第9話「ふたりの約束、子どもたちの夢」
十月。
空は高く澄み渡り、街路樹の葉が少しずつ色づき始めていた。
神谷家のリビングにも、秋らしい穏やかな空気が流れていた。
日曜日の朝。
珍しく予定のない休日だった。
「今日はどこ行く?」
朝食を食べ終えた遥香が、牛乳を飲みながら尋ねる。
「今日はみんなで公園に行こうか」
悠真が提案すると、双子は目を輝かせた。
「やったー!」
「大きい公園がいい!」
「じゃあ、お弁当持って行こう」
美紅が笑う。
「ママのお弁当!」
「パパも手伝うぞ」
「じゃあ、私は監督かな」
瑞稀がコーヒーを飲みながら笑った。
「姉貴、手伝え」
「はーい」
こうして、神谷家総出のお弁当作りが始まった。
◇◇◇
午前十時。
家族は郊外にある大型公園を訪れていた。
芝生広場では、多くの家族連れがレジャーシートを広げている。
「パパー! 鬼ごっこしよう!」
「いいぞ」
「僕も!」
双子は元気よく走り出した。
「待て待てー!」
悠真も本気で追いかける。
「パパ遅ーい!」
「もっと頑張ってー!」
その様子を、美紅と瑞稀はベンチに座りながら微笑ましく見守っていた。
「悠真くん、完全に子どもと同じテンションだね」
「昔からああいうところあるよね」
「うん」
「でも、ああいうところが好き」
美紅は優しく笑った。
しばらく遊んだ後、一家は芝生の上でお弁当を広げた。
「いただきます!」
「いただきます」
外で食べるお弁当は格別だった。
「ママの卵焼き美味しい!」
「パパのおにぎりも!」
双子は夢中になって食べている。
すると、遥香が突然言った。
「ねぇ、パパ」
「ん?」
「大きくなったら何になりたい?」
「俺?」
「うん!」
悠真は少し考えた。
「今?」
「うん」
「今は……家族を幸せにできるパパかな」
「えー!」
「職業じゃないじゃん!」
遥香が笑う。
「じゃあ遥香は?」
「私はねー」
遥香は元気よく答えた。
「ママみたいなモデルさん!」
「そうなの?」
「うん!」
「でも、保育園の先生にもなりたい!」
「どっちも素敵だな」
「大翔は?」
大翔は少し考え込んだ。
「僕は……」
「うん」
「パパみたいなお仕事したい」
「俺みたいに?」
「うん」
「パパ、いつも頑張ってるから」
悠真は思わず言葉を失った。
「ありがとう」
「あとね」
大翔は続ける。
「ママみたいに優しい人になりたい」
その言葉に、美紅の目が潤む。
「大翔……」
「なんだか泣きそう」
瑞稀も苦笑した。
◇◇◇
午後。
公園内で開催されていた『未来の夢コーナー』。
子どもたちは大きな模造紙に将来の夢を書くことになった。
遥香は一生懸命クレヨンを動かす。
大翔も真剣だった。
書き終わった二人は、誇らしげに家族へ見せる。
遥香の紙には、
『モデルさんとほいくえんのせんせい』
大翔の紙には、
『パパみたいなかいしゃいん』
と書かれていた。
「立派な夢だな」
悠真は優しく頭を撫でる。
「でもね」
遥香が続ける。
「パパとママみたいな夫婦にもなりたい!」
「!」
「僕も」
大翔も頷いた。
「パパとママ、仲良しだから」
「毎日ちゅーしてるし」
「……」
「……」
悠真と美紅は顔を見合わせる。
瑞稀は大笑いしていた。
「子どもってよく見てるねぇ」
「姉貴」
「事実でしょ?」
「まあ……」
美紅は少し顔を赤くした。
◇◇◇
その夜。
子どもたちが寝た後。
リビングでは、悠真と美紅が温かいコーヒーを飲んでいた。
「今日の夢の話、嬉しかったね」
美紅が言う。
「ああ」
「子どもたちなりに、ちゃんと見てるんだな」
「そうだね」
しばらく静かな時間が流れる。
やがて悠真が口を開いた。
「美紅さん」
「ん?」
「俺、もう一つ夢があるんだ」
「夢?」
「うん」
「いつか、家族みんなで何か一つの作品を作ってみたい」
「作品?」
「映画でも、写真集でも、ドキュメンタリーでもいい」
「家族の記録を残したいんだ」
美紅は驚いたように目を見開いた。
「素敵」
「本当?」
「うん」
「私も参加したい」
「もちろん」
「じゃあ約束ね」
美紅は小指を差し出した。
「約束」
二人は指切りをする。
それは、夫婦としての新しい約束だった。
◇◇◇
その頃。
寝室では――。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「パパとママ、ずっと仲良しだといいね」
「うん」
「きっと大丈夫」
大翔は優しく答えた。
「だって、パパとママだもん」
窓の外では、秋の夜空に星が輝いていた。
子どもたちの夢。
夫婦の夢。
そして、家族の未来。
それぞれの想いを胸に、神谷家は今日も静かに眠りにつく。
明日もまた、温かな日々が続いていくのだから。
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