第10話(最終話)「五周年前夜――夢は、まだ始まったばかり」
春。
柔らかな陽射しが都内を包み込む頃――。
M’s Create Entertainmentは、間もなく設立五周年を迎えようとしていた。
五年前。
篠原瑞稀がたった一人で立ち上げた小さな芸能事務所。
最初の所属タレントは一人だけだった。
その一人こそ、篠原美紅。
瑞稀にとっては義妹であり、家族であり、そして誰よりも信頼する女優だった。
あの日から五年。
事務所は大きく成長した。
所属女優五十人。
スタッフ三十人。
そして、今年新たに加わった十人の新人女優たち。
M’s Create Entertainmentは、今や芸能界でも若手育成に定評のある事務所として知られる存在になっていた。
◇◇◇
設立五周年記念イベントを一週間後に控えたある日。
私は社長室で、五年前の写真を見返していた。
設立当初の小さな事務所。
古いデスク。
中古で購入したソファ。
まだ無名だった頃の美紅。
そして、右も左も分からず必死だった自分。
「懐かしい?」
後ろから声がした。
振り返ると、美紅がコーヒーを持って立っていた。
「うん」
私は笑う。
「こんなに大きくなるなんて思わなかった」
「私は思ってたよ」
「え?」
「瑞稀さんなら絶対成功するって」
美紅は微笑みながら隣へ座った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
しばらく二人は写真を眺める。
「でも、本当にたくさんの人に支えられたね」
「うん」
悠真。
大翔。
遥香。
家族。
スタッフ。
所属タレントたち。
その全員の存在があったからこそ、今がある。
◇◇◇
その頃。
レッスンスタジオでは、新人たちが五周年イベントのリハーサルを行っていた。
「もう少し笑顔!」
「はい!」
「次、立ち位置確認!」
忙しく動き回る新人たち。
その姿を見ながら、先輩女優たちも微笑んでいた。
「皆、成長したよね」
久遠琉唯が言う。
「最初はあんなに緊張してたのに」
雨宮星蘭も頷いた。
「今じゃ立派な後輩だよ」
綺星たちも先輩女優たちに囲まれながら、少し照れたように笑う。
「ありがとうございます」
「でも、まだまだです」
月詠音が言う。
「私たち、もっと頑張ります」
その言葉に、先輩たちは大きく頷いた。
◇◇◇
リハーサル終了後。
新人十人は、屋上へ集まっていた。
夕暮れ。
オレンジ色に染まる空。
綺星が空を見上げる。
「私たち、ここに来てまだ一年も経ってないんだよね」
「早いね」
瑠璃寧が笑う。
「でも、凄く濃かった」
「うん」
月詠音も頷く。
オーディション。
レッスン。
初仕事。
ドラマ。
映画オーディション。
海外プロジェクト。
泣いた日もあった。
悔しい日もあった。
それでも。
「ここに来てよかった」
咲琉愛が言う。
「私も」
「私も」
十人全員が頷いた。
その時だった。
屋上の扉が開く。
「皆、ここにいたのね」
現れたのは瑞稀と美紅だった。
「社長!」
「美紅さん!」
二人は新人たちの前へ立つ。
「皆に話があります」
瑞稀が言う。
新人たちは静かに耳を傾けた。
「皆は、この一年で本当に成長しました」
「でも」
「ここはゴールじゃない」
瑞稀は十人一人ひとりを見る。
「女優という仕事に終わりはありません」
「これから先、もっと辛いこともある」
「壁にぶつかることもある」
「それでも」
「夢を諦めないでほしい」
新人たちの目には涙が浮かんでいた。
すると、美紅も優しく言った。
「皆なら大丈夫」
「だって、皆は一人じゃないから」
「仲間がいる」
「先輩がいる」
「そして、私たちがいる」
綺星は涙を拭った。
「はい!」
「頑張ります!」
「絶対に夢を叶えます!」
元気な返事が屋上に響く。
瑞稀は微笑んだ。
「それでいい」
春の風が優しく吹き抜ける。
夢はまだ始まったばかり。
少女たちの未来は、無限に広がっている。
そして――。
M’s Create Entertainmentの新たな物語もまた、これから始まっていくのだった。
【『M’s Create Entertainment――夢を演じる少女たち』 完】
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