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第9話「母と娘、姉と妹――それぞれの距離感」




ある春の陽だまりの午後。

悠真は妻・美紅と双子の子どもたちを連れて、久しぶりに篠原家――美紅の実家を訪れた。


伶菜れなは中学生になり、制服姿でリビングに現れると、

「お姉ちゃん、ママっぽくなったね」と少し照れたように笑った。


弟のひじりはまだ小学生。玄関に走ってきて、

「ゆーまお兄ちゃん!ひさしぶりっ!」と元気に飛びついてくる。


「お前、相変わらず人懐っこいな」

悠真は笑いながら、聖の頭を優しく撫でた。


その様子を、キッチンから母・枇杷ひわが微笑ましそうに見ていた。

「……あんた、ほんとに母親になったのね」

そう言って差し出した湯飲みには、ほんのり温かいほうじ茶が注がれていた。


リビングの窓際で、母と娘の静かな時間が流れる。


「ママとしての顔、もう慣れた?」

「……正直、まだわかんない。でも、幸せ。悠真がいるから」

「そう。あの子、本当に優しいものね。……私が、昔欲しかった夫像にちょっと似てる」


ふと、枇杷の目が遠くを見た。

娘の美紅は、その言葉に小さく笑って、そっと母の手を握る。


「ママも、ひとりで大変だったよね。私も……わかる気がしてきた」

「でもね」

母はゆっくりと、美紅の手を握り返した。

「あなたには瑞稀さんも、悠真さんもいる。何かあったら、私にも言って」


その頃、別室では瑞稀が伶菜と話していた。

ソファに並んで座り、ちょっとだけ大人びたトーンで。


「れなちゃん、最近どう?学校は」

「うん、楽しいよ。でも……お姉ちゃんが結婚してから、ちょっとさびしい」

「そっか。……でも、伶菜ちゃんのこと、お姉ちゃん毎日話してるよ。聖くんのことも」

「ほんと?」

「ほんと。――ほら、美紅ってさ。ちょっと不器用だけど……愛情深いから」

「うん。……瑞稀お姉ちゃん、わたしも好きだよ」


ふたりが微笑む。その空気は、まるで“もう一人の姉妹”のようだった。


リビングに戻った美紅が、「ねぇ、ちょっとだけ、ママとふたりで話していい?」と瑞稀に声をかける。


悠真は「じゃあ、俺が子どもたち見てるよ」と言って、庭で聖と遊びながら伶菜の制服姿を写真に収めていた。


キッチンに入った美紅と瑞稀。


「瑞稀さん……ほんとに、ありがとう」

「急にどうしたの」

「……わたし、子育てのことも、家のことも、芸能のことも……正直ひとりじゃ抱えきれなくて」

「それを抱えるのが“姉”の役目でしょ?」

瑞稀は冗談めかして肩をすくめる。


「……あなたが“お姉ちゃん”で、よかったって思ってる」

「ふふ、それ言われると、悪い気しないね」


ふたりは顔を見合わせ、ほんの少し涙ぐみながらも、笑った。


夕暮れ、帰り際。

玄関で、枇杷が静かに言った。


「美紅、悠真さん……ありがとうね。家族を、ちゃんと“家族”にしてくれて」

「いえ、こちらこそ……」

悠真は少し照れたように頭を下げ、美紅の手を握った。


「また来るね、ママ」

「うん。子どもたちの顔、たまに見せに来て。母として、ばあばとして、楽しみにしてるから」


玄関を出た5人――

春の風が、静かに彼らの背中を押していた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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