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突然まくし立てるカルロに、クレメンティ家の従者とジルダが呆気に取られている。
「⋯⋯⋯⋯⋯っ」
わかる!あたしも初めてカルロ見た時に思ったもん!!
そう言いたいのをエリアナは堪える。必死に堪える。
堪えるあまり何も出来ない。
ただひたすらに固まっている。
そんなエリアナにカルロは容赦なく追い打ちをかけてくる。
「⋯俺はあいつが幸せに笑っていてくれれば、それで充分だ」
切なそうな微笑み付きである。
前世で光凛が泣き崩れたシーンだ。
映画を観た翌日、黒川に再演してみせたのだ。
「⋯⋯今それ、絶対関係ないよね!??」
エリアナはカルロの切ないシーンを生で見れた喜びなのか、切なさなのか、羞恥なのか、悔しさなのか、もはや何の涙か分からない涙目でカルロを睨んだ。
「生で見せてもらったお礼だ」
「言い方w」
「ん?お前のベロチューを見せられた話じゃないぞ?完璧令嬢を見事に再現してみせたお前にご褒美、だ」
「⋯⋯っ、〜〜〜〜〜っ、⋯⋯⋯ありがとうございます」
エリアナは身悶え、反論の言葉を探し、そして諦めた。
ここは一旦引くに限る。一旦どころか永遠にサヨナラするに限る。
これで意趣返しが出来たと、黒川の気が済んだなら何よりじゃないか。
むしろヌルいくらいだ。
もっとギャフンと言わされるべきではないか。
前世で聞き齧ったざまぁとやら。あれをされてみるとか。
ただし、フィオリーナの継母でも異母姉でもないエリアナがざまぁされるには、エリアナもフィオリーナをイジメないといけないわけで。
しかしそうすると物語が変わってしまうのではないだろうか?
⋯でも、この物語に置けるエリアナの役割って、フィオリーナの成長の手助けをして、クラウディオとの婚約解消をすんなり受け入れる、くらい?
だとしたら、フィオリーナの成長にはカルロが手を貸せば良いとして(黒川は面倒見が良いので文句を言いながらでも引き受けてくれるだろう)。
そうすると、必然的にカルロとフィオリーナの仲も深まって一石二鳥なのでは?
つまり、エリアナがざまぁされれば黒川の恨みも晴らせて、カルロとフィオリーナとの仲も深まって、王子との婚約が⋯婚約が⋯⋯、破棄されたらダメじゃん!
ざまぁって、卒業パーティとかの皆の前でヒロインをイジメてた事をバラされた悪役令嬢が王子から婚約破棄されるってヤツだよね!?
そんでもって王子とヒロイン結婚しちゃうヤツだよね!!?
やっぱりなしなし!!なしの方向で!
黒川には是非とも、ざまぁ以外で恨み辛みを晴らしてもらおう。
フィオリーナとは何か別の方法で自力で仲良くやっちゃって。
そう言う願いを込めた目でカルロを見ると、カルロもエリアナを見ていた。
「お前さ、ちゃんと飯、食ってる?」
⋯⋯⋯⋯なんだろう。このオカン感。
TVでしか見たことないけど。
光凛の母親は世間一般の母親らしい所が1つもなかったし、エリアナの母親も貴族の母親そのものでオカン感は一切ないが。
その分、黒川がオカン枠なのかな?
そりゃないよ神様。黒川が不憫すぎるよ。
黒川はさ、ダメな子ほど何とやらで、グチグチ言いながら結局、面倒を見ちゃうんだよ。
いつ解放してあげるんだよ。
転生してまで面倒見ようとしちゃってるよ、この子。
前世の光凛を知っている黒川としては、完璧令嬢エリアナの中身が光凛であることが心配で堪らないのだろうな。
とにかくとことん安心させて、心置きなくフィオリーナの所へ行ってもらうべきなんだろうな。
やれば出来る子だってとこ、見せてやんよ。
だって私、完璧令嬢エリアナだもん。
そう心に決めたエリアナが、カルロに向かって親指を立ててニカッと笑う。
「食べてるよ!ナイフとフォークなんて使えるか心配だったけど、エリアナの体がちゃんと覚えててね。すごいよねー」
完璧令嬢らしさは感じられないが、ナイフとフォークの扱いに対するそこはかとない自信は窺える。
カルロは溜め息を吐いた。
「よし、昼飯、一緒に食うぞ」
「え、何で」
思ったのと全然違うカルロの反応に焦るエリアナを、カルロが半目で見る。
「どうやらお前の「ちゃんと」と、俺の「ちゃんと」が違うようだから、だ」
「えー、⋯あれ?でも、うん⋯」
難色を示していたはずのエリアナが何だかモジモジそわそわし始めたのを見て、カルロはクレメンティ家の従者とジルダを手で示した。
「コイツラも一緒に。それなら良いだろ?」
「は?」「なっ⋯」
今度は従者とジルダが驚く番である。
カルロは2人が何か言い出す前に、勝手に話を纏めて部屋を出ることに決めた。
「場所はココな。キース、頼んだ」
キースと言うのはクレメンティ家の従者の名前なのだろう。
お気の毒さま、とジルダは隣に立ちワナワナ震える男を横目で見ると、カルロがエリアナを伴って出ていった扉を見据えた。
ジルダは悟った。
「なんやかんや」で端折られた部分に何があったかは知らないが、「記憶持ち」がカルロ卿から離れようとしてる事。カルロ卿はそれを許さない事。
面白いのは大歓迎だがお嬢様が心を痛めるのは本意ではない。
カルロ卿が強引な手を使うようであれば、こちらも手を打つ必要がある。
どうやら「記憶持ち」はクロカワに対して負い目を感じているようだから。
そうして午前の授業をエリアナとして難なく過ごし、とうとうやってきたカルロに加えクレメンティ家の従者キースまで同席した昼食の時間。
さぞかしエリアナが嫌がるのだろうとジルダは思った。
それでなくとも、この「記憶持ち」は食が細いようなのだ。
お嬢様は前世の記憶を思い出してから、食事の摂取量が格段に減っていた。
前菜とスープだけで席を立つ。
ジルダも最初はこの「記憶持ち」が気丈に振る舞っていても困惑しているのだろう、とか、食文化が合わないのかも知れない、と気に掛け様子を見ていた。
そして祖母から「記憶持ち」は体型維持のために極端な食事制限をすると聞いたことがあったのを思い出した。
結局何が理由か分からないがとにかく、この「記憶持ち」は食事に積極的ではない。
そんな場に他の人間が居るのは気が重いのではないか。
体型維持のために食事制限していると言うのならば、食べる姿を見られるのも苦痛なのではないか。
他の理由で食べられないと言うのならば、食事量が少ない事を指摘されるのも苦痛なのではないか。
そう、思っていたのだが。
「えへへ、何か楽しいねえ」
ジルダの予想に反して、エリアナはニコニコと楽しそうに料理を頬張っている。
この数日分を取り戻すかの様にモリモリ食べている。
これは、無理をしているのか?ニコニコと楽しそうに無理をしているのではないか?
混乱を極めるジルダに、カルロが声をひそめる。
「あいつ、1人だとほとんど食事をとらないんですよ。誰かと一緒なら食べるんですけど。エリアナでは立場上難しいだろうけど⋯⋯とりあえず、何か参考になれば」
丸投げなのを自覚してか申し訳なさそうな顔のカルロ。
それでも何の情報もないよりは有難いとジルダはその気持ちを受け取る。つい意地悪を言ってしまうのはご愛嬌だ。
「卿におかれましては、今のままの方がお嬢様と昼食を共にする口実が出来てよろしいのでは?」
「うーん、その辺は特に。俺じゃなくても良いんで。それに、俺があまり近付かない方が貴女は安心でしょう?」
午前中目を光らせていたのがバレていたらしい。
食えない男だが味方である分には心強いと言える。
「お嬢様に害なすお心算は、なさそうですので」
ジルダは本気で言ったのだが、カルロの反応は芳しくない。
「⋯⋯どうだろうな。貴女の望むようにはならないかも」
カルロはエリアナの方へ視線をやり、言い放つ。
「俺の目的はあいつを壊すことだから」




