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第10話「これからの僕たち、私たち」


十一月。


澄み切った青空が広がる日曜日。


神谷家では、朝からいつもとは少し違う空気が流れていた。


「パパ、まだー?」


「もう準備できたよ!」


「ママー! お出かけ楽しみー!」


大翔と遥香は、朝から落ち着かない様子で何度も玄関とリビングを行き来していた。


「ふたりとも、そんなに慌てなくても逃げないよ」


悠真が苦笑しながら言う。


「だって今日は特別な日だもん!」


遥香が満面の笑みで答える。


今日は、家族みんなで小旅行に出かける日だった。


行き先は――。


悠真と美紅が初めてふたりきりで出かけた場所。


観覧車のある海辺の街だった。


「懐かしいなぁ」


車を運転しながら悠真が呟く。


助手席に座る美紅も、窓の外を眺めながら微笑んだ。


「本当にね」


「まさか、あの頃はこんな未来になるなんて思ってなかった」


「うん」


後部座席では、大翔と遥香が楽しそうに外を眺めている。


その隣では瑞稀が双子の相手をしていた。


「瑞稀姉さん、本当に来なくてよかったのに」


美紅が笑う。


「何言ってるの。家族旅行なんだから当然でしょ」


「ありがとう」


「それに、私も久しぶりにここへ来たかったしね」


車内は終始笑い声に包まれていた。


◇◇◇


昼前。


一行は目的地へ到着した。


海沿いに広がるショッピングモール。


そのすぐ横には、大きな白い観覧車がそびえ立っていた。


「わぁー!」


「大きい!」


双子は大興奮だった。


「パパ、乗ろう!」


「もちろん」


まずは家族全員で観覧車へ向かう。


ゆっくりと上昇していくゴンドラ。


眼下には美しい海が広がっていた。


「綺麗……」


美紅が小さく呟く。


「そうだな」


悠真も窓の外を見つめる。


「パパとママは、ここに来たことあるの?」


大翔が尋ねる。


「あるよ」


「初めてふたりでゆっくり話した場所なんだ」


「へぇー!」


「ここでね」


美紅が少し照れながら話し始める。


「パパと将来の話をしたの」


「将来?」


「うん」


「その時は、まだ大翔も遥香もいなかったんだよ」


「僕たちいなかったの?」


「いなかったよ」


「じゃあ、どうして僕たちが生まれたの?」


遥香の純粋な質問に、大人たちは思わず笑った。


「パパとママが、ふたりに会いたかったからかな」


美紅が優しく答える。


「そっか!」


遥香は満足そうだった。


観覧車が頂上に到着する。


そこから見える景色は、数年前と変わらず美しかった。


悠真はそっと美紅の手を握る。


美紅も優しく握り返した。


「変わらないな」


「うん」


「景色も」


「私たちも?」


「いや」


悠真は微笑んだ。


「景色は変わらないけど、俺たちはもっと幸せになった」


美紅は少し目を潤ませた。


「そうだね」


◇◇◇


昼食を終えた後。


一家は海辺を散歩していた。


双子は波打ち際で楽しそうに遊んでいる。


「見て見て!」


「貝殻見つけた!」


「すごいな」


悠真はふたりの姿をスマートフォンで撮影していた。


その様子を見ていた瑞稀が言う。


「悠真、昔より写真撮るの上手くなったね」


「毎日撮ってるからな」


「子どもたちの写真、もう何万枚あるの?」


「数えてない」


「完全に親バカだね」


「否定はしない」


全員が笑った。


しばらくすると、双子が駆け寄ってくる。


「パパ!」


「ママ!」


「どうした?」


「これ!」


ふたりはそれぞれ貝殻を差し出した。


「家族みんなの分!」


「ありがとう」


「宝物にする」


美紅は嬉しそうに受け取った。


◇◇◇


夕方。


海へ沈んでいく夕日を見ながら、家族全員がベンチに座っていた。


「綺麗だね」


遥香が呟く。


「そうだな」


「また来たい?」


悠真が尋ねる。


「うん!」


「毎年来たい!」


「僕も」


双子は元気よく答えた。


「じゃあ約束しようか」


美紅が言う。


「毎年、みんなで来よう」


「約束!」


双子は嬉しそうに笑った。


その光景を見ながら、悠真は静かに口を開いた。


「俺さ」


「うん?」


「昔は、自分にこんな未来が待ってるなんて思ってなかった」


「……うん」


「好きな人と結婚して、子どもが生まれて、家族ができて」


「幸せ?」


瑞稀が尋ねる。


悠真は迷わず頷いた。


「うん」


「世界で一番幸せだと思う」


美紅は優しく笑った。


「私も」


そして、美紅は悠真の肩にもたれかかる。


「これからも、よろしくね」


「こちらこそ」


大翔と遥香が、そんな両親の間へ飛び込んできた。


「僕たちもいるよ!」


「ずっと一緒!」


「もちろん」


悠真はふたりを抱きしめた。


家族。


それは、血の繋がりだけではない。


一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に未来を歩いていく存在。


これから先も、きっと色々なことがあるだろう。


嬉しいことも。


悲しいことも。


迷うことも。


立ち止まることも。


それでも――。


この家族なら、きっと大丈夫。


海へ沈む夕日が、五人の背中を優しく照らしていた。


これからの僕たち。


これからの私たち。


家族と歩むその先へ――。  



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