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エリアナがカルロと共に食堂に入ると、既にキースとジルダが準備を始めていた。
ジルダが紅茶を淹れる香りにエリアナは思わず頬が緩む。
落ち着く香りに目を閉じてリラックスしていると、ふと甘い香りが漂ってきた。
運ばれてきたお皿には、フルーツとクリームをたっぷり挟んだクレープにフルーツのソースが掛かっている。
中身が光凛のエリアナにはおしゃれ過ぎて食べ方が分からないが、きっと身体が覚えているだろう。
流石は完璧令嬢だよ、エリアナ。期待しているよ。
エリアナが、前世で何度か食べたことがあるはずの食べ物の変わり果てた姿(良い意味で)に緊張している間に、カルロは1人さっさと食べ始めてしまった。
カルロがクレープを食べるのを見てエリアナは驚いた。
食べ方が綺麗だな。あと、似合う。
それより何より、甘い物、食べるんだ?
「頭を使うからな、ある程度の糖分補給は必要なんだ」
今日もエスパーがご丁寧に教えてくれる。
つられてエリアナもパクパクと食べる。
あ、ちゃんと身体が食べ方を覚えてる。助かった。
「うまいか?」
カルロが味の感想を聞くのなんて珍しい。
もしかして、カルロ監修のデザートとかかな?
お店でも出すのかな?
それとも、もう出してたりして?
想い人とはそこで出会ったとか?
子持ちバツイチ熟女さんは従業員なのかも。
職場恋愛ってやつ?
でもまだ違うのか。
でもきっとそうなるよ。
合同演習の対決が終わったら即婚約だよ。
職場恋愛ならぬ職場婚約?
良いね良いね、青春だね。
「うん、すっごく良いと思うよ」
エリアナがニコニコと素直な感想を述べると、カルロはいつもに増して深く長い溜息を吐いた。
「じゃあ、それを俺が食べたら?」
「え?コレとソレって味が違うの?良いよ、食べて食べて」
「違う。もし俺に食べさせるとしたら、それはどうだ?」
なんだそりゃ?
カルロに食べさせるとしたら???
カルロは甘い食べ物を好むイメージがない。
だからこそ、先刻驚いたわけで。
でも糖分補給したいって言ってたし。
「カルロには、もう少し甘さ控えめのクリームでも良いかもね。それか、中のフルーツやクリームを減らすとか、ソースをやめるとか、コーヒー風味にしたり?飲み物をコーヒーにするのでも良いのかな」
「⋯フィオリーナには?」
フィオリーナは前に一緒にお茶をした時にお砂糖を沢山入れてたから⋯
「フィオリーナはもっと甘くて良いかも。それかソースをもっと甘めのものにするとか?」
「⋯⋯クラウディオには?」
クラウディオには栄養を摂ってほしいけど、疲れを取って欲しいし、カルロと同じで糖分補給も必要だし⋯
「甘いものじゃなくて惣菜系にするとか?それならカルロも食べやすいよね。だけど糖分を摂る為ならデザート系でいきたいし⋯。あ、飲み物をフルーツジュースやスムージーにするとか?」
思ったよりまともな意見を述べるエリアナに驚きを隠せないキースと、カルロの真意をはかれず困惑するジルダ。
「じゃあ、お前には?」
「あたし?あたしはこのままで。へへ、パクパクぺろっと食べちゃったよ」
空っぽのお皿を軽く傾けて見せる。
お行儀が悪いかも知れないけど、折角カルロがリサーチしてるなら少しでも役に立ちたい。
「こっち食ってみろ」
元々そのつもりだったのか、カルロの皿の上で半分よけてくれていた様だ。
優しいな。カルロ。
知ってたらあたしもカルロに分けてあげたのに。
「へえ、流石!ちゃんと甘さ控えめなんだね」
「どっちが良い?」
すごいなー、研究熱心だなー。
自分でお店を出して(※エリアナの想像)どんなに忙しくても料理人や従業員に任せっきりにしないんだな。
流石だよ。カルロ。
「どっちも良いよね!それぞれ違ってそれぞれ良い、ってやつ」
「お前の好みは?」
うーん。カルロが何を聞きたいのか分からなくなってきたぞ。
あたしの好みとか関係ある?
しかも何か怒ってない???
食レポが下手で怒ってるとかだったら、とんだ無茶ぶりだよ?
でも、それだけ真剣に商品と向き合ってるって事だよね。うん。
「えっと、そうだね。ちゃんと選ぶべきだよね。うん。そっちの甘さ控えめのやつが良い」
「でもそれはお前の好みで選んだわけじゃないんだろう?」
あー。ねー。そうだよね。エスパーだもんね。
「料理人の手間を考えて、2種類作るより同じものを、と選んだ結果だろう?それはお前の好みとは言わない」
「⋯⋯⋯それは、だめなの?」
どうして、あたしは今カルロに怒られているのだろうか。
料理人に対して失礼って事かな。
それはそう。あたしが悪い。
「駄目だ。俺はお前の好みを知りたい」
あ。そっち?
本当、どこまでも不憫な男だよ。
世話焼きもそこまでいくと、何て言うか
「⋯⋯⋯おかん」
「何とでも言え。とにかく、お前がどっちを好きか、だ」
どっちも好きじゃダメなのかなー。
あ、何かこれ、恋愛ドラマとか、そういうのっぽい。
おっと、ダメダメ。長引くとカルロに怒られる。
ブチ切れカルロは怖い。ブルブル。
どっちが好きか?どっちが好きか、かー⋯
あ。
「言っとくが、完璧令嬢エリアナじゃないぞ。お前の好みを聞いてる」
いやもう本当、高性能が過ぎないか?
どこまで高性能なんだよ。エスパーカルロ。
22世紀もびっくりですわ。テテレテッテレー
「⋯⋯⋯⋯⋯じゃあ、カルロが教えて」
おっと?
ヤケクソで言ったけど、これ、良いんじゃない?
カルロはかしこいしエスパーだし。
「⋯⋯⋯なるほど?」
そう言ってカルロはエリアナの隣に座ったかと思うと、フルーツが盛られた皿とフォークを手に取る。
そしてあろう事か、フォークにフルーツを刺すとエリアナの口元に差し出してきたではないか。
「あの、カルロさん?これは何ですか?」
「これは、黄桃だな」
「いや、あたしが聞いてるのはそういう事じゃなくてむぐ」
うん。黄桃ですね。
「つぎ」
もう逆らわない。
これは、キウイ?
元々この時代この世界のフルーツを知らないけど、「記憶持ち」の功績だろうか。
前世でよく見たフルーツが次々口に入ってくる。
何かこれアレだね。ツバメ。
ツバメの親がこどもにせっせと食べさせるやつ。
あれ、かわいいよね。
親ツバメがエサを運んできて子ツバメに⋯⋯⋯。
うん。はい。かわいい。
「俺も、してやろうか?」
まさか、そんな事まで読まれないよね?
いくらエスパーカルロでも。まさか。
「くちうつし」
「んげほっ」
あわてて胸をトントンと叩くエリアナの背中をさすりながら、カルロが紅茶の入ったカップをエリアナの口元に持ってくる。
ありがとよ、おかんツバメ。
100%、アンタのせいだけどね。
「自分で飲める」
カルロからカップを奪うと、エリアナはごくごくと紅茶を飲み干した。
エリアナがカップを置くタイミングでカルロが口を開く。
「お前は、少し苦味や酸味がある方が好みだな。多分、甘さもそこまで強くなくて良い」
「つまり?」
「俺と同じものの方が好みだ」
そう言いながらカルロは空いた2枚の皿を指した。
それを見たエリアナは頬を膨らませる。
「⋯⋯⋯怒られ損」
「そうでもないぞ?」
カルロが再びフォークを手に取ると、器用にクルクル回し始めた。
何か、機嫌がいい?
よく分からないけど、カルロが楽しいなら良かった。
お店(※エリアナの想像)も繁盛すると良いね。
(うん。カルロが楽しいとあたしも楽しいし、カルロが嬉しいとあたしも嬉しい)
エリアナがニコニコとジルダに注いでもらったおかわりの紅茶を飲んでいる横で、カルロはジルダに何やら目配せをしていた。




