お二人とも、お疲れ様でしたー!この後30分ほどしたら戻ってくるので、それまで待機していてください
残された妻は、半年後、やつれていた。
ローンで買った一戸建ては、連日のマスコミ、野次馬と落書きで荒れに荒れた。
娘のイジメもあり、ひそかに家を売り払って引っ越したが、引っ越し先もいじめは続いた。
カシエル「奥さんの里美さんの心に触れてください」
「はい」 スッ
絶望、悲しみ。彼女の半分を占めていた。
苦しみ、後悔、無気力。彼女は折れていた。
愛、希望、信頼。俺への気持ちが根強く残っていた。
(なんで、なんで俺を恨まない。なぜ俺への愛を持っているんだ!!)
(俺が里美をここまで追い込んだなら、憎悪と恨みを受けても構わない。でも…)
「カシエルさん。俺、学校を辞退します」
カシエル「…。まだ検定中ですよ」
「俺、ここまで考えてなかった。自分だけだった。これじゃあ来世だってまた車で罪を増やしてしまう」
「だから、俺はもう生きちゃいけないんだ。転生する資格なんてないんだって」
「痛みはいくらでも耐えることはできた。でも最愛の妻と娘への憎悪と、俺への愛は耐えられない」
カシエル「あなたはそこまで気づくことができた。ならば最後まで検定をやり遂げなさい」
「…。わかりました。全てを受け入れます」
会社、娘、妻、両親まで全ての気持ちを受け入れ、俺は耐えた。これだけありながら、涙すら出せない自分を悔やんだ。最後の最後まで、耐え抜いた。
「はい。佐藤さんの卒業検定は以上です。次は立花さんです、座席を入れ替えましょうか」
幸恵「はい。よろしくお願いします」
俺は後部座席で彼女の家族と未来を一緒に共有した。だがほとんど記憶に残っていない。
ただ、俺はもう終わったのだと。その気持ちと開放感でごちゃまぜになった。
「お二人とも、お疲れ様でしたー!この後30分ほどしたら戻ってくるので、それまで待機していてください」
「…」
幸恵「佐藤さん、大丈夫でした?」
「幸恵さん強いね。俺は、もう終わったんだコレで…」
「この14日間の転生者講習、決して無駄ではなかった。合否が何であれ、俺はここを出る」
幸恵「未練はないのですか?」
「ああ。皆のおかげだ」
短いようで長かった寮と教習所の思い出が走馬灯のように流れ落ちる。俺はこの後、地獄だろうが全て受け入れることができる。
カシエル「それでは合格者を言いますね! じゃーん、二人共合格デース!」
カシエル「佐藤90点、立花95点、おめでとー!」
「…え?」
幸恵「やったぁ!! やりましたよ佐藤さん!」
抱き着こうと重なるがすり抜ける幸恵さん。
スッと現れる校長。
ウリエル「ここからは我が話そう。カシエルは、あっちの教室を頼む」 「はーい」
「ウリエル校長…」
ウリエル「見えない所で、二人の心境の変化を観察していた。立花は、過去を受け入れて自分の罪を受け入れ、運転に対しての恐怖心を克服した」
ウリエル「次に佐藤。君は最後の最後で不足していた、残された人の未来に気づくことができた」
ウリエル「君は痛みに耐えるのは強い。だが鈍感すぎて再犯する可能性があった」
ウリエル「君の残り10分の行動が、合否を分けたと言っておこうか」
「ウリエル校長、俺…」
「俺は、来世で運転しても良いのですか?」
ウリエル「よいぞ。そのための講習だ。安全運転で来世を楽しめ」
「ありがとうございます…」
こうして、14日間の合宿、転生者講習は2人の卒業検定合格で幕を下ろした。
寮と自動車学校の魂疎通を切り、完全に天界への接点を絶った。あとは降りるだけだ。
寮長ルシファー「お、二人共合格したか! おめでとう。事故ってまた天界に来るなよ!」
「ルシファーさん、お世話になりました」 ペコリ
アナウンス「転生まであと10分。チキウニホン行きの転生バスに乗る方は、1階受付でお待ちください」
転生まであと10分。




