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「なあお前、夜は?眠れてるのか?」
昼食が終わりお茶を飲むエリアナにカルロが尋ねる。
ちなみに仕事中毒のクラウディオはさっさと食堂から出ていってしまった。
やっぱり、この前エリアナの肌のぷるぷるスベスベ感触を確かめてもらった時に気付かれたんだろうか?
やたら長い時間かけて触ってんなーとは思ったけど、ちゃっかり肌質チェックされていたとは。
おそるべし、おかんカルロ。
「ぼちぼちでんなー」
適当にごまかしが通用する相手ではない。
だからと言ってバカ正直に答えるわけにはいかない。
そう言う諸々バレてるだろうし、今更取り繕う相手でもないし。
エリアナは苦笑しながら、否定も肯定もしない時に前世でいつも使ってた返事をする。
「明け方気絶コース、ってとこか」
カルロの言葉にジルダが目を見開く。
ジルダが慌ててエリアナを見てくるのを、気付かないふりをしてエリアナはカップに口をつける。
うわ、こいつ。
今、ジルダに聞かせるように言ったな。
絶対にわざとだ。
頬を膨らませたエリアナがカルロを睨むが、当のカルロはどこ吹く風だ。
むしろ、カルロの方が鋭い睨みをきかせている。
「バラされて困るようなことしてんじゃねえ」
「何でカルロが怒るのさ」
折角ここまでジルダに気付かれないできたのに。
無駄に心配させる必要なんてないじゃないか。
「何で怒られてるか分からないか?」
「眠れないのは夜遊びしてるとかじゃないよ」
まさか男漁りしてる等とは思われていないだろうけど、前世のイメージで何を想像されてるか分からないからね。
完璧令嬢エリアナとして潔白は主張しておかないと。
「知ってる。それに対して怒ってるんじゃない」
カルロが呆れたように溜め息を吐く。
分かってるならいいんだ。
てことは、あっちか。
おかんも大変だね、カルロ。
「びょーいん?薬?カウンセリング?りょーかい、いえっさー、はい、終了」
努めて軽く返す。
こんな事でケンカとかバカバカしい。
さっさとこんな話題は終わらせるに限る。
だがそれを許すカルロではなかった。
身体ごとエリアナに向き合って、無理矢理に視線を合わせてくる。
「お前の自己満で隠すことによって、お前に何かあった時に誰が責任を取らされるか分かってるな?」
カルロのいつになく真剣な眼差しにエリアナは思わずたじろぐ。
「⋯うん」
たしかに。
エリアナが倒れるなり何なりした場合、責めを受けるのは屋敷の使用人や医師たち。
専属メイドであるジルダは特にだろう。
下手をすると罰を受けた上で解雇されてしまうかも知れない。
「あと、心配を掛けるな」
カルロがやさしく言い聞かせるように言う。
アメとムチが上手いなと、妙なところで感心してしまう。
「⋯うん」
心配を掛けないために、あたしなりに考えたつもりだったけど。
カルロに言わせるとあたしのやる事は全て無駄らしいから。今回のこともきっとそうだったんだろう。
「⋯⋯エリアナの身体をぞんざいに扱うな」
カルロの声に苛立ちが加わった。
これが本音か。
エリアナの中身が光凛である事が不本意で仕方ないのだ。
「わかってる」
それはそう。本当にそう。
それでなくても前世があたしだったせいで、エリアナの完璧に汚点がついたと言うのに。
あたしが眠れないせいで美しいエリアナの素晴らしい肌の質を落とした。
エリアナ本人も使用人達も長年気を遣って整えてきた体調にも、何かしら影響はあるだろう。
かわいそうなエリアナ。ごめんね。本当にごめん。
だけど、この現状を理解して腹を立てる人間がいる。
それだけでも、エリアナも少しは報われるんじゃないだろうか。そうであってほしい。
「無理して眠れとは言わない。眠れないなら眠れないで誰か声掛けて相手してもらえ」
「相手⋯」
相手かー、相手ねー。
眠れないからってそんな、相手をさせるなんて。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え。何の?
「俺が相手出来れば良いんだが、そうもいかないからな」
「相手⋯⋯」
いやいや待って?⋯⋯⋯え。まじで何の?
「何を考えてるか聞くまでもないが、話し相手だ」
「話し、相手⋯」
まぎらわしい言い方をしたあんたも悪いし、聞いたところで意味がわかんないし、これ、わざとじゃない?わざとでしょ??
「口唇欲求を満たすんだよ」
「こう⋯⋯え、なに?」
いや、だから。
聞いたところで分かんない。まじで本当、なに。
「分かりやすく言うと、口さみしさを食べる事やタバコやキスなんかで紛らわせようとするだろ?それらの代わりに、お喋りする事で解消しとけって話だ」
カルロが自身の唇を人差し指でトントンしながら言う。
何かもう、何をどこからどう突っ込めばいいのか分からないし、やたらどっと疲れたし、もう、どうでもいい。
「あ、⋯はい」
「電話があれば俺が相手してやったんだが」
うーん、なんだろう。
怒りながらも結局面倒を見ようとする。
どこまでも、おかんだな。カルロ。
「別にカルロじゃなくて良いよ」
「俺じゃないと気兼ねなく前世の話題とか出来ないだろ、貴族らしい言葉使いも疲れるだろうし」
「なるほど⋯」
笑っちゃうくらい、どこまでも不憫な男だよ。
もういいって。いい加減、解放されなよ。
エリアナがそう言おうとする前に、カルロが口を開く。
「と言うより、俺が聞きたいんだよ」
それだけ言うとカルロは食堂から出ていってしまった。
残されたエリアナはぽかんと扉を見つめる。
「なるほど⋯?」
カルロも気を抜ける時間が欲しいのか?
前世の話が出来る相手があたしだけなんてかわいそうに。
あれ?そう言えばヘロイーズとは前世の話、しないのかな。
たしかクラウディオが2人は仲が悪いって言ってたな。
仲を取り持ってあげれば、前世の話を出来る仲間が増えて、きっとカルロも楽しくなるよね。
フィオリーナにヘロイーズ。
カルロと仲良し計画、何か考えないとな。
あ、フィオリーナは今度の合同演習が仲良くなるきっかけになるんじゃない?
ヘロイーズは、⋯⋯追々?
「カルロ卿、本気を出してきましたね」
ジルダがカップを片付けながら声を掛けてきた。
本気、そう、本気で世話焼きにきてる。
ジルダから見てもそう感じるんだ。
「そうだね」
日に日にカルロのおかん度が増していく。
これはまずい傾向なんじゃないか?
この世界の男性らしい甘〜い感じを出すどころか、おかんの精度を上げてどうする。
でもそう言うのが好きな女の人もきっといるよね。
子持ちバツイチさんの好みを調べないとな。
カルロ、さっさと白状してくれたら良いのに。
本当、あたしへの信頼がなさ過ぎだよ。おこ。
カルロが食堂を出るとクラウディオが待っていた。
「どうした?急ぎ確認の書類でも残っていたか?」
「それもあるけど、「歯の浮くような台詞」はうまくいったのか気になってね」
言葉とは裏腹に、揶揄ではなく心配していたのだと分かるクラウディオに対して、カルロが疲労感たっぷりに答える。
「それ以前の問題だ。他の人間を引き合いに出さないと健康的な生活を送る事すら聞き入れてもらえない」
「それは、⋯何とも耳の痛い話だね」
苦笑いするクラウディオをカルロが半目で見る。
「⋯⋯⋯お前さ、ケヴィンにもっとゆっくり食事をとらせてやれよ」
この後クラウディオは生徒会室への道すがら、延々とカルロのお小言を聞き続ける羽目になる。




