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「どうだった?」
カルロがティーカップを置きながらエリアナに尋ねる。
初めてエリアナが、カルロとキースとジルダと昼食を共にしてから1週間も経っただろうか。
結局、あれから学院に通う日はいつも昼食を共にしている。
休養室と言う名のクレメンティ家専用部屋と化したいつもの部屋、この部屋以外では完璧令嬢を見事に演じているエリアナの息抜きの場も兼ねている。
そんな訳でメンバーはエリアナとカルロ、キース、ジルダ、増えも減りもしていない。
元々カルロはクラウディオと一緒に昼食をとっていたのだが、書類を片手に仕事の話をしながら食べるクラウディオを食事に専念させるために、カルロは別に取ることに決めたらしい。
それを聞いた時に、カルロとジルダが何やら目と目で会話をしていた事をエリアナは知っている。
何を話していたかの内容も気になるが、それより何より、いつの間にそんなに仲が良くなったのか。
公爵令嬢の専属メイドともなると対人スキルも最上級なのだろう、問題はカルロだ。
小説のカルロはもっと素朴で無骨な、つまり女性の扱いに慣れていない純情ボーイだったはずなのだ。
黒川だって光凛の面倒を押し付けられていた頃は、仏頂面で無愛想で無遠慮でノンデリボーイだった。
光凛相手だからこその態度と言えなくもないが、それでも、有能な専属メイド相手とは言え、女性と短期間で急激に仲良くなれるタイプではなかったはずだ。
光凛が死んだあと何年生きたか知らないが、ここまで女性の扱いに長けるだなんて、一体どんな経験を積んだんだ黒川。恐ろしい子。
などと余計なお世話でしかない妄想に浸っていたエリアナは、カルロとジルダにより密かに少しだけ増やされている1人前の食事を完食すると、カルロに小首をかしげる。
「何が?」
「あったんだろ?」
誰に?と質問で返すのをエリアナは止めた。
カルロは言葉数を減らして時短する程、早く聞きたいのだ。
エリアナとて早く話したくて、うずうずしていた位だ。
「あ、フィオリーナ?会った会った!めっちゃめちゃ可愛いね!!なにあれ!反則級!あんなの好きにならない男がいたら見てみたいわ、女のあたしでもホレたもん!!」
ピンクブロンドの髪がふわふわと揺れ、小さな顔に零れんばかりのライラックの瞳が綺麗に澄んでいた。
エリアナも美人だが、フィオリーナは可愛くてキュートでチャーミングで愛らしくて、とにかくもう、たまらん。
あれは王子もカルロもその他大勢モブ男くん達も、誰も彼もがハート持ってかれちゃうわ。仕方ないわ。
「で?あったんだろ?虐めから助けるイベント」
そう、あんなに可愛くて世の男も女もハートがっちりホイホイなヒロイン、一部のお年頃な女の子からは妬みと嫉みでイジメられちゃうのも仕方ない。
あれはフィオリーナが悪いのではない。
フィオリーナが可愛すぎるのが罪なのだ。
「あー、ね、女ってのはいつの時代でも、どこの世界でも変わらないのかね。1人1人はかわいいのに、徒党を組むとなんであーなっちゃうかね?⋯あ、でも本当、1人1人はかわいらしい良い子達なんだよ」
フィオリーナに一途なカルロの事だ。
フィオリーナをイジメた相手も憎たらしく思うかも知れない。
憎しみはダメだ。何も生まれない。誰かが言っていた。
TVでしか見たことないけど。
それに、きっと彼女達も根は悪くないのだ。
フィオリーナの異母姉だって悪役令嬢としてそう設定されているに過ぎない。
まー、これまでの人生である程度その役割も果たしているだろうし?これからはフィオリーナをいじめる意味も必要も無いのだ。
なるべくイジメる前にエリアナが阻止して、イジメの実行数を減らせば、小説より減刑がのぞめるんじゃないだろうか。
「で?」
「もちろん助けたよ。もう手出ししないように約束させたけど、念の為様子を見に行くことにするよ。フィオリーナの顔を見るだけで元気もやる気も爆上がりだからね!ほんと可愛いは正義だよね!!世の為人の為正義のヒーロー、いや、ヒロインか」
どうだ、完璧令嬢らしいだろう、とエリアナは得意気にカルロを見る。
ただし淑女らしい佇まいは崩さずに、だ。
「で?」
「以上!報告終わり!!報連相だいじ!」
まだ何かあったっけ?と正直焦ったエリアナだが、そんな事はおくびにも出さない。
挨拶だいじ!とハキハキ締めくくる事にする。
そんなエリアナにカルロはわざとらしく盛大な溜め息を吐く。
「分かった。足、見せろ」
「え?足?何で?いつから足フェチに⋯⋯うおっ、なんじゃこりゃああ」
エリアナの左足首が腫れている。
腫れているなんてかわいいものではない。
パンパンに膨れ上がり赤黒く変色している。
「いいか?お前は突き飛ばされたフィオリーナを支えきれずに転倒した、その時に痛めたのがコレだ」
「わあ、そんな事があったかな、はいありました」
すっとぼけている訳ではなく本当に忘れていただけなのだが、カルロに睨まれ素直に頷く事にしたエリアナ。
「更に何の処置も施さず、労ることもせず、日常生活を送った結果、ここまで悪化している」
「へえ、なるほど」
エリアナのカモシカのような美脚がここまで変形するなんて、いっそギャグ漫画のようだと感心するエリアナに、カルロは呆れたように溜め息を吐く。
「⋯お前さ、転んだりぶつけたりしたら、痛くなくても確認しろって教えただろ」
「やー、面目ない」
カルロは予め用意していたらしい包帯とテーピングのようなものでエリアナの足首を器用に固定すると、氷嚢で冷やし始めた。
「他にもないか、あとでちゃんと見てもらえよ」
「やー、面目な」
「あとじゃ駄目だ。すぐに見てもらえ、いいな?」
カルロがエリアナをジト目で見る。
全くもって信用がない。
「えー、だって、淑女が肌を見せるとか、⋯ねえ?」
エリアナがわざとらしく身体をくねらせるが、カルロが脹ら脛を掴んでいるので左足首は微動だにしない。
人間ギプス、凄まじい。
「何を恥じらう事がある。あの頃なんて脇腹だの太ももだの変な内出血を見せようとしてきたじゃねーか」
「いや、あれ、まじスゴかったから!手の跡くっきりでホラーかよって」
あははと笑うエリアナにカルロは半目で返す。
「お前のセックス事情なんて興味ねーんだよ、こっちは」
「いやいや、あれは一見の価値ありだったよ。ってのは置いといてさ。あの頃のチビガリと違ってエリアナの身体はさ、そりゃあ恥じらうよね?もう全然違うもん!ボンでキュッでボンなの、肌もぷるぷるのスベスベよ」
エリアナがそう言いながら胸や腰、お尻に手を滑らせていく。
キースは分かりやすく違う方向を向いて、カルロとジルダに「見てません」アピールを忘れない。
カルロが呟く。
「⋯いや、チビでもガリでも恥じらえよ」




