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「だからお前がやるんだよ」
そう言ってカルロは不敵な笑みを浮かべた。
だけどよく見ると脂汗をかいている。
相当痛みを我慢しているみたいだ。
「!!!分かった!何をしたらいい?何でもやるよ!!」
代わりに会議に出る?
森の中に入る??
クレメンティ家おかかえ医をこっそり連れてくる???
エリアナが張り切ってガッツポーズを作ると、カルロが自分の右肩を指さす。
「固定」
「カルロ!ふざけてる場合じゃないよ」
一刻も早くちゃんと診てもらいたいのに。診てもらうべきなのに。
その為なら何でも協力するって言ってるのに。
結局はあたしじゃ何の役にも立たないって、あたしに出来ることなんてないって言う為にこんな回りくどいことしたの!?
エリアナは腹が立ってきて涙目でカルロを睨むと、カルロは目を逸らした。
「巫山戯てなんかいない。お前がやらないなら自分でやるだけだ」
そう言うとカルロは上着を脱ぎ始める。
少し顔が歪むのをエリアナは見逃さなかった、やっぱりもの凄く痛いんだ。
「何それ。脅し?」
「頼む」
突然素直になったカルロがエリアナの目をしっかりと見る。
エリアナは何だか断ろうとしている自分がものスゴく悪い人間のような気分になってくる。
「何それ。ずるい」
エリアナは文字通り頭を抱えると、眠れない夜のお供、最近読んだ本の内容を思い出す。
「⋯⋯⋯息を吸うと激痛が走る、なんてことはない?」
エリアナは頭の中の本の「肩や背中の打撲」のページを開いて、カルロに質問していく事にした。
「え?⋯ああ。ないな」
カルロは一瞬戸惑ったようだが、何も聞かずに答えてくれる。
「手足にしびれがある、力が入らない⋯なんてことは?」
「⋯ない」
「激しい吐き気、めまい、意識がぼんやりする、⋯これは?」
「ない」
「血尿が出た、またはお腹も激しく痛む、⋯これは?」
「ない」
「患部があきらかに変形している、⋯これも大丈夫そうだね」
エリアナがカルロの肩を見て安心したように息を吐く。
質問の間にキースがカルロの服を脱がせるのを手伝い、ジルダは氷や固定に必要な道具を取りに行ってくれている。
「⋯⋯先刻の質問は?」
エリアナが戻ってきたジルダから道具を受け取っていると、カルロが尋ねてきた。
上半身裸にされてやる事も出来ることもなく手持ち無沙汰なのだろう。
「すぐに医者に診てもらう必要があるかどうかの確認」
「医学に興味があったのか?」
「うーん?⋯いや、別にないかな。たまたま最近読んだ本に載ってたんだよね。何がどう役に立つか分かんないもんだね、興味がなくてもとりあえず目を通しておいて良かったわ」
固定のやり方も本に載っていたのを参考にしている。
知識はお宝とか何とかヘロイーズが言ってたっけ。アレ?違う?情報??まあなんかそんな感じ。
「たまたま、最近、読んだ、本」
カルロが変な区切りを入れてエリアナの言葉を繰り返す。
え。やだ。どこまでエスパー?
こうなったら妙な勘ぐりを入れられる前に話題を変えてしまうに限る。
「あ、あと、エリアナって本当に優秀だよね。完璧令嬢の名は本物だわ」
エリアナは自分の頭を人差し指でトントンと叩きながらニカッと笑う。
「とりあえず学院にいる間はあたしがフォローするけど、家でちゃんとお医者さんに診てもらいなね?」
エリアナはゴム手袋を外しながらそう言うと、カルロに服を着るように促す。
固定するためとは言え上半身裸はハッキリ言って気まずい。
あ。でも大丈夫。固定するのに必要な部分しか見てないから。うん。
「ああ、助かる」
何だろう。何か、さっきからカルロが素直で気持ち悪い。
何となく落ち着かないエリアナが辺りをキョロキョロ視線をさまよわせていると、カルロに生暖かい笑みを向けているキースと目が合った。
その瞬間、気まずそうに目を逸らされてしまう。
「⋯⋯⋯⋯⋯ねえ、よく考えたらキースに頼めばよかったんじゃないの?」
エリアナがようやく上着のボタンをしめ終えたらしいカルロを見る。
服を着るのも手伝った方が良かったのかも知れないが、それこそキースの仕事だろう。
「女に二言はないよな?」
カルロが悪びれもなく綺麗な笑顔を向けてきた。
何となく機嫌が良さそう。
これは逆らわない方がいいやつだ。
「モチのロンです」
「⋯⋯⋯ねえ、やっぱりあたしがバリケードの確認に行くよ」
時計を確認しながら部屋を出ようとするカルロに、エリアナが詰め寄る。
視界の端でジルダが息を呑んだのが見えたが、ごめん。
「俺なら痛み止めも効き始めたから心配は要らない。お前は早く医療チームのところへ行け」
そう言ったカルロは確かに先程よりも顔色が良く、緩慢だった動きも普段通りに戻っている。
だからこそ無理をしそうで嫌なのだ。
「でも⋯」
「お前、魔物を見たのは初めてだろう?そう言う時は心療を専門とした医者にも診てもらうのが決まりなんだ。今頃フィオリーナも診てもらっているはずだ」
初めて聞いた。が、魔障や魔物に脅かされているこの世界、そう言ったケアがしっかり機能しているのは良いことだ。
「心療⋯」
「気が乗らないかも知れねえが、一度で良いから診てもらっとけ」
エリアナとしては感心したつもりだったのだが、珍しくカルロが気まずそうに言う。
前に「カウンセリングね、はいはい」的な態度をとってしまったからだろうか。
別に病院嫌いとか医者嫌いとか、そんなんじゃないんだけど。
単に、別にそこまでしなくていいんだけど、と思っただけで。あと、もったいないな、と。
「いや、ちゃんと診てもらうよ。さっきのは、この世界にもいるんだなと思っただけ」
「過去の「記憶持ち」が提案したようだね」
エリアナは穏やかな声が聞こえた方を見る。
いつの間に開いていたのか、生徒会室と繋がっている扉にクラウディオが立っていた。
「遅いから迎えに来たんだ。エリー、そろそろカルロを借りても良いかな?」
「貸すのは構いませんが、無理をしない様にしっかり見張っていて下さいませね」
「⋯⋯お前は俺の何なんだ」
げんなりと言った顔でカルロがエリアナを見る。
「あ、カルロ。言い忘れてた」
「まだ何かあるのか」
鬱陶しそうな面倒臭そうな声を出しながらも、カルロはご丁寧にエリアナに振り返ってくれる。
「クラウはカルロの居場所を教えようとしなかったのをあたしが無理やり聞き出しただけだから、怒らないであげてね」
「⋯⋯⋯なるほど、よく分かった」
「ふふ、エリー。約束を守ってくれたのは嬉しいけど、今のは逆効果かも知れないね」
カルロもクラウディオも唇がきれいな弧を描いて笑顔を作っているのに、どうしてこうも印象が違うのか。
面白いなと思いながらエリアナは2人を見送った。
「良かったじゃないか、エリーは「身体も命もちゃんと大事にする」と約束したのだろう?今後は心配が少し減るんじゃないのかい?」
会議室へ向かう道中、周りに誰も居ない事を確認した上でクラウディオがカルロに声を掛けた。
「あいつが大事にすると言ったのはあくまでも「エリアナの身体と命」だ」
「それでは不十分だと?」
カルロがぶっきらぼうに答えるのにクラウディオは苦笑いで返す。
「あいつが何を考えてるのか想像したら不安材料が増えただけだ」
エリアナの考える事が読める事を当たり前のように話すカルロが可笑しくてクラウディオは思わず吹き出した。
「ふふ、じゃあどうする?幽閉するかい?」
クラウディオが揶揄した笑顔で問う。
ヘロイーズか、とカルロは眉を顰めると不機嫌さを隠さずにそっぽを向く。
「しねえよ、⋯⋯⋯それじゃあ、あいつと同じだからな」
後半の言葉はクラウディオに向けたものではなく、自分に言い聞かせているようであった。




