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「私、一度ちゃんとエリアナ様にお礼を言いたいと思っていたのです」
フィオリーナがキラキラした瞳でエリアナを見つめている。
まぶしい!目が溶ける!!幸せすぎて脳も溶ける!
だけどその笑顔、癒されるわー。セロトニンの分泌を感じる!!
いいねいいね!そのはにかんだ笑顔。すばらしい!
何だろうな、フィオリーナは顔も可愛いけど仕草も可愛らしい。
可愛さの相乗効果!!天井知らず!!!
癒し!眼福!!心のオアシス!!!
お礼を言うのはあたしの方だよ、フィオリーナ!!
今日はエリアナがフィオリーナに勉強を教える日である。
今頃カルロは猛者共を引き連れて、合同演習のエリアの確認に行っているはずだ。
クラウディオは第一王子と言う立場上連れて行ってもらえず寂しそうなところに、カルロから山の様な書類の束をもらって喜んでいた。仕事中毒にも程があろう。
「エリアナ様のお陰でカルロ様の分かりにくい優しさに気付⋯⋯知ることが出来ましたし、クラウディオ殿下には恐れ多くも勉強を見て頂く機会を得ました。何より憧れのエリアナ様に勉強やマナー等教えて頂けるなどと言う勿体なくも恐れ多い誉れを賜り恐悦至極にございますぅぅ」
後半は興奮のあまり泣きが入ったフィオリーナだが、エリアナは前半部分で「カルロ⋯っ良かったねぇ⋯!!!」と故郷のおふくろさんよろしく感慨にふけっていたので気付いていない。
ちなみにフィオリーナがカルロについての言及中に言い直しを入れたことに関しては「感極まったのだろう」くらいにしか思っていない。
とにかくフィオリーナがカルロに歩み寄りを見せた、そのことが全て、それだけで御の字なのだ。
「お礼なんてそんな私は何も。フィオリーナ様の才能と努力を素晴らしいと思ったからこそクラウディオ殿下も私も協力を惜しまないのだし、フィオリーナ様の素質を見抜いて私達に教えてくれたのはカルロ様です。お礼はカルロ様にこそお伝えして差し上げると良いわ」
フィオリーナとカルロの仲良し作戦、今こそ発動の時じゃないか?
これでフィオリーナがお礼として、カルロに贈り物をするなりデートに誘うなりすれば、律儀なカルロはそれに更にお返しをするはず。
そうして贈り贈られ誘い誘われしてる内に、2人の仲も深まっていくよね、きっと。
あ、そう言えば⋯
「カルロ様は甘いものがお得意ではないけれど糖分補給は必要だと仰っていたの。カルロ様とフィオリーナ様がお茶をご一緒なさるとカルロ様も忘れず糖分補給が出来るのではないかしら。この後お誘いしてみてはいかが?」
「ひ⋯っ、ひ、ひとりの方が、カルロ様は、落ち着かれるのではないでしょうか⋯っ」
うーん、まだビビってる?
良い機会だと思ったんだけどな。まだ早かったかな。
でもごめんねフィオリーナ。この機会を逃す手はないから⋯
「そんな事ありませんわ。フィオリーナ様のように愛らしい女性とお茶をご一緒出来たら、カルロ様は大変有意義な休息のひとときを得られるはずだわ」
秘技、ゴリ押し!!!
エリアナがダメ押しに「ねっ」と小首を傾げて微笑むと、フィオリーナは途方に暮れた顔をする。
この数日のマナーのお勉強の成果が台無しですよ。
そんなにカルロが恐ろしいのか。フィオリーナ。
気持ちは分かるけど。
ブチ切れカルロは本当に本っ当に恐ろしい。
あと、途方に暮れた顔も可愛いよ、フィオリーナ。
エリアナがほくほくとフィオリーナの顔面を堪能していると、ふとフィオリーナが突然明るい表情になった。
ああ、やっぱり美少女は笑顔が一番だね。
「それでは、エリアナ様も是非ご一緒に!」
⋯⋯⋯⋯⋯え。まじか。
それはだめだよ、フィオリーナ。
完全にあたし、おじゃま虫じゃん。
馬に蹴られるのはごめんだよ。
でも待てよ。
前世でよく見たお見合いの風景。
最初は世話焼きおばちゃんが同席して途中で「あとはお若い2人でごゆっくり」とか何とか。
TVでしか見たことないけど。
え。良いんじゃない?
良いよ!かなり良い!!
さすがだよ、フィオリーナ!!
「そうね、それではお言葉に甘えて私もご一緒させて頂こうかしら」
「有難うございます!!このご恩は、いえ、今までの感謝も併せて、今度何か贈らせてください」
フィオリーナが!フィオリーナが目を潤ませて上目遣いしてる!!
カルロー!!カルロはどこ!!!カルロに見せてあげたい!!
あとフィオリーナ、何か贈るなら相手はあたしじゃないよ。
カルロに何か贈ってあげて。
「私はフィオリーナ様の可愛らしい笑顔が好きだから、フィオリーナ様が笑っていて下さればそれで充分だわ」
⋯⋯⋯⋯⋯あれ?このセリフってたしか⋯
『⋯俺はあいつが幸せに笑っていてくれれば、それで充分だ』
「ねえ、カルロ!!カルロとあたしって同志だったんだ!!!」
フィオリーナには、あの後戻ってきたカルロをお茶に誘わせた。
勿論エリアナはフィオリーナの横に立ち「断るな」と目で訴えるのを忘れなかった。
そのお陰か3人のお茶会は無事開催されたが、フィオリーナの繊細な精神はカルロとの同席の圧に耐えられなかったらしく、早々に退場してしまった。
これはもう、回数こなして徐々に慣れていくしかないよね。
それはさておき、フィオリーナとのやり取りを話しながら興奮冷めやらぬエリアナが、頬を紅潮させて屈託なく笑う。
カルロは思わずエリアナの頭を撫でようとした手を引っ込めると、誤魔化すように自分の首を掻きながら興味なさそうに答える。
「それって小説のカルロの話だろ?俺とは違うな」
「今のカルロはフィオリーナに笑ってて欲しいと思わないってこと?」
まさか、可愛さ余って憎さ百倍、と言うやつだろうか。
それならば、フィオリーナが涙目でビビる程厳しくする理由も⋯、分からないけど、理屈としてはまあ分かる。
「思わないわけではないが、心からそう思う相手は別にいるからな」
おっと。子持ちバツイチさんだな。
今なら聞いたら教えてくれるかな?
「あたしさ、カルロの「フィオリーナじゃない結婚したい相手」って、もしかしてヘロイーズさんかな、と思ってたんだ」
「勘弁してくれ」
カルロが心底嫌そうな顔をするのを見て、エリアナはうんうんと頷く。
「うん。だよね。うーん、⋯カルロって、ヘロイーズさんのこと嫌いだよね」
「嫌いだな」
カルロがきっぱりハッキリと言う。
気持ちが良いくらい言い切るが、エリアナ以外に誰も聞いていないとは言え、少々、いやかなり、失礼ではないか。
だが失礼な発言はこれで終わらない。
しかも発端はエリアナだ。
「馬鹿⋯ではないよね。煩いから?」
「煩いな」
「軽薄だから?」
「軽薄だな」
失礼な発言を繰り返しておきながら楽しそうに笑うエリアナ。カルロは気にした様子もない。
「前世のあたしがいっぱい勉強して賢くなったら、あんな感じだったのかな?」
「全然違うだろ」
「そっかー」
そう言うエリアナは、残念そうにも見えるし、興味がなさそうにも見える。
「なんでそう思った?」
「だって黒川、あたしの事嫌いだったでしょ?」
エリアナがニヤニヤしながらカルロを見ると、カルロは挑戦的な笑みで返す。
「馬鹿で煩くて軽薄な人種は嫌いだな」
前世で黒川が光凛に言った台詞だ。
一言一句変わらない。
「ふは、懐かしいね!あーあー残念なことにあたしは現在進行形で馬鹿で煩くて軽薄なんだよな。これってアレかな?三つ子の魂百までってやつ」
そう言ったエリアナの表情は言葉とは裏腹に残念そうではなくむしろ面白がっている。
カルロは片眉をあげた。
「前と違って難しい言葉を使える様になったお前は馬鹿ではないな」
「お?」
「今のお前は煩いけど煩くない」
カルロが真面目な顔でおかしなことを言うので、エリアナは思わず破顔する。
「ふは、なんだそれ」
「お前は昔から軽薄ではなかったな。軽薄に見せかけてるだけだ」
カルロがエリアナをしっかりと見据えるのに対してエリアナは茶化して返す。
「おっと?つまり嫌い要素の2/3がなくなりますけど、カルロさん?」
「そうだな」
「ふひひ、美人さんは3日で飽きておぶすちゃんは3日で慣れるって言うあれ、あんな感じ?嫌い要素にも慣れとかあるんだ?」
エリアナが感心したようにうんうんと頷くものだから、カルロは諦めたような観念したように軽口に付き合う。
「嫌い嫌いも好きのうち、って言葉もあるぞ」
「え。それって、つまり⋯カルロは、やっぱりヘロイーズさんのことが好きふぐっ」
「冗談でもやめろ」
エリアナの両頬を掴んだカルロがエリアナに顔を近づけると真顔で低い声を出した。
ちょっとビックリしたエリアナが目を逸らそうとして失敗に終わる。
「えっと、実は結構本気で言ったんだけど⋯はい、冗談でもやめます」
こわいこわいこわい、目が本気だ。本気で怒ってる。
ちょっと大丈夫ヘロイーズ?
前世のあたしも、ここまでは嫌われてなかったと思うんだけど。
ヘロイーズ、やば。




