36
カルロとフィオリーナ、そしてエリアナを加えての3人でのお茶会も何度目になるか、と言う頃。
「誰の教え方が一番上手か、⋯ですか?」
フィオリーナが困惑した表情でカルロとエリアナを交互に見やる。
「上手、と言うのは少し語弊があるかも知れないわね。誰の教え方がフィオリーナ様、貴女に合っているか、を聞かせて欲しいの。同じ教えるのであれば、フィオリーナ様に合った方法で効率よく教えられれば良いと思って」
なるほど、と納得したフィオリーナが少し考え込む。
「⋯カルロ様は、淡々と無駄なく的確な解説をして下さいます。間違いやミスに気付かれるのも早く、一瞬たりとも気を抜くことの出来ないとても厳し、いえ、時間効率の良い授業をなさいます」
話し始めこそカルロをチラチラ見ていたフィオリーナだが、途中からは頑なにカルロから目を逸らしていた。
相変わらずビビられてんなー、カルロ。
あとカルロの授業が予想通りすぎる。
何て言うか、アンドロイド。いやヒューマロイド?
「クラウディオ殿下は、穏やかな口調で時々ユーモアを交えた、それでいて分かりやすく覚えやすい授業をなさいます。けれど褒めて下さると同時に課題もどんどん追加されていくので、喜んで良いのか悲しんで良いのか、⋯いえ、殿下の、そして皆様の貴重なお時間を頂戴している分際で喜ぶとか悲しむとかその様な感情を抱くなど厚かましいことこの上ない事でございますぅぅ」
クラウディオの話題はどうしても緊張するらしい。
フィオリーナの様子がおかしくなってきた。
これはこれで可愛いんだけど。
あと、クラウディオは仕事中毒だから褒美が課題なんだろうな。南無。
「エリアナ様は、教える下さるのも丁寧で分かりやすくて上手です。課題の量が多く、その時の圧がもの凄いのですが、褒め上手と言うのでしょうか。目をキラキラさせて凄い流石だ思っていた以上だと仰って下さるので、とても励みになります」
フィオリーナが顔を綻ばせながら話すものだから、エリアナの興奮が最高潮である。
目がキラキラ眩いばかりに輝いてるのはフィオリーナの方だよ!!あたしも人生の励みになってるよ!!!最&高だよ!!!!!
ちなみに「1人アメとムチ」と言う呟きが聞こえたが、あの声はキースだな。隣でジルダが頷いている。何かいつの間にか仲良くなってない??
「おいおい、1人だけ変なフィルター掛かってねえか?」
カルロが呆れたようにぼやく。
エリアナも激しく同意だ。
「⋯⋯⋯ええ、本当に」
無駄がなく的確、まるでアンドロイド。
そんな、完璧令嬢と呼ばれるエリアナを差し置いて、更に上いく完璧⋯だと!?
いやすごいけど。流石だけど。
素直に認められないあたし。心の狭いあたし。いつからこんなに心が狭くなったのか。
これか?この心の狭さが完璧ならぬ所以なのか!!?
悔しがるエリアナを横目にカルロがフィオリーナに釘をさす。
「褒められたと思って浮かれてんなよ?こいつにとって「すごい」「さすが」は息を吸うのと同じ。褒め言葉でも何でもねえぞ」
うん?今、ディスられた?
よく分かんないけど、あたしの教え方どころか褒め方伸ばし方までダメ出しされた!??
エリアナがこっそりショックを受けていると、フィオリーナが唇をキュッと結んでカルロをまっすぐに見つめる。
え。やだ何?めちゃめちゃ可愛い!!
可愛い上に凛々しさも兼ね備えてるとか何なの!?神なの!??
「カルロ様、恐れながら⋯エリアナ様を「こいつ」と呼ぶのは如何なものかと。エリアナ様はクラウディオ殿下のご婚約者様なのですよ?」
フィオリーナが!!フィオリーナがカルロに自ら進んで話しかけたとな!!?
はわわわわ、良かった!!!本当に良かった!!ねえ、カルロ!!!
このままいけば、キャッキャうふふも夢じゃない!!案外もう目の前なんじゃない!??
エリアナがカルロをチラリと盗み見る。
喜んでるのかな。照れてるのかな。噛み締めてるのかな。もしかしたら男泣き、なんて?
大丈夫、そしたら見ないふりしてあげるからね。
「⋯⋯⋯⋯⋯え。何、その顔?」
カルロがうんざり、と言った表情をしている。
どこをどう贔屓目に見ても、うんざり顔だ。
心底うんざりしている美形がこちらを向いている。
いやいや、何でこっち向いてんの。
今はフィオリーナと談笑するところでしょう??
「何度も言ってるが。俺はフィオリーナとどうこうなりたいなんて、これっぽっちも思っていない」
「これっぽっち」をやたら強めに言ってきた。
照れ隠しにしてもひどい。
そうか。子持ちバツイチさんへ操を立てているんだな。
なるほど、カルロっぽい。
女は上書き。男は別名保存。って前世で聞いたけど、カルロはきっぱりサッパリ吹っ切れるタイプなのね。
なるほどカルロっぽい、⋯かも?
知らんけど。
「な⋯っ」
おっと。フィオリーナがショックを受けている。
そうだよね。こんな美少女に生まれ育って、今までの人生でこんな事言われた事ないよね。生まれて初めてだよね。そらショックだわ。くぉら、カルロ。女の子には優しくしないとだめでしょうが!
大丈夫フィオリーナ、ショック顔も可愛いよ。
「カルロ様、突然何を仰るかと思えば。照れ隠しにしてもフィオリーナ様に失礼ですわ」
エリアナがカルロを窘めていると、フィオリーナが青ざめた顔で唇も手も震わせている。
「エリアナ様⋯っ、まさかその様な、私とカルロ様をどうこうだなんて、その様な恐ろしい事、お考えでいらっしゃったり致しませんよね?」
フィオリーナが涙目で訴えてきた。
おかしいな。恐ろしいってどう言うこと?
いや、ブチ切れカルロは恐ろしいけど、フィオリーナとカルロが結婚すること自体は恐ろしくはない、むしろ尊い。
「カカカカルロ様!カルロ様が分不相応にもエリアナ様に懸想なさっているから、エリアナ様が思い余ってこの様な身の毛のよだつ悪夢の様な空恐ろしいご計画をお立てになったのですわ。今すぐお諦めになって下さい!今すぐです!!」
埒が明かないと思ったのかダメ押しのつもりか。フィオリーナがカルロに詰め寄る。
フィオリーナが積極的だ。大変素晴らしい。
素晴らしいけど、多分、失礼なこと言ってるよ。フィオリーナ。
相手がカルロだから良かったようなものの。他の貴族ならお家問題に発展してもおかしくないよ。
「分不相応?我がクレメンティ家はエウスターキオ家と同じ公爵家。何ならクレメンティ家は筆頭公爵家だが?」
カルロが相手でも全然良くなかった⋯!
どうしたカルロ!大人になってカルロ!!
あんた享年22でしょ!?相手は16のひよっこだから!!!
よく見て!ちゃんと見て!!
世紀の美少女の上目遣いを目の前にして、どうしてそんな凍てついた目が出来るの!!!信じらんない!!!!!
「何だか、楽しそうな話をしているね?」
場にそぐわない穏やかな声が聞こえた。
待ってた!クラウディオ様様!!!
2人をとめて!!
あたしのために争ってる訳じゃないけれど!!!




