第10話「家族と夢の、これから」
春の陽射しが、窓からやわらかく差し込んでいた。
リビングには、ミルクの香りと洗濯物の柔軟剤の匂いが混ざる、家庭ならではの“ぬくもり”が漂っていた。
神谷家は今日も、にぎやかで優しい音に包まれている。
「ほら、大翔、遥香、彩……今日はパパの“初出社”の日だよ」
美紅が赤ちゃんたちに語りかけると、双子と彩は嬉しそうに手足をバタつかせた。
悠真はスーツ姿で玄関に立ち、鏡でネクタイを整えていた。
「なんか……緊張するな、やっぱり」
「ふふ、かっこいいよ。――ね、子どもたちに行ってらっしゃいの“ちゅー”してあげて?」
そう言われ、悠真は3人におでこにキスをする。
そして最後に、美紅の前に立つと、彼女が微笑みながら口元を突き出した。
「わたしにも、行ってらっしゃいの“ちゅー”、欲しいな」
「もちろん。……ただいま、も忘れないでね」
キスを交わしたあと、悠真は玄関の扉を開けた。
新しい職場、新しい仲間、そして――“家族のために頑張る未来”へと、一歩を踏み出していった。
──
美紅は芸能活動への復帰に向けて、スケジュールを少しずつ動かしていた。
育児のために制限された現場数、短時間の撮影。
それでも彼女には、確かな支えがあった。
それは――瑞稀と、悠真。
「やっぱり、お姉ちゃんがマネージャーでよかったよ」
「当たり前でしょ。私が“いちばん最初のファン”なんだから」
瑞稀は笑って、撮影現場の横で美紅の髪を軽く整える。
その日は育児雑誌の表紙撮影だった。テーマは「ママと赤ちゃんの春」。
スタッフから「双子ちゃんたちも一緒にお願いします」と言われ、
現場には悠真も顔を出し、子どもたちと並んで撮影が進められた。
──
撮影後、控室で美紅がぽつりと呟いた。
「わたし、夢だったの。こうやって、家族みんなでお仕事できる日が来ること」
「夢、叶ったんだな」
悠真は彼女の手を取って、優しく握る。
「まだまだ途中だよ。これからもっと――“叶えたい夢”、たくさんあるから」
──
夜。
寝静まった子どもたちの傍らで、2人は寄り添ってソファに腰掛けていた。
「明日も、仕事だな」
「うん。でも……明日が来るのが、楽しみだよ」
美紅は悠真の肩に頭を寄せる。
「あなたと一緒に、家族で過ごせる明日なら、どんなに忙しくても、幸せって思えるから」
悠真は微笑みながら、美紅の額にそっとキスをした。
「……俺も。これからも、ずっと一緒にいような」
静かな部屋に、双子と彩の寝息が微かに聞こえる。
そして、ふたりの胸には、これから始まる“家族としての物語”が
確かに息づいていた。
――“君となら、どんな未来も、きっと愛せる”。
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