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(許してもらおうなんて思うのが間違いだった)
エリアナはクラウディオの厚意に素直に甘えることに決め、王族専用の食堂で珍しい紅茶を用意してもらっていた。
本当は今すぐにでも生徒会室に戻り、カルロの不敬罪(※冤罪)の行方を知りたかったのだが。
ジルダによると、あのやりとりはギリギリ不敬罪には当たらないらしいので、この世界の生粋の住人の判断を信じることにした。
ジルダは紅茶を淹れるのも本当に上手で、鼻をくすぐる良い香りに癒される。
それでもエリアナはティーカップに添えた指を滑らせるばかりで、一向に口をつけられずにいた。
エリアナの頭の中では、先程のカルロとのやり取りが繰り返されている。
けじめだの、償いだの、罰だの、大層な名前をつけて、結局はカルロの傍にいていい理由探しをしただけに過ぎない。
しかもそれを、あたかもカルロからの提案かの様に装ったズルくて浅ましい自分。
(黒川の人生を滅茶苦茶にしたくせに)
到底許されない事をしておいて、許して欲しいだなんて。そもそもが図々しい願いだったのだ。
黒川の優しさに付け込んだ自己満足だ。
許してもらえなくても、もっと早く離れるべきだった。
カルロの為を思うなら関わるべきじゃなかった。
例えカルロに怒られても嫌われても憎まれてでも。
もっと早く離れるべきだったが、それを言った所でどうにもならない。
それより、今からでも、今すぐにでも、離れるべきだ。
(⋯⋯⋯⋯⋯よし。領地に行こう)
入学式の日に倒れた時に頭を打ったことにしよう。
体調不良でしばらく領地で療養しよう。
体調に不安のある令嬢ともなればクラウディオとの婚約もうまく解消にもっていけるのではないか。
家に帰ったら両親に領地での療養を打診しよう。
なるべく早く行けるように。出来ればすぐにでも行けるように。
生徒会の仕事は、無事フィオリーナが補助役員に決まった事だし、人手は足りるだろう。多分。ギリギリ。
フィオリーナは優秀だからすぐにでも戦力になるはずだ。
仕事を押し付けてしまうのは非常に心苦しいけれど、本当に本っ当に心苦しいのだけど。
いやいや、完璧悪役令嬢になるって決めたんだから、初っ端から音を上げてちゃダメだ。
ううう⋯
(決心が鈍る前に!思い立ったが吉日!!即実行!)
エリアナはカップに口をつけ喉を潤すと、ジルダに向かって微笑んだ、
「ジルダ。今日から昼食は1人でとります。クラウディオ殿下とカルロ様にその様に伝えてもらえる?」
「無理です」
流石は公爵家令嬢及び皇太子妃筆頭候補である完璧令嬢エリアナの専属メイドである。
返事が早い。
返事が早すぎて頭に届くまで時間が掛かってしまった。
「⋯⋯⋯⋯⋯もう一度お願い」
「無、理、で、す」
流石は(略)エリアナの専属メイドである。
今度は耳に届くと同時に頭にしっかりと届いた。
「⋯⋯何故?」
「「担いでても引き摺ってでも連れて行く」そう仰っていたではありませんか」
誰が、とは聞かない。
あの日のカルロは思い出すだけで涙が出ちゃう。
「そうね」
「僭越ながら、間違いなくあの男はやります」
遠い目をしたジルダの言葉は「エリアナにはカルロから逃げ切るなど無理」と暗に言われているようで、幸先が悪い。とても悪い。
これからカルロと関わらないためにカルロから離れるつもりなのに、こんな有能な専属メイドに「逃げ切るのは無理」などと言われてしまったら決心が鈍る。心が折れる。それこそバキバキに。
「⋯⋯そう、ね」
今日は諦めて昼食を一緒にとる?
そうだ。それによってカルロを油断させる作戦ということで。
⋯⋯⋯ダメだよ。絶対このままズルズルなるやつ。
ここは心を鬼にして?違う?なんだっけ?とにかく!今日から!今から!離れなきゃ!!!
「それでは、今日はもう屋敷に戻る事に致します」
エリアナが席を立ちジルダに向き直ると同時に、食堂の扉が開いた。
「丁度良かった。少し早いけど今から昼食にするところなんだ。帰るならエリーも一緒に食べてからにすると良い」
扉の方を見るとクラウディオとカルロが入ってきた。
え。なんで。
昼食まで、まだまだ時間あるよね?
「今日はこの後、少々立て込む予定でね。食べれる時に食べてしまう事にしたんだ。食事を疎かにすると優秀な腹心にまた怒られてしまうからね」
クラウディオがニコニコと近付いてくる後ろから、ケヴィンとキースが3人分の食事を運んできた。
手際が良すぎないか?
「そうだ、エリー。今日はもう帰るならゆっくり休むと良いよ。明日からもっと忙しくなるからね」
なぜ忙しくなる事をそんなに嬉しそうに報告してくるのか。これだから仕事中毒は。
クラウディオはその内、仕事がないと落ち着かない身体になってしまうんじゃないだろうか。
誰かもっと違う楽しみを教えてあげた方がいいんじゃないかな。
でも考えようによっては、これだけ忙しいと仕事大好きな方が精神的に安定するのかも知れない。
もうこれはこれで良いような。仕事中毒に向いていると言うのか、仕事中毒になるべくしてなったと言うのか。
いやいやいやいや、精神的に良くても、身体壊すよね?絶対。
「来月の合同演習が終われば一段落つくはずだ。クラウディオと、前に言っていた演劇でも観に行けばいいんじゃないか」
隣に座るカルロが何とは無しに言ってきた。
安定のエスパー。
いや、それより。
「合同演習、ってたしか⋯」
フィオリーナが継母と異母姉に嵌められた結果、聖女の能力に目覚める学校行事じゃなかっただろうか。
小説ではもっと先の展開だった気がしたんだけど。
(カルロがクラウディオに小説の事をどれだけ話してるか分からないから、大っぴらに聞くわけにはいかないよな⋯)
「何代か前に「記憶持ち」が在学していた時、季節によって薬草も活動が活発な魔物の種類も違うと言う理由で年4回実施に変更したらしい」
それは貴族の多く通う学院の行事を決してお遊び程度で終わらせない、大変実用的且つ効果的な、まさに実演と言う名に相応しい素晴らしい取り組みなのだろう。
だがしかし。
今はいらない。
今はとにかくジャマだ。
何でよりによって今なんだ。
明日から忙しくなる理由って絶対それじゃん。
「お察しの通り、明日から合同演習の準備に取り掛かる」
だろうね。
そうだと思いました。
エリアナは淑女の微笑みを湛えながらクラウディオに向かった。
「そんなに忙しくなるなら、フィオリーナ様にもお手伝い願いましょう。生徒会の仕事、そしてクラウとカルロ様に、早く慣れ親しんで頂ける、とってもいい機会になりますわ」
名案と言わんばかりにフィオリーナに仕事を押し付ける為の根回しをする。
クラウディオも眩しいくらいの笑顔で返してくれる。
「そうだね、勿論彼女にも手伝ってもらおう。だけど合同演習の準備は1年生である彼女は初めてだからね、勝手を知っているエリーに任せたいと思うんだけど。どうかな?」
うん。知ってる、これ。
「どうかな」と言いつつ断らせる気がないやつだ。
気のせいだろうか。
外堀から埋められていくこの感じ。
恐る恐るカルロの方を向くと、美しい顔をした悪魔が笑っていた。
「言ったろ?逃げんじゃねえぞ、って」




