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「エリー、少し顔色が良くなったようだね」
昼食を終え教室に戻る途中、エリアナが声のする方を向くと、プラチナブロンドの髪にサファイアの瞳の爽やかイケメン王子がいた。
(え、すっごい王子様!!どっからどう見ても王子!白馬に乗ってないのが不思議なくらい!)
エリアナの心の声の「王子様」は「王子様キャラ」の「王子様」だが、目の前の爽やかイケメンは紛うことなき王子様。この国の第一王子クラウディオ・チェントゥリオーネだ。
興奮冷めやらぬエリアナだが、そこは腐っても完璧令嬢。おくびにも出さず微笑みで返す。
「心配を掛けてしまってごめんなさい、クラウ。⋯貴方こそ、疲れているのじゃなくて?」
1人の味気ない食卓から解放されしっかり食べたエリアナ、身も心も満足して、顔色も良いのだろう。
一方、生徒会長も務めているクラウディオは休み時間に教室にいない事が多々ある。
今日も朝から何度も忙しそうに呼び出されていた。
入学式の日にクラウディオがフィオリーナを助けたことがフランチェスカ家の耳に入り、フィオリーナは責められ、クラウディオにはお礼がしたいとしつこく打診がきているらしい。これを機にクラウディオに取り入りたい魂胆が透けて見える。
新年度が始まり、込み入っている生徒会長としての仕事に加え、フランチェスカ家への対応を自身の学業の合間にこなさなくてはいけない。
学院から帰れば第一王子としての責務を求められる。
完璧令嬢エリアナよりも多忙を極め、心身共に疲弊しているであろうクラウディオだが、微塵も感じさせず穏やかな笑顔でエリアナを気遣う姿は流石としか言い様がない。
だからこその心配である。王子だって17歳の少年だ。
「あまり無理をしないで。私に手伝えることはないかしら?」
もしかすると、この世界では当たり前の事なのかも知れないが、前世を思い出したエリアナからすればクラウディオの忙しさはかなり不健全に思える。
まあ、前世のリアル王子様がどれだけ忙しいかなんて皆目見当もつかない訳だが。
「エリーこそ会計の仕事が激務らしいじゃないか?昨年度の会計に随分と杜撰な部分が見つかったらしいね?手伝えなくてすまない」
エリアナも生徒会で会計の任に就いており、クラウディオの言う様に、昨年度の会計に不審な数値のズレを入学式前に見つけて対応に追われていた。
既にズレの元は判明していて追及中であり、責任逃れによる押し付け合いで話が進まず、手を取られているに過ぎない。
公爵家の令嬢とは言え、まだまだ小娘だと侮られているのだろう。そろそろ見せしめの為にも、相応の制裁による決着をつけるべきか。
とにかく、クラウディオの負担を少しでも減らしたいのに、手伝いなんてされたら本末転倒もいい所である。
手伝いをさせてもらえないなら、せめて疲れを癒してあげたいが。婚約者とは言え、この時代この世界にマッサージとか膝枕とか何がどの程度許されるのか。⋯今度、ジルダに聞いておこう。
中途半端に時間を奪うよりは、その時間、ゆっくり身体を休めてもらう方が有益だろう。
「⋯お互い落ち着いたら、ご褒美にどこかに出かけましょうね」
この時代この世界の年頃の男の子にとってご褒美とは何なのか、誰に聞くべきかエリアナが悩んでいると、クラウディオが一瞬驚いた顔をして、楽しそうに笑う。
「それは楽しみだ」
何かおかしな事を言ってしまったかと焦ったエリアナだが、笑うクラウディオが年相応に見えて嬉しくて、つられて笑みが溢れた。そこへ⋯
「何がご褒美になるか、知りたいんだろう?」
出た!エスパー!!
もとい、カルロが近付いて来る。
クラウディオはカルロの姿を認めると手をあげる。
「カルロ、生徒会室に居ないから探してたんだ」
「エリアナ嬢と話してるところ邪魔をしてすまないな。最近ゆっくり会えてなかったんだろ?急ぎで確認してもらいたい書類を持ってきたんだが」
カルロがクラウディオに気安く話しているのは幼馴染だからである。
フィオリーナと言いクラウディオと言い、カルロの幼馴染になると将来有望が約束される特典でもついているのだろうか?
ちなみにカルロも副会長としてクラウディオのサポートを担っている。
「構わないよ。すぐ確認するから、少し待っていてもらえるか?エリーもすまない」
どれだけ忙しくてもエリアナへの気遣いを忘れないクラウディオ流石!爽やか気遣い王子!!
それに比べて、クラウディオに「頼む」と一言いったきり、カルロはエリアナを見もしない。
ご褒美について聞きたいが、エスパーの思い通りになるのも悔しい。悔しいが聞きたい。
「カルロ様、先程の⋯」
「ああ。⋯多分、エリアナ嬢が想像しているものとは違うぞ」
すました顔のカルロがしれっと答える。
やっぱり。エリアナが気になっている事に気付いていながら、知らんぷりしていたんだ。なんて奴だ。
「⋯⋯カルロ様には、私が想像しているものが何か、お見通しだと?」
「まあ、何となくは?」
これまたカルロがすました顔で答える。
なんとも、憎たらしい。
どうせ前世の光凛の悪評から想像して、性的なサービスを考えてるとでも思ってるに違いない。
手っ取り早く男を喜ばせる方法として、頭が悪くてだらしない光凛の考えそうな事だ、と。
残念でした。
そもそも光凛は前世でも自分からセフレを募ったり誘ったりした事はない。
ただ、来るものを拒まず去るものを追わなかっただけだ。
それが褒められることではない事は分かっているし、悪意混じりの噂や誤解をあえて否定も肯定もしないで放置したのも自分だ。
とにかく、黒川は光凛に対してそう言う印象を持っている。
だけどエリアナはそんな事、微塵も考えたりなどしなかった訳で。
「ふふ、残念ながら、カルロ様がご想像なさっている様な、⋯その様な?⋯ねえ、まさか。その様な事は考えてなどおりませんでしたよ」
勝ち誇ったように言うエリアナに、相も変わらずすました顔のカルロが答える。
「おや、てっきりマッサージとか膝枕とか、その様な癒しを与えたいのかと思ったんだが、そうか」
揶揄われたと分かったエリアナが睨むと同時にクラウディオがカルロに向かった。
「これは念の為、過去の資料と照らし合わせた方が良さそうだ。生徒会室の棚に残っていた筈だから一緒に来てくれるか?⋯エリー、そう言う訳だからまた今度ゆっくり話そう。それからエリーも無理をしないこと、いいね?」
後半をエリアナに向かって言うと、クラウディオは来た方へ戻っていく。
追いかけるカルロがすれ違いざまにエリアナに囁やいた。
「まあ、もっとも。それも充分ご褒美だとは思うぞ」
そう言ってカルロは人差し指を自身の口に当て意味ありげに微笑むと、クラウディオと去って行ってしまった。
いやいやいや、それって、どれ?
マッサージとか膝枕の事?
それとも性的なあれやこれ??
て言うか、そもそもマッサージや膝枕も本来のご褒美とは違うって事よね?
じゃあ何よ?何なら良いのよ??
そもそもマッサージや膝枕はしても良いの?良くないの??
ご褒美に出掛けるのはどこに行けばいいの!??
え、ちょっと待って、あの男!!
勝手に話に入ってきておいて、焦らすだけ焦らして!
結局、何がご褒美になるか、教えずに行きやがった!!!




