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エリアナの前世、秦野光凛が生きた世界で売れに売れ映画化もされた小説「聖なる乙女と英雄の剣」は、王族も通う由緒正しい学院に、ある侯爵令嬢が入学する所から物語が始まる。
フィオリーナ・フランチェスカは侯爵家の貴族令嬢でありながら、継母と異母姉に虐げられてきた。
そんなフィオリーナが入学式の日に学院で迷子になったのを、2年生であるこの国の第一王子クラウディオ・チェントゥリオーネに助けてもらう事で2人は出会う。
(ちなみに光凛は前世でこの物語を映画で観た時に「学校で迷子になるとかウケる」と思ったが、先程実際に学院内を歩いて回った際に「バカにしてごめんねフィオリーナ」と反省した)
継母の嫌がらせでまともな教育を受けてこなかったフィオリーナは学院の落ちこぼれとして、異母姉を中心とする令嬢達から執拗なまでの虐めに遭う。
たまたまフィオリーナが虐められている所に遭遇したクラウディオの婚約者で完璧令嬢と呼ばれるエリアナ・エウスターキオに助けられ、その後もマナーや教養等あらゆる助言を受けたり、時には自ら教えてくれるなどフィオリーナの成長の大きな助けとなる。
(ちなみに光凛は前世であまり本を読まないタイプだったが「ざまぁ展開」を聞き齧っていたので、転生したのがフィオリーナの継母や異母姉でなくて良かったと心底思った)
更に幼い頃からフィオリーナを気にかけ何かあると助けてくれていた1つ年上の幼馴染、カルロ・クレメンティとも学院で再会を果たしフィオリーナの味方が増えていく中、素直で元々のスペックが高いフィオリーナは新しい知識をどんどん吸収し優秀になっていく。
(ちなみに光凛は、ヒロインの幼馴染で小さい頃からヒロインを見守り助けてきた一途なカルロ推しである)
そして学院の行事を通じてフィオリーナとクラウディオは交流が増え親密になっていき、継母と異母姉の陰謀で窮地に立たされたフィオリーナは聖女の能力が目覚めて、その後なんやかんやあってフィオリーナとクラウディオが協力して魔物だか何だかを倒した2人は結ばれると言うシンデレラストーリー
(ちなみに光凛は推しであるカルロの一途な想いを実らせてあげたかったので、フィオリーナがクラウディオへの想いを自覚した時に号泣し、クラウディオがフィオリーナを選んだ時に歯噛みし、エリアナが大人しく身を引いた時に放心した)
「でね!この小説、あたしが高校の時に流行ってたんだよね!」
エリアナを運んできたカルロは保健室に併設された休養室の1室を借りると、クレメンティ家の従者を1人残し他の人間には部屋から出てもらっていた。
「⋯⋯俺もだ」
推しが目の前にいる!
推しと会話している!!
しかも推しも転生者だと言う!!!
前世の話が通じる相手がいる!!!!!
何に喜んで良いのか分からない程テンションが上がりまくったエリアナに、クレメンティ家の従者が驚きを通り越してドン引きしている。
「まじで?じゃー同世代じゃんね!」
「でも、だいぶ内容は忘れたな」
カルロはエリアナの興奮が収まるまで付き合う覚悟を決めたらしい。
実はカルロには前世を思い出したと言うエリアナに聞きたい事があるのだが、それをどの様に切り出すか悩んでいた。
「え?あたし結構覚えてるよ。あ!あたし、前世では高校生の時に死んでっから!」
「それは、⋯ご愁傷さま?」
思いがけず好機が訪れたカルロだが、それでも切り出し方が分からない。
かなりデリケートな内容なのだ。
「あんたもね!あんたも死んだから転生してるんでしょ?」
前世でその辺にいたおばちゃんの様な手振りで笑うエリアナを見ながら、カルロは意を決した。
「まあな。あー⋯その、前世では、もしかして何か病気を?⋯それで、学生生活に憧れがある、とか?」
「あー違う違う。セフレに監禁されて薬漬けにされかけたの」
あははと笑うエリアナに、カルロは確信した。
「⋯それ、俺の同級にも全く同じの居たわ」
一瞬固まったエリアナだったが、ぱぁあああっ、と聞こえてきそうな程目も口も開いて破顔する。
「まじで!?え、すごくない?て言うか、あるあるなのかな!」
思わず絶句したカルロは、目を閉じて天を仰ぐと深い溜息を吐く。
そして徐ろにエリアナを向くと
「⋯⋯⋯そんなわけないだろうが!お前、ハタノヒカリだろ!?」
(え?推しに名前を呼ばれた!??え?夢じゃないよね?え?なにこれ、幸せ過ぎる!!!)
「わー、フルネームで知られちゃってんじゃん。何?あたし、有名人?センセーショナルな事件でしばらく世間をお騒がせしちゃった感じ?」
文字通り頭を抱えたカルロが横目でエリアナを見る。
「言っただろ、同級だって」
「同級と言いましても、広義な同級から狭義な同級までおりまして」
「クラスメートだ」
エリアナはカルロの何だか覚えのある目つきと態度と物言いに、喜んで良いのか困って良いのか分からず、とりあえず、違ってくれとだけ願う。
「うーん、まさかと思うけど⋯⋯あー、ちょっと待って、言ったら本当になっちゃう気がする」
「言っても言わなくても事実は変わらないぞ」
「いや、だって、ほら⋯⋯ねえ?」
往生際悪く現実を見ようとしないエリアナを、カルロが胡乱げな目で見る。
「⋯⋯お前、まさか俺の名前を忘れたんじゃないだろうな?」
「いや、覚えてるし!覚えてるんだけど、⋯言いたく、ない」
「本当か?」
「まじだって、まじまじ、本当に覚えてる!だけど、⋯だって、本当に黒川ならあたし」
カルロが片眉を上げる
「あ⋯」
手で口を隠すエリアナに意地悪く口に弧を描いたカルロが詰め寄る。
「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃないか」
「だから、覚えてるってば。黒川昂輝でしょ、隣の席の⋯」
観念したように手足を投げ出したエリアナだったが、何かを思い出すと、勢いよくカルロに振り向く。
「えっ、ねえ、もしかして黒川⋯、あの後アイツに何かされた!?それで黒川も転生しちゃったんじゃ⋯」
いつもニコニコしているか、ヘラヘラしているか、そんな顔しか見せなかったハタノヒカリが珍しく眉を顰めている。
そんな錯覚に陥ったカルロは、目の前にいるエリアナの姿を見て思わず舌打ちが出る。
「いいや、何もされてない」
「そっ、か⋯」
あれだけ迷惑をかけた上に、黒川が死んだ原因も光凛だったりしたら申し訳ないどころの話ではない。
安堵の溜め息を吐くエリアナに、カルロの呟きは届かなかった。
「何かしたのは、俺の方だし」




