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「終わったわー⋯⋯」
夕食後、エリアナは自室のベッドにうつ伏せてぼやいていた。
部屋にはエリアナの他にはジルダのみ。
だからこその完璧令嬢エリアナ放棄である。
あの後エリアナはカルロに強制的に自宅に帰されてしまった。
「ちゃんと寝ろよ、ちゃんと食えよ、ちゃんと歯を磨けよ」と言うお小言付きで。
ちなみに最後の歯を磨けはエリアナの脚色である。
良いことがあると悪いこともあるって本当だわー
カルロが黒川とか、何かもう、えー⋯⋯
黒川かー、黒川ねえー、黒川ー、あー
本当もう、恨まれることしかしてないのに、あたし
転生してまで迷惑掛けるとか、何やってんのあたし
あーもうやだやだ、本当、最悪、終わってるわー
「⋯⋯⋯⋯⋯、聞いてくれる?」
ひとしきりジタバタし終えたエリアナは、甘えたような笑みを浮かべてジルダを見上げる。
ジルダは包容力の化身の如き慈愛に満ちた笑顔で「私で宜しければ、いくらでも」と頷く。
「⋯私って前世で結構ヤバい奴でさ。クソみたいな親に育てられた、⋯ん?育てられた?んー、まあ、クソみたいな人生だったのね。⋯まあ、途中クソじゃない事もあったんだけど、ま、結局、クソみたいな親の子はクソみたいな子供でしたって事で」
ヘラヘラと笑っているが、その口ぶりは卑下していると言うよりは、単なる事実をただ告げるように。「それが自分なのだ」と割り切っている様な。
未だにジルダはこの「記憶持ち」が軽薄なのか真摯なのか測りかねている。
「⋯その面倒を押し付けられたのが隣の席の、がっきゅー委員だか、ふーき委員だかの黒川で。なんやかんやあって、セフレがヤベーってなって、黒川は私を逃がそうとしてくれたのね」
知らない言葉が出てくるわ、「なんやかんや」で端折られた部分がきっと重要なのだろうけど、包容力の化身は微笑みで受け入れる。
「⋯でも逃げるたってお金も頼る相手も何もないあたしに、黒川は一緒に逃げてくれるって。で、その黒川をあたしは裏切ったの。⋯裏切って、セフレと残ることを選んだ」
そこまで言うとエリアナは清々しい笑顔を見せる。
吹っ切れたと言うべきか。
「だから、黒川はあたしを恨んでる。恨まれて当たり前のことをしたからね」
黙ってただ微笑んで聞いていたジルダが、ようやく口を開く。
「恨まれるために、その行動を選んだ様に聞こえます」
「そうだね、恨まれることを選んだのはあたしだ」
エリアナがニカッと笑うのを、ジルダはやはり貴族らしくないと思いながら、しかし嗜めることはしない。
「済んだ事をあーだこーだ悩んでも仕方ない。あたしは、前世で迷惑をかけた分も、黒川、ひいてはカルロに、ヒロインとくっついて幸せになってもらうんだ」
ヒロインとは誰か、などと野暮なことは聞かない。
それより前世の話だと思って聞いていたクロカワがカルロ卿とどう繋がるか聞いても良いものか、ジルダは考えていた。
「え、なんだ、そうなんじゃん!黒川もカルロも2人まとめて幸せに出来るなんて、これ、すごいことじゃんね!!よし、その為にも完璧令嬢を極めて王子の婚約者でい続けるんだ」
おっと、カルロ卿に続いて王子まで出てきた。多分クロカワはカルロ卿で「記憶持ち」なのだろう。他家のなんやかんやを暴くのは気がひけるが、お嬢様の専属メイドとして把握すべき事は把握しておかなければ、とジルダはほくそ笑む。
「あとは、今世では迷惑掛けないように、なるべく関わらない、接触しない、影から見守って、影からヒロインとくっつける手助けをする!影の女に徹するんだ!!」
えいえいおーっ、という謎の掛け声と共に拳を突き上げる動きを何故か一緒にやらされたジルダは、「果たしてそんなに思い通りに事が進むだろうか」と生暖かい微笑みをエリアナに向けていた。
カルロとは最低限の接触しかしないとエリアナが心に誓った翌日。
何故か今日もエリアナはカルロと休養室の1室を借りていた。
今日はクレメンティ家の従者に加えジルダまで居る。
「お嬢様はまだ体調が万全ではいらっしゃないご様子ですので」
それはいい。ジルダが傍に居てくれるのは安心する。
問題はカルロだ。
「そうだな、エリアナ嬢はまだ万全ではないらしい」
なにが?なにが万全じゃないの?
と言う目でエリアナがカルロを恨めしげに見ると、カルロが意地悪い笑みを浮かべる。
「完璧令嬢には程遠いんじゃないかと心配してるんだよ。⋯授業中、ちゃんと起きていられるのか?」
え?何その子供に「ハンカチ持ったの?」って聞く母親みたいなやつ?
TVでしか見たことないけど。
「え、⋯多分?ちゃんと夜寝たし」
「夜寝るだけで授業中起きてられるなら、前世もそうして欲しかったな」
「本当だよね」
あははとエリアナが笑う。
まるであの時の事などなかったみたいな、前世の高校で、黒川が光凛の面倒を押し付けられていた頃のやり取りみたいな懐かしい感じに、エリアナはダメだと思いつつも笑いが溢れる。
「⋯⋯次。挨拶や会話は?貴族らしい振る舞いは出来るのか?」
「え、出来るよー」
そう言うとエリアナは淑女らしい微笑みを浮かべてカルロに向く。
そう、決してなかったことにはならないのだ。
黒川があれから何年生きたか知らないが、もしかしたら黒川の中ではあの時の事が風化されたのかも知れない。
それとも無理をして、なかった事にしようとしてくれているのかも知れない。
だとしても、光凛にとっては前世で死ぬほんの少し前の出来事で。
風化なんてしていない。させてはいけない。
到底、許されるべき事ではないのだ。
カルロは転生者仲間としてエリアナの面倒をみてくれるつもりかも知れないが、これ以上カルロを、黒川を、煩わせてはいけない。関わらせてはいけない。
「残念だが俺は挙動不審なエリアナ嬢と、貴族らしくないハタノヒカリしか見ていないからな。説得力皆無だ」
やってみろと手振りされる。
ここは是非とも完璧令嬢エリアナを見事に再現して、黒川には安心して光凛の世話役から卒業してもらおう、とエリアナはニンマリ笑う。
「はい、減点。そんな事じゃ俺はまだまだお前の世話役を卒業出来そうにないな」
「え、エスパー!!!」
確かに黒川は賢くて、光凛はいつでも何でも見抜かれてしまっていたが。
転生した今なお、考えが読まれるなんて、完璧令嬢としてあるまじきではないか。
「はい、減点」
「ぐ⋯」
エリアナは姿勢を正し深呼吸を1つすると、カルロに向かいカーテシーを披露した。
「⋯この度はご心配をお掛け致しました、カルロ様。私の事で心を砕いて頂き恐縮至極にございます。もう二度とこのような失態は演じませぬ故、カルロ様におきましてもどうぞご放念下さいますよう」
「⋯⋯」
カルロの驚いた顔を見てニンマリしそうになるのをすんでの所で堪えたエリアナは、この調子でエリアナの事など構わず、一切関わることなどなく、フィオリーナとの仲を深めて欲しいと言い残して退場するつもりだった。ところが⋯
「うわマジか、ぽいわ、すげえ。ガチだ、ガチでリアル完璧令嬢エリアナ。尊い、生で見れるとか何。いつの間に課金したんだ俺GJ」




