第1話「業務提携――二つの会社が繋がる日」
ここの時点で…
神谷悠真 27歳(社会人5~6年目)
篠原美紅 35歳
五月上旬。
東京。
大型連休明けの朝。
神谷悠真は、いつものように東京本社へ出社していた。
入社して五年。
現在の悠真は、新規プロジェクト推進室のリーダーとして複数の事業を担当している。
東京本社所属のままだが、現在も月に数回は大阪支社への定期出張を続けていた。
「神谷主任、おはようございます!」
「おはようございます」
「今日の会議資料、先ほどお送りしました!」
「ありがとう」
後輩社員たちへ声を掛けながら、自席へ向かう悠真。
すると。
内線電話が鳴った。
『神谷主任、至急、第三特別会議室までお越しください』
「第三特別会議室?」
悠真は首を傾げる。
第三特別会議室。
そこは、役員会議や重要案件でしか使用されない会議室だった。
「何だろう……」
少し不思議に思いながらも、悠真は会議室へ向かった。
◇◇◇
コンコン。
「失礼します」
扉を開けた瞬間。
悠真は思わず足を止めた。
そこには――。
会社幹部全員が揃っていた。
会社社長。
三條恒彦。
副社長。
八代直人。
直属の上司であり部長。
川嶋翔一。
専務。
瀬戸健一。
常務。
一ノ瀬遼太。
開発部長。
原口拓海。
企画部長。
秋山悠生。
さらに数名の取締役たちも同席していた。
「神谷君、座ってくれ」
三條社長が穏やかに言う。
「はい」
悠真は少し緊張しながら席へ座った。
(何か大きなミスでもしたかな……)
そう考えた悠真だったが、三條社長は笑顔だった。
「そんなに緊張しなくていい」
「今日は君に相談があってね」
「相談……ですか?」
「そうだ」
三條社長はゆっくり頷いた。
「まず最初に、今回の新規プロジェクトリーダーとしての働きを高く評価している」
「ありがとうございます」
「大阪支社との連携も非常に順調だ」
八代副社長も続く。
「君がいなければ、このプロジェクトはここまで進まなかった」
「恐縮です」
悠真は頭を下げた。
その時だった。
川嶋部長が微笑みながら言う。
「さて、本題だ」
「はい」
三條社長が資料を一枚、悠真へ差し出す。
そこには大きくこう書かれていた。
『芸能事業部設立構想』
「芸能事業部……ですか?」
悠真は驚く。
「そうだ」
三條社長は頷く。
「我が社は飲食、流通、企画、開発を中心に成長してきた」
「しかし今後は、エンターテインメント分野への本格進出も視野に入れている」
「その第一歩として、芸能部門を設立したいと考えている」
悠真は資料へ目を通した。
広告。
イベント。
CM。
モデル。
地域活性化事業。
新人発掘プロジェクト。
想像以上に大規模な計画だった。
「そこで――」
三條社長は少し笑った。
「君のお姉さんを紹介してもらえないだろうか」
「……姉ですか?」
「そう」
「篠原瑞稀社長だ」
悠真は一瞬言葉を失った。
当然だった。
篠原瑞稀。
M’s Create Entertainment社長。
そして。
悠真の実の姉である。
「ぜひ、M’s Create Entertainmentと業務提携を結びたい」
「我々だけでは芸能業界のノウハウが足りない」
「だが、瑞稀社長なら話は別だ」
八代副社長も頷く。
「我々は以前からM’s Create Entertainmentの育成方針を高く評価している」
「特に、篠原美紅さんを中心とした新人育成は素晴らしい」
その言葉に、悠真は苦笑した。
なぜなら。
この場にいる役員全員が知っているからだ。
篠原美紅が、悠真の妻であることを。
三條社長も笑う。
「もちろん、我々は知っている」
「神谷君の奥さんが、あの篠原美紅さんだということもね」
「はい……」
「だからこそ、君へお願いしたい」
「ぜひ一度、瑞稀社長と正式にお会いしたい」
悠真はしばらく考えた。
そして。
「分かりました」
「姉に相談してみます」
「本当か!」
会議室の空気が明るくなる。
すると。
今度は一ノ瀬常務が新たな資料を取り出した。
「実はもう一つ提案がある」
「提案ですか?」
「M’s Create Entertainment設立五周年記念パーティーについてだ」
悠真は頷いた。
「姉から聞いています」
「そこでだ」
三條社長が微笑む。
「ぜひ我が社も全面協力させてほしい」
「ホテルでも、我が社の大会議室でも構わない」
「社員たちと若手女優たちが交流できる場を作ってはどうだろうか」
「社員にとっても刺激になる」
「そして若手女優たちにとっても、社会を知る貴重な機会になる」
原口開発部長も続く。
「我が社の社員は全国に三十万人いる」
「抽選にはなるが、多くの社員が参加を希望するだろう」
秋山企画部長はすでに企画案を作り始めていた。
「記念イベントとの合同開催も面白そうですね」
「社員交流会も実施できます」
悠真は資料を見ながら驚いていた。
まさかここまで本格的な話になるとは思っていなかったからだ。
会議終了後。
廊下を歩きながら、川嶋部長が笑う。
「大変な役目を任せるな」
「そうですね」
「でも、神谷なら大丈夫だ」
悠真は小さく笑った。
「まずは姉に相談してみます」
その日の夜。
神谷家。
夕食を終えた悠真は、リビングでくつろぐ瑞稀と美紅へ話を切り出した。
「実は今日、会社で呼ばれてさ――」
その言葉から。
二つの会社の未来を変える、新たな物語が始まろうとしていた――。
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