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「どうして俺がジルダかヘロイーズに恋愛指南を受けなければいけないんだ」
カルロの不機嫌な声が王族専用食堂に響く。
日頃お世話になりまくっているカルロへの恩返しと罪滅ぼしを兼ねて、魂が生粋の日本男児であるカルロに「この世界の男性の甘〜い感じ」を叩き込んであげよう計画を思い立った翌日の昼食時。
ジルダが良いかヘロイーズが良いかと聞いたところ、カルロの逆鱗に触れたらしい。
分かるよ、お年頃の男の子だもんね。
どっちが好みか白状するようなものだもんね。
だけど、そこは恥じらっている場合じゃないんだよ。
今後、カルロが子持ちバツイチ熟女さんを落とせるかどうか、ここに懸かってるんだよ。
「本当はカルロ様も今のままでは駄目だと思ってらっしゃるのでしょう?「歯の浮くような台詞を恥ずかしげもなく口に出来るクラウが羨ましい」と仰ったそうではないですか」
ヘロイーズに協力を頼むかも知れないから、昨日のうちにクラウディオに計画を話して相談したら教えてくれた。
なんだよ、カルロも悩んでたんじゃないか。
これは我ながら、ものスゴく良い計画を思いついたんじゃない?
きっとカルロも内心では喜んでるよね。
エリアナがご主人様の褒め待ちわんこの様な目でカルロを見つめると、カルロは諦めたように溜め息を吐く。
気のせいだろうか、カルロが一瞬クラウディオをめちゃめちゃ睨んだ気がするけど、そんな不敬はしないはず。
「それで?どうしてその二択なんだ?あとその話し方やめろ」
カルロが掌をエリアナに向けてグーパーしてみせるものだから、エリアナは慌てて自分の両頬を押さえた。
何か最近エリアナの両頬を掴むのがカルロの手の定位置みたいになってるけど、淑女として到底あるまじき顔だよね、あれ。
「それはつまり他に頼みたい人がいるって事?なんだよ〜、隅におけませんな。誰?誰??教えてくれたらあたしが交渉に行くよ!まかせて!!」
「つか、こう言う場合お前がやるもんじゃねえの?」
あー、やっぱそうきたかー。
ですよね、そうですよねー。
痛いところを突かれちまったぜ。
「そうなんだよね。言い出しっぺとして責任持って面倒を見るべきだとは思ったんだけど。⋯⋯うん、ほら、カルロって享年22なんでしょ?あたしは17じゃん?こーゆーのって22歳のオトナに17の小娘が教えられるコトなんてほぼないじゃん?」
あたしは気付いてしまった。
と言うか、思い出してしまった。
前世のあたしは彼氏がいたことがない。
つまり、想い想われ振り振られキャッキャうふふの経験がない。
「ほらあたしって、自分でいうのもなんだけど、恋愛のイロハとか?女性の口説き方とか?段々と仲を深めていく感じとか?そう言うの無縁だったわけで」
芸能人でもリアルでも、誰がかっこいいとか誰と付き合いたいとかそんな話聞いても分かんなかったし。
恋愛ドラマや漫画を見て研究したりもしていない。
そんなあたしに何を教えることがあると言うのか。
こんな事なら恋バナとかちゃんと聞いておけば良かった。
「じゃあ、練習相手で良いだろ?はなからお前に教わろうなんて期待はしていない」
流石カルロ。ちゃんと分かってる。
ちゃんと分かった上で練習相手。
教わることのないあたしが練習相手。
「練習相手⋯とな」
「俺の「歯の浮くような台詞」とやらを聞いてどう感じるか、アドバイスをくれたらそれで良い」
おお、意外にもカルロが前のめりだ。
やる気になったのは大変喜ばしい。
だけどその練習相手があたしと言うのはさ?
もうね、本当もう、どうかと思うんだよ。
「それこそ、経験豊富そうなジルダかヘロイーズさんに頼むべきでは」
ジルダが即座に目を逸らす。
そんなに嫌がらないで。あたしこそ無理だから。
ちょっと、やめて。
キースが気まずそうに目を逸らしてる。
ケヴィンに至ってはニヤニヤしてる。
いや、ケヴィンがニヤニヤしてるのはいつもの事か。
あああ、もう。
ヘロイーズさん。ヘロイーズさんはいずこ。
「いや、年齢的にお前だろ。お前で決定」
カルロが投げやりなようで頑なに言い張る。
うーん。なんだろうこの感じ。
徹底的に年上女性を避けようとしてるっぽい?
「え、まさかカルロ。キレイなおねーさんに手取り足取り教わりたい願望がない、とか?」
キレイなおねーさんは好きでしょう?
妹好きもいるけど、それはそれこれはこれ。
キレイなおねーさんは、男の夢、男のロマンでしょう!?
もしかして年上女性に何かトラウマが!??
なんてこった!!
カルロが望むならナースでもポリスでも女教師風でも、好みの衣装を土下座してでも頼み込んで着てもらうつもりでいたと言うのに!!
その為の衣装も手配済みだと言うのに!!!
「何をそんなに驚いているか分からないが、俺が結婚したい女は、⋯⋯俺達と同じ年だ」
「え。まじか」
子持ちバツイチさんは熟女ではなかったのか。
そうか。そうだよね。
キレイなおねーさんにトラウマ持ちならそうなるよね。
人生色々、カルロも色々、子持ちバツイチさんも色々、みんな色んな事情を抱えているよね。
「それじゃあ、⋯⋯フィオリーナ?」
フィオリーナがカルロをビビらなくなれば充分練習相手になるじゃない。
「責任持って面倒を見るべきだと思ったんだろう?」
カルロが怪訝な顔でエリアナを見る。
ヘビに睨まれたカエルの気持ちがよく分かる。分かりたくなかったけど。
「だからそれは心意気としては勿論そうなんだけど、あたしでは力不足と言いますか荷が重いと言いますか」
子持ちバツイチさんを満足させられるような甘い甘い言葉や態度や雰囲気作りを、あたしがプロデュース出来るとは到底思えない。
喪女がプロデュース。
漫画やドラマならあり得る設定だろうけど、現実に我が身に振りかかるとなるとプレッシャーがえげつない。無理ゲーが過ぎる。
カルロも言ってたじゃない、「現実はゲームや物語じゃない」って。
「交渉するから任せて、と言わなかったか?」
ヘビに睨まれたカエルもここまでじゃないはず。
これはアレかな?大蛇かな?アナコンダかな??
「ううう⋯」
「少し良いかな?昨日私が聞いた話と違ってきている様に思うのだけど」
昼食の場に書類を持ち込まないと言う約束を守り続けているクラウディオが、食事を終えたタイミングでエリアナとカルロの会話に入ってきた。
早食い競争よろしく食事を早々に終えたケヴィンに仕事を指示しているのは見逃されているらしい。
そうだ。
クラウディオには昨日、ジルダかヘロイーズがカルロに恋愛指南する事で話がついてたんだ。
思わぬ援護射撃!!がんばって、クラウディオ様様!!!
「ねえ、エリー?これはカルロへの日頃のお礼なんだよね?そして指南相手を誰にするかで迷うからカルロ自身に決めてもらう、と言う話だったよね?」
ん?んんん???
「それならエリーが断るのは、おかしくないかな?」
援護射撃の方向を間違えてますよ、クラウディオさん⋯!!!
正論だけど!全くもってその通りなんだけど!!
藁にもすがる思いでジルダを見ると何やら口をパクパクしている。
流石は公爵家令嬢の専属メイド!!
この状況を打破する素晴らしいアイディアを思いついたに違いない!!!
なになに!??
『お嬢様なら、できる』?
やかましいわ!!!!!!
キース、目を逸らさないで!!
ケヴィンはニヤニヤしないで!!!
やだもう何これ味方が1人もいない!!
フィオリーナは!?ヘロイーズは!??
「お前が相手じゃないならこの話はなかった事に」
なんということでしょう!!
逃げ場がない所へ容赦ない追い打ち!!!
もう、こうなったら⋯
「あああもう!!わかったよ!胸焼けするくらい甘ったるいツンなしデレデレ男に仕立て上げてやんよ!それでいいんでしょ!!!」
「よろしく」
カルロが何だか機嫌良さそうに笑っている。
なるほど?
こーいう事は気心知れた相手のほうが良かったのか。
あたしは無理だな。
練習でもカルロに向かって愛の囁きとか想像しただけで笑ってしまう。
「あー、⋯⋯⋯⋯ねえ、カルロ?」
「今更いやだとか言うなよ」
カルロが片眉をあげた。
エリアナは気まずそうな申し訳なさそうに目を泳がせて苦笑いをする。
「違くて、その、⋯⋯わ、笑ったら⋯ごめん、ね?」
「その時は単純に俺の力不足だから気にするな」
そんな男前発言、今はいらねーですよ。カルロさん⋯




