第10話「未来へ繋ぐ、小さな手」
朝。カーテンの隙間から、優しい日差しが差し込む。
神谷家のダイニングには、いつもより少し賑やかな空気が流れていた。
双子の大翔と遥香が、テーブルの上でパンの耳を分け合いながら、小さな声で何やら話している。
美紅はエプロン姿でキッチンに立ち、悠真は新聞を読みながらも、時折ふたりの子どもを見つめて笑っていた。
「……ねぇ悠真、子どもたち、大きくなったよね」
「うん。最初は何もできなかったのに、今じゃ“ママ大好き”って毎朝言ってくるしな」
「……あら、パパには?」
「“パパは仕事、がんばって”だってさ。俺の方が現実的な役割だよ、たぶん」
美紅は笑いながら、お皿を並べる。
その日は、午後から美紅の新しいCMの撮影がある。復帰してから数ヶ月、少しずつ仕事の幅も広がり、やっと“母としてのリズム”を掴み始めたところだった。
一方で悠真も、職場での信頼を積み上げ、着実に“若手のホープ”としての地位を固めていた。
――午後。
撮影スタジオでは、美紅が衣装に着替え、撮影準備に入っていた。
その横で、瑞稀がタブレット片手にスケジュールを確認している。
「今日は夕方までに終わるはずだから、そのあとは家族で外食でもどう?」
「いいね。あのさ、伶菜と聖も誘って、ママも一緒にってどうかな」
「大人数になるけど……いいじゃん。うちの家族らしくて」
撮影の合間、美紅がメイクチェアで深呼吸していると、スタッフの女性がそっと声をかけてきた。
「篠原さん……今日も素敵ですね。お子さんがいるなんて信じられないくらい、変わらず綺麗です」
「ありがとうございます。……でもね、母になってからの方が、毎日がもっと色づいて見えるようになったんです」
モニターに映る、美紅の柔らかな笑顔。
その瞳の奥には、“芸能人”としての光ではなく、“母”としてのぬくもりが宿っていた。
――夜。
神谷家に戻った美紅は、リビングで大翔と遥香を膝に乗せながら、絵本を読み聞かせていた。
「これはね、“おおきくなったら、なにになりたい?”ってお話だよ」
「はーちゃんは、ママみたいになる!」
「ひーくんは……パパと一緒にしごとする!」
悠真がその言葉に目を細める。
「……なんか、泣きそうになるな」
「ふふっ、私も」
美紅がそっと、悠真の手を握る。
「悠真、ありがとう。いつも私を、家族を守ってくれて」
「俺の方こそ……ありがとう。こんな素敵な家族、俺ひとりじゃ絶対に作れなかった」
そして、ふたりは子どもたちにキスをして、そっとリビングの照明を落とす。
暗がりの中、重なった手と手、小さな手と、大きな手。
家族という“かたち”は、変わっていくものではなく、
日々の積み重ねの中で、育っていくものなのだと――
そう、確かに実感した夜だった。
カーテン越しに見える月は、今日も穏やかに、家族の未来を照らしていた。
新シリーズ予定です。
『これからの僕たち、私たち――家族と歩むその先へ』
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