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生徒会室の扉近くで、両腰に手を当てた女子生徒が大股を開いて立っている。
前髪を斜めに切り揃えツインテールの髪の毛を縦ロールに巻き、ラインストーンのような物を目元に貼り付けそばかすを描いて紫の口紅をさしている。
きっと素顔は特筆すべきところのない可もなく不可もないよくある無難な顔立ちをしているのだと思われた。
そう、例えば⋯
「先刻はハンカチをどうもなんだぞ!完璧令嬢エリアナ嬢のハンカチなんて家宝にしちゃうんだぞ!!」
はじけんばかりの笑顔でハキハキと元気良くしゃべる女子生徒。
淑女らしからぬ言動だが嫌いではない。
だけど油断は出来ない、とエリアナは淑女の微笑みで返す。
「先程お手洗いにいらした方ね。改めてごめんなさい、濡れた所は大丈夫だったかしら?」
お手洗いで会ったときはラインストーンも口紅も装着前で口調もこんなではなかった。
なるほど。あのお手洗いなら一般生徒の利用がほとんどないから変装するのに使い勝手が良いんだろう。
「黒川をご存知と言う事は、貴女も転生者なのね?」
こんな近くに3人目、しかもどうやら同じ時代の日本に生きていたらしい「記憶持ち」。
これがこの世界ではどんな確率なのか分からないけど、あたし的にはなんかものすごい確率!って気がする。
具体的な数字は分からないけど。
アレかな?天文学的数字とか言うやつ。
TVでしか見たことないけど。
「そうなんだぞ!前世を思い出したのはキミ達よりずっと前!前世の享年もキミ達より年上!つまりはキミ達より何もかもが大大大先輩なんだぞ!!!」
ふんぞり返って鼻息を荒くする女子生徒。
なるほど。この格好の時はこう言うキャラなんだね。
何でかアニメに出てきそうなスカンクを彷彿とさせる。
だけど多分、この姿もこの人の素ではない気がする。
「実年齢は存じませんが、同じ学年のヘロイーズ・ホルスト様ですね。フランチェスカ様のご友人の」
ここで言うフランチェスカはフィオリーナの異母姉の事だ。
この女子生徒、ヘロイーズは、前にフィオリーナをイジメていた令嬢軍団の1人だ。
勿論、こんな目立つ格好はしていなかったが。
「⋯⋯⋯へえ!これは驚いた、⋯なんだぞ!!キミはなかなか興味深いな!どうして気付いたのだ!?どこで気付いたのだ!??完璧令嬢エリアナ嬢ならきっと気付いていないんだぞ!!」
ズカズカとエリアナに近付いてくるヘロイーズに立ちふさがる様にカルロが前に出る。
「ヘロイーズ、お前、俺の事を知っていたなんて聞いてないぞ」
カルロの声が低い。怒っているらしい。
それよりも知り合いだったのか、この2人。
「記憶持ち」同士が知り合い。
いや、「記憶持ち」同士だからこそ知り合ったのかな。
「カルロ君こそ!黒川少年だったなんて初耳なんだぞ!!」
ヘロイーズは身体の前で腕を組むと、頬を膨らませ拗ねたような目をカルロに向ける。
カルロはそれを無視して扉の方に視線を向けると、不機嫌さを隠さない声色で発した。
「おい、いるんだろクラウディオ。こいつを引き取れ」
なるほど。やっぱり王子の知り合いか。
もしかして「記憶持ち」は王族に報告義務があるとかかな?
そりゃあ「記憶持ち」が3人揃うこともあるはずだね。
ところであたしの事はカルロが報告したのかな??
「うーん、相変わらずカルロとヘロイーズは仲が悪いね」
クラウディオが苦笑いしながら生徒会室に入ってくると、ヘロイーズは顔の前で人差し指を立て左右に振り始めた。
「それは違うんだぞ、クラウディオ殿下殿!仲が悪いのではなくカルロ君が私を嫌ってるだけなんだぞ!!勿論私はカルロ君が大好きなんだぞ!」
カルロに抱きつきそうな勢いのヘロイーズは、カルロに額を掴まれて、強制的に腕一本分の距離をとらされている。
カルロ、もとい黒川は、仏頂面で無愛想で無遠慮でノンデリだったけど、こんな扱いをするのは珍しい。
光凛でさえもう少しマシな扱いだった気がする。
「カルロ君が記者嫌いなのは黒川少年だったからなのだね!?これで長年の疑問が解消したんだぞ!長年と言っても1年なのだがね!!」
はっはっはっと、わざとらしく笑うヘロイーズ。
いや、わざとらしいのは笑い方だけではないが。
なんか色々ツッコミどころが多すぎて楽しい。
エリアナが表面的には淑女の微笑みを保ちつつニコニコとヘロイーズを眺めていると、突然ヘロイーズが目を見開いて鼻息荒くエリアナにじりじりと迫り来る。
まあそれも当然のようにカルロに額を押し返されて阻まれているのだが。
「おおおおお!!??エリアナ嬢は私への警戒を解いたのだな!?それは何故なのだ!?カルロ君が目の前で守ってくれているからだろうか!??それとも私がキミに興味を持ったからだろうか!!?それとも、私が!この私が!!⋯⋯クラウディオ殿下殿の諜報員だと気付いたからなのだろうか?」
一瞬、ヘロイーズの目が猛禽類のそれになった。気がした。
「おい」
カルロがヘロイーズを咎めるが、当のヘロイーズはどこ吹く風でエリアナにウインクを投げてくる。
「今更隠さなくともエリアナ嬢はとっくに気付いたようなのだぞ!そうだね、クラウディオ殿下殿が入室する直前⋯だろうか!?」
「フィオリーナ嬢に害なす輩かと思いましたが、クラウの知り合いなら潜入捜査か内側から守る算段か何かだったのですね。失礼な態度を取ったりしてごめんなさい」
フィオリーナの異母姉の側に居る人間が、クラウディオも把握済みの「記憶持ち」なら、情報屋とか諜報員とかその辺かな、なんかその方が出来る王子っぽいし、とか思っただけなのだが。
そこまで赤裸々に説明して、エリアナの完璧令嬢のイメージを崩す必要もないだろう。
イメージ戦略だいじ。
「なんのなんの!!そう信じてもらえないと商売上がったりなんだぞ!」
なるほど。諜報員の世界というのもなかなかにシビアなようだ。
最初はフィオリーナの異母姉側の人間が変装してこちらに探りを入れに来たのかと思って、それで牽制をかけたつもりだったんだけど、気付かないふりをしてあげるべきだったのかも知れない。
本当だね。あたしのやることは全部無駄みたいだ。
エリアナがこっそり溜め息を吐くと、真上からカルロの声が聞こえた。
「お前の考えていることは多分ヘロイーズの矜持を傷付ける行為だ」
うん。エスパーに磨きがかかっていくね。
もう驚かない。
口に出さなくても伝わる便利道具だと思おう。
テテレテッテレー、『エスパーカルロ』
「俺としてはあいつの矜持なんざバキバキにへし折れてしまえば良いと思っている。どんどん指摘してやれ」
見上げるとカルロが薄く笑っている。
うん。悪い顔だ。
悪い顔だけど綺麗な顔だな、などと考えているとヘロイーズの笑い声が聞こえた。
はっはっはっ
うん。こっちはわざとらしい笑いだ。
「てっきり私の矜持を守ってくれる発言かと思ったら真逆だったとはね!それでこそのカルロ君だな!!それで!?エリアナ嬢!!どうして気が付いたのだ!??」
「え。⋯⋯⋯逆に、どうして気付かれないと思われたのでしょう?」




