第3話「パパの参観日、ママの収録日」
五月の柔らかな陽射しが降り注ぐ土曜日。
神谷家では、朝からいつも以上に慌ただしい時間が流れていた。
「パパ! 今日は絶対に来てね!」
朝食を食べながら、遥香が念を押すように言う。
「もちろん。今日は大翔と遥香の参観日だからな」
「やったー!」
「パパ、約束だよ?」
大翔も真剣な表情で確認する。
「約束だ」
悠真が笑いながら答えると、ふたりは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
しかし、その隣で美紅は少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「ごめんね、悠真くん。本当は私も行きたかったんだけど……」
今日は以前から決まっていたテレビ番組の収録日だった。
どうしてもスケジュールを変更することができなかったのである。
「気にしなくていいよ。今日は俺がしっかり見てくる」
「ありがとう」
「あとで動画も撮ってくる」
「うん」
瑞稀もコーヒーを飲みながら笑う。
「美紅は仕事頑張ってきな。今日は悠真が一日パパ代表だね」
「そうだな」
こうして悠真は、双子を連れて保育園へ向かった。
◇◇◇
保育園に到着すると、すでに多くの保護者たちが集まっていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
保護者同士の挨拶が飛び交う。
その中に入ると、数人の保護者がすぐに悠真に気付いた。
「あの……神谷さんですよね?」
「はい」
「もしかして……篠原美紅さんの旦那さんですか?」
「ええ、そうです」
すると周囲の母親たちが一斉に集まってきた。
「やっぱり!」
「テレビで見たことあります!」
「CM、家族みんなで見てます!」
「美紅さん、本当に綺麗ですよね!」
悠真は苦笑しながら頭を掻いた。
「ありがとうございます」
すると、隣にいた父親の一人が笑った。
「神谷さん、有名人ですね」
「いや、俺は普通の会社員ですよ」
「でも、あの美紅さんと結婚したのは凄いですよ」
「どうやって結婚したんですか?」
「家ではどんな感じなんですか?」
質問攻めになる悠真。
「家では普通ですよ。子どもと遊んだり、一緒にご飯食べたり」
「美紅さん、料理します?」
「最近はかなり上手になりました」
「へぇー!」
周囲から感嘆の声が上がる。
「神谷さんは料理するんですか?」
「します。朝ご飯も結構作りますね」
「素敵!」
「うちの主人にも聞かせたいわ」
母親たちが笑い合う。
父親たちも興味津々だった。
「育児は大変ですか?」
「大変ですけど、楽しいですよ」
「やっぱり家族っていいですよね」
そんな会話をしていると、担任の先生がやってきた。
「神谷さん、おはようございます」
大翔の担任である坂井先生と、遥香の担任である進藤先生だった。
「今日はありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
進藤先生は少し緊張した様子で言った。
「あの……実は私、美紅さんの大ファンなんです」
「そうなんですか」
「もし機会があればサインを……」
「今度聞いてみます」
「本当ですか!」
進藤先生は嬉しそうだった。
◇◇◇
参観が始まる。
まずは朝の会。
「みなさん、おはようございます!」
先生の声に、園児たちが元気よく返事をする。
大翔も遥香も、しっかり椅子に座っていた。
歌を歌い、出席確認をして、工作の時間になる。
大翔は真剣な表情で折り紙を折り、遥香は色鉛筆で一生懸命絵を描いていた。
そんな子どもたちの姿を見て、悠真は胸が熱くなった。
(大きくなったな……)
すると突然、先生が言った。
「今日はお父さん、お母さんにインタビューしてみましょう」
園児たちは大盛り上がりだった。
そして、なぜか遥香が勢いよく手を挙げた。
「はーい!」
「遥香ちゃん、どうしたの?」
「うちのパパに聞きたいことがあります!」
教室中が笑いに包まれる。
「神谷さん、お願いします」
「え?」
悠真が前に出る。
すると、遥香は真剣な顔で言った。
「パパ!」
「ん?」
「ママ以外の女の人を好きになったらダメだからね!」
一瞬。
教室が静まり返った。
次の瞬間――。
「ぶっ!」
「ははははは!」
「遥香ちゃん!」
保護者も先生も大爆笑だった。
「どうして?」
悠真が苦笑しながら聞く。
「だってママが一番だから!」
「そうだな」
「約束!」
「分かったよ」
すると今度は大翔が立ち上がった。
「僕も!」
「ん?」
「パパ、浮気したらダメだからね」
「しないよ」
「絶対?」
「絶対」
「約束?」
「約束」
すると教室中の園児たちが一斉に叫んだ。
「パパ、浮気しちゃダメー!」
「ママを大事にしてねー!」
「約束ー!」
悠真は苦笑しながら両手を挙げた。
「分かった! 分かったよ!」
「やったー!」
教室は大盛り上がりだった。
後ろで見ていた母親たちは微笑みながら言った。
「神谷さん、本当に愛されてますね」
「羨ましい家族です」
「美紅さんも安心ですね」
悠真は少し照れながら答えた。
「家族が一番大事ですから」
その言葉に、教室は温かな拍手に包まれた。
参観終了後。
大翔と遥香は両側から悠真の手を握った。
「パパ、来てくれてありがとう!」
「楽しかった!」
「こちらこそ、ありがとう」
悠真はふたりの頭を優しく撫でた。
父親として過ごす時間。
それは何にも代え難い、かけがえのない宝物だった。
その頃、美紅も収録を終え、スマートフォンに送られてきた動画を見ながら、優しく微笑んでいた。
「……やっぱり、うちのパパが世界一だね」
そう呟きながら。
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