、ある少女が審査員たちの視線を釘付けにした。
「……すごい」
美紅が小さく呟く。
カメラの前に立っていたのは、
東雲月詠音だった。
演技経験はほとんどない。
しかし。
カメラが回り始めた瞬間。
まるで別人のような存在感を放った。
「逸材ですね」
水瀬が静かに言った。
私も頷く。
「うん」
◇◇◇
すべての審査が終了した。
十五人は控室で結果を待っていた。
誰もが無言だった。
緊張。
不安。
期待。
様々な感情が入り混じっている。
その頃。
別室では審査会議が行われていた。
「全員採りたいですね」
奈々子が本音を漏らす。
「でも、現実的には難しい」
私は資料を見る。
「今年は十人まで」
美紅も静かに頷いた。
「この子たちの人生が掛かってる」
「だからこそ、真剣に決めよう」
約一時間に及ぶ議論。
そして。
合格者十名が決定した。
◇◇◇
再び会場。
十五人が呼び集められる。
私は壇上に立った。
「皆さん、本日はお疲れ様でした」
誰もが固唾を呑む。
「これから合格者を発表します」
一人ずつ名前が呼ばれていく。
「天ヶ瀬綺星さん」
「はい!」
「合格です」
綺星は涙を流した。
「神代瑠璃寧さん」
「はい……!」
「合格です」
続いて、
東雲月詠音。
九重結羽乃。
天羽咲琉愛。
白銀柚羽璃。
桜宮詩珠希。
天星院澪珠。
神楽坂心暖。
久遠月乃愛。
十名の名前が呼ばれた。
しかし。
呼ばれなかった五人もいた。
会場には涙を流す少女たちの姿があった。
私はゆっくり口を開く。
「不合格だった皆さん」
五人が顔を上げる。
「今日ここまで残れたことを誇ってください」
「皆さんには才能があります」
「だから、諦めないでください」
涙を流しながら頷く少女たち。
芸能界は厳しい。
けれど。
夢が終わったわけではない。
◇◇◇
審査終了後。
合格者十名が事務所へ案内された。
「今日から、皆さんはM’s Create Entertainmentの一員です」
私がそう告げると、十人全員が立ち上がった。
「よろしくお願いします!」
元気な声が社内に響く。
その様子を見ながら、美紅は静かに微笑んだ。
「また新しい物語が始まるね」
「うん」
私は頷いた。
五百二十七人の中から選ばれた十人。
彼女たちの夢は、ここから始まる。
長く、険しく、そして輝かしい物語が――。
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