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第2話「再始動のカメラ前、母としての決意」



篠原美紅、復帰。

その言葉が事務所の社内LINEに静かに流れたとき――スタッフたちは驚きと同時に、少し誇らしげに頷いた。


「……ついに、美紅さんが戻ってくるんだ」


CM撮影の準備は静かに、しかし着実に進められていた。



ある春の朝。


瑞稀はキャリーバッグに衣装を詰め、美紅の横で軽くストレッチをしていた。


「今日はあんたが“主役”なんだからね。

産後初めての現場。だけど、あんたならできるよ」


「……ありがとう、瑞稀お姉さん。

久しぶりだから、少し緊張してるけど……子どもたちのためにも、頑張りたいの」


寝室では、双子の大翔と遥香がベビーベッドで微睡んでいる。

その寝顔を何度も見返してから、美紅はようやく自宅を後にした。



撮影スタジオでは、悠真が先に到着していた。

今日は、会社の一社員としてではなく――「夫」として、美紅の背中を支えるために。


「神谷さん、今日は旦那さんなんですね」とスタッフの一人が笑いかける。


「……ええ。少しだけお邪魔してます」


その声に、現場は温かく和やかな空気が流れた。


やがて、美紅が到着。


ライトに照らされるその姿は、モデルでも女優でもない。

母となったひとりの女性の、まっすぐで凛とした美しさだった。


「よろしくお願いします」と深く頭を下げると、スタッフたちから自然と拍手が起きた。



CMのテーマは「家庭で楽しむ外食体験」。


キッチンで料理を運び、笑顔で食卓に並ぶ――

たった30秒の映像のために、何度もカメラの前に立つ。


途中、ふとセリフを噛んでしまった美紅は、自分の腕を見て小さく呟いた。


「……ママになったって、私、まだまだ頑張れる」


そのひと言を聞いていた悠真は、モニターの横で深く頷いた。


「……美紅さん、やっぱりあなたはすごいよ」


撮影が終わったあと、瑞稀がタオルとドリンクを差し出した。


「お疲れ、美紅。久しぶりにしては、十分すぎるくらいの出来よ。

ただ、また明日も現場あるからね?体力配分はしっかり考えて」


「うん、分かってる。……でも、楽しかった。

何より、子どもたちに“かっこいいママ”の姿、見せたいから」



その夜――


自宅のリビングで、美紅は大翔と遥香を左右に抱えながら、悠真の肩に頭を預けた。


「今日は……ちゃんとできてた?」


「うん、完璧だった。スタッフさんみんな、褒めてたよ。

“母親になっても、まぶしいくらいの輝き”だって」


美紅は小さく笑った。


「……じゃあ、明日も頑張らなきゃね。

この子たちにとって、世界一のママになるために」


その声に、瑞稀がキッチンから「世界一の嫁でもあってね〜!」と茶々を入れて、

家の中はいつものように、あたたかな笑いで包まれた。


それは、“母”として、“妻”として、そして“芸能人”として――

美紅の新しい人生が、静かに、でも確かに動き始めた瞬間だった。



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