第5話「姉と妹、未来を語る夜」
六月下旬。
雨上がりの夕方。
神谷家のリビングには、いつものように穏やかな時間が流れていた。
「パパー! 見て見て!」
遥香が勢いよく駆け寄ってくる。
「どうした?」
「これ!」
差し出されたのは、保育園で描いた家族の絵だった。
中央には悠真と美紅、その両脇には大翔と遥香。そして少し後ろには、しっかりと瑞稀の姿も描かれている。
「おお、上手だな」
「瑞稀おばちゃんもいる!」
「だって家族だもん!」
遥香は当たり前のように言った。
その言葉に、キッチンで夕食の準備をしていた瑞稀の手が一瞬止まった。
「……家族、か」
小さく呟く。
その様子を美紅は見逃さなかった。
◇◇◇
その日の夕食後。
子どもたちが寝静まり、悠真が食器洗いをしている頃。
瑞稀は珍しく美紅を自室へ呼んだ。
「美紅、ちょっといい?」
「うん」
瑞稀の部屋。
昔からほとんど変わらないシンプルな部屋だった。
「どうしたの?」
「ちょっと相談」
瑞稀はコーヒーを二人分淹れながら言った。
「珍しいね」
「私だって相談くらいするよ」
そう言って瑞稀は苦笑する。
しばらく沈黙が続いた。
やがて瑞稀はゆっくり口を開いた。
「私ね」
「うん」
「そろそろ独立しようかなって思ってる」
「独立?」
美紅は驚いた。
「うん」
瑞稀は頷く。
「今まではマネージャーとして、モデルとして、ずっと事務所に所属してきた。でも最近思うんだ」
「何を?」
「私自身の会社を作ってみたい」
「……!」
美紅は目を見開いた。
「新人モデルの育成とか、マネジメントとか。そういう仕事をしてみたいんだ」
「すごい……」
「でもね」
瑞稀は少し笑う。
「正直、不安もある」
「瑞稀さんが?」
「そりゃあるよ」
瑞稀は窓の外を見る。
「今までずっと、美紅や悠真、子どもたちと一緒に生活してきたでしょ?」
「うん」
「だから、この生活が変わるのが少し怖い」
美紅は静かに聞いていた。
瑞稀は続ける。
「それに……」
「うん」
「私はずっと、誰かを支える側だったから」
「……」
「弟を支えて、美紅を支えて、子どもたちを支えて」
「瑞稀さん」
「でもね。最近、少しだけ自分の人生を考えるようになった」
美紅は優しく微笑んだ。
「いいことだと思う」
「本当に?」
「うん」
美紅は迷わず答えた。
「瑞稀さんは、今まで私たちをいっぱい支えてくれた」
「……」
「だから今度は、瑞稀さんが自分の夢を叶える番」
瑞稀は少し照れたように笑った。
「美紅って、時々すごく真っ直ぐなこと言うよね」
「だって本当だもん」
「ありがとう」
◇◇◇
その週末。
神谷家を訪ねてきたのは、美紅の妹・篠原伶菜だった。
中学生になった伶菜は、以前よりずっと大人びていた。
「お姉ちゃん、久しぶり」
「伶菜!」
「大翔くんも遥香ちゃんも大きくなったね」
「れなお姉ちゃん!」
「遊ぼう!」
双子はすっかり伶菜に懐いていた。
「そういえば」
夕食の席。
悠真が尋ねた。
「進路、もう考えてるのか?」
「うん」
伶菜は頷く。
「芸能コースのある高校を受験しようと思ってる」
「そうなの?」
美紅が驚く。
「うん。お姉ちゃんみたいになりたいから」
「私みたいに?」
「うん」
伶菜は少し照れながら言った。
「お姉ちゃん、ずっと憧れだったし」
美紅は少し言葉に詰まった。
「でも、大変だよ?」
「分かってる」
「辛いこともたくさんある」
「それでも」
伶菜は真っ直ぐ美紅を見る。
「私は挑戦したい」
美紅はしばらく黙っていた。
やがて優しく微笑む。
「じゃあ、応援する」
「本当?」
「うん。でも、勉強も頑張ること」
「はい!」
◇◇◇
夜。
子どもたちが寝た後。
リビングには悠真、美紅、瑞稀の三人が集まっていた。
「伶菜ちゃん、立派になったね」
悠真が言う。
「うん」
美紅は頷いた。
「聖も来年には中学生だし」
「時間が経つのは早いな」
瑞稀はソファにもたれながら言った。
「私たちも年取るわけだ」
「姉貴はまだ若いだろ」
「三十代突入してるんだけど?」
「それでも若いよ」
瑞稀は苦笑した。
「ありがとう」
そして。
少し真剣な表情になる。
「ねぇ、二人とも」
「ん?」
「私、独立しようと思う」
悠真と美紅は顔を見合わせた。
「本気なんだな」
「うん」
「応援するよ」
悠真は即答した。
「俺も美紅さんも、ずっと姉貴に支えられてきた」
「だから今度は俺たちが支える番だ」
美紅も大きく頷く。
「私も全力で応援します」
瑞稀は二人を見て笑った。
「ありがと」
その瞳には、少しだけ涙が浮かんでいた。
家族。
血の繋がりだけではない。
支え合い、共に歩んできた時間こそが家族を作る。
そしてそれぞれが、それぞれの未来へ向かって歩き始めようとしていた。
新しい夢。
新しい挑戦。
その先に待つ未来を信じながら――。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




