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「ねえねえ。クラウディオって小説の話、どこまで知ってるの?」
エリアナがカルロの向かいの席から問いかける。
あの後、今日はクラウディオがフィオリーナに勉強を教える事になり、生徒会室の隣の部屋に移動したので、カルロと2人きりになった今のうちに聞いておこうと思ったのだ。
「俺は話してない」
わー、やっぱりクラウディオの前で話さなくて正解だった。
「そうなんだ!?魔物とか、前もって対抗策を講じておけば、被害も少なくて済むのかなーとか思ったんだけど」
「例えば?」
将来的に強い敵が現れるって分かってるんだから、強くなる前にやっつけちゃうのはどうだろう?
「魔物がレベル上げする前に倒しちゃうとか?魔物の巣をぶっ壊しちゃうとか?⋯⋯なんか、ひきょう?こっちが悪役っぽい??」
「いや、現実はゲームや物語じゃないからな。良いんじゃないか?」
良いのか。よかった。
でも、一応、他の案も出した方がいいよね?
魔物ってよく分からないけど、前世だと、ライオンとか?熊とか?サメとか?ワニとか?ああ言うのより、もっともっと怖くて厄介なんでしょ?たぶん。
「餌付けして手懐けちゃうのはどうかな?」
「将来的にはそれも良いかもな。その為には捕まえて生態を調べて、⋯専門のチームが必要だな」
え。
これはあたし、クラウディオとカルロの仕事を増やしてしまった感じ?
あ、でも、あたしが代わりにそのチームとやらを立ち上げれば、2人の負担にならない様に出来るんじゃない??
この時代この世界の女の人がどこまで仕事に携われるか知らないけど、第一王子の婚約者、または元婚約者と言う立場を使えば、やってやれない事もないのでは?て言うか、やってやる。
あたしも将来的にはクラウディオとの婚約はなくなる訳だし、独身で仕事を続けるのも良いんじゃない??
「魔物そのものに対する対抗策も良いけど、その結果未来が変わって予想がつかない場所や方法で被害が出ると対応が遅れる。それよりは今分かっている未来の被害を最小限に抑えるための準備や対策を進めようと思ってる」
エリアナの思考が戻ってきたのを見計らって、カルロが話を続ける。
なんだ、流石カルロ。
そりゃそうか。カルロだもんね。
ちゃんと考えてるよね。
うーん、あたしの考えることが無駄じゃなくなる日はまだまだみたいだ。
「て言うか黒川。あの映画って観てたんだ?⋯あ、それとも小説の方?」
物語を知らない事には、この先に起こる内容も分からないはずだもんね。
どちらかと言えば小説の方が黒川っぽいかな。
⋯⋯あれ?だったら、あたしが観た翌日に再現してみせる必要なんてなかったんじゃないだろうか。
とんだピエロじゃないか。
ちゃんと言ってよ。
「あれから何年後かに、配信でやってるのを観た」
「へー、彼女と一緒に?」
黒川は小説っぽいから、映画ってことは誰かと観たっぽいな。と言う想像。
流行ってる当時なら友達かもだけど、何年か経ってからなら彼女っぽい?と言う想像。
結局は全部、黒川を基準にした単なる想像。
あたし、友達も彼氏もいなかったからね。
あの部屋に集まってた子達は仲間って感じで、友達ではないだろうし。
学校で話してた子達も、ただのクラスメイトで友達ではないだろうし。
「まあな」
え。まじか。
「うわ、本当!?すごいすごい!!え、どんな子?いや、別に言いたくないなら言わなくて良いんだけど。わー!うわー!!良かったね!なんか、本当!!良かったよね!」
あたしのせいで、黒川の人生はロクなことがなかったんじゃないかと思ったけど。
ちゃんと彼女もいたんだ。
そうだよね、黒川だもんね。
彼女の1人や2人や3人4人、何人だっていておかしくないんだよ。
ああ、そうだよ。黒川だもん。
「そんなに嬉しそうにされると複雑だな」
「え、大丈夫だよ!冷やかしたりからかったりしないから!本当に純粋に良かったねって思ってるんだよ」
わー、どうしよう。嬉しい!飛び跳ねたい!
黒川!黒川!黒川!!
黒川の人生がちゃんと良いこともあって、良い出会いもあって本当に本当に良かった。
⋯⋯⋯⋯⋯え。まって。
そんな、彼女も出来て、仲良く映画も観るようなラブラブの最中、あたしのせいで黒川は先輩に
こんこんこんこんっ
「おい」
いつの間に近くまで来ていたのか、カルロがエリアナの座っている椅子の背もたれを指で叩いた。
青い顔でエリアナが振り向くと、無愛想だけど綺麗な顔が無遠慮に見下ろしている。
「昼飯が早かったから腹が減った。お前も付き合え」
ああ、黒川だ。
黒川が生きている。
顔や姿は違うけど。間違いなく黒川だ。
大丈夫。今世ではちゃんと幸せにするからね。
黒川が好きな人と結ばれるように。
2人の仲を誰にも邪魔させない。壊させない。
「よし!!作戦会議といこう、カルロ!」
先刻の対決の話。
クラウディオはカルロと対決する気満々だった。
『対決についてだけど。倒した数が良いか、倒すまでの時間が良いか、カルロが決めて良いよ』
どうやら合同演習の討伐で対決をする事に決まったようだ。
『負けた方は勝った方の言う事を何でも1つ聞くこと。勿論、王命でも構わないよ』
となれば、いよいよ王命でカルロが想い人と婚姻関係を結ぶことが現実的になってきた。
相手がどんな女の人か知らないけど、例え最初は王命による結婚だとしても、カルロが相手ならすぐに結婚して良かったと思えるはずだ。
何よりカルロが「好意は持たれているはず」だと言っていた。
何かきっかけがあれば、すんなり上手くいくはずだ。
カルロだって気持ちが通じ合った上で結婚したいと言っていたけど、好意を感じているわけだから、対決に勝てばきっと想い人との結婚を望むはずだ。
すごい。
カルロの明るい未来が見えてきた。
もう手が届きそうな目の前。すぐそばに。
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい。
今度こそ。ようやく。カルロは幸せになれるんだ。
その為にも、合同演習で組む相手選びは肝心だよね。
任せて、カルロ。
あたしが厳選に厳選を重ねてとびきりの1年生を見つけてくるからね!!!
本当はさ、フィオリーナと組ませてあげたいんだけど。
でも、あんなに討伐を怖がっていたフィオリーナには薬学のほうを選ばせてあげたい。
となると、カルロにはフィオリーナと組むのは諦めてもらうしかないな。ごめんね。
食堂に着き、扉に手を掛けたカルロが徐ろに振り返ると、顔の緩みが止まらないエリアナに向かって切り出した。
「言い忘れてたが。合同演習は毎年、生徒会役員はスタッフ側だったのを、今年は1年のフィオリーナが居るから4人で参加する事に決まったぞ」
え。
ねえそれ、本当に言い忘れ?




