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「改めてフィオリーナ嬢、カルロの厳しい課題の忙しい合間に時間を取ってもらってすまないね」
クラウディオの天使のような微笑みに、恐縮しながらも頬を染めるフィオリーナ。
あー、やっぱ可愛いわー。
フィオリーナの可愛さは最高の癒しだわー。
カルロとクラウディオもイケメンで、もちろん眼福なんだけどね。
やっぱり何かこう、違うよね。
「カルロの移動短縮が叶えば忙しい2人の有効に使える時間が格段に増えるだろう?それにはカルロのフィオリーナ嬢への指導を生徒会室の隣の部屋で行えば良いと思ってね」
クラウディオが優しい笑みを絶やさず真摯にフィオリーナに説く隣で、エリアナは真正面に座るフィオリーナをうっとりと眺めていた。むしろ舐め回すように見ていた。
このお茶会の目的は先程、生徒会室で既に聞いている。
早い話が、カルロがフィオリーナの面倒を生徒会の仕事の合間に見やすい様に、フィオリーナを生徒会補助役員として囲い込んでそばに置く。
そうする事でフィオリーナに新たな地位を与え、異母姉率いる令嬢達からの虐めに牽制を掛ける目的もある。
ただし、最近はカルロの指導のお陰で成績もマナーも及第点を超えているが、入学当初のフィオリーナを考えると補助とは言え生徒会役員など大抜擢で済む話ではない。
そこで、既に面識のあるエリアナ、つまり王太子妃筆頭候補の侍女見習いとした上で、補助役員としてもそばに置く。
本当に侍女になる必要はない。
あくまでもそばに置くのに文句を言わせない為の名目だ。
そんな諸々の説明と説得はクラウディオに任せて、エリアナはフィオリーナの可愛らしさを真正面から堂々と堪能している。
4人掛けのテーブルで、左右にカルロとクラウディオが座っており、まさに両手に花、目の前に最高級極上の花、いや、華だ。
いやもう、クラウディオも、サンドバッグに自然の柄を取り入れる必要なんて全然なくてさ。
フィオリーナを1人、目の前に置いておくだけで空気清浄と精神安定とダブルの効果が得られるんじゃないかな。
フィオリーナの全身からマイナスイオン?とか何かそんなのが出てるんじゃないかな??
この部屋の空気、特にフィオリーナの周りの空気を瓶詰めにしてお持ち帰りできないかな。
もういっそフィオリーナをお持ち帰りできないかな。
「おい、顔がヤバいことになってるぞ」
またしてもカルロの声で現実に引き戻された。
それはいけない。淑女としてあるまじきだ。
エリアナはティーカップをソーサーに置くと、取り繕うように当社比10倍の淑女の微笑みをフィオリーナに向ける。
「フィオリーナ様。その後お変わりないですか?とても頑張っていらっしゃるとお聞きしていますが、お困りの事などないかしら?」
「いえ、いいえ。滅相もございません⋯」
フィオリーナが緊張した面持ちで首を振る。
「先程のクラウディオ殿下からのご提案ですけれどね、私からも是非お願いしたいの。カルロ様が信頼しているお方なら私も安心ですし、何よりフィオリーナ様とはもっとお話ししたいと思っていたの」
「勿体ないお言葉です⋯」
うーん。フィオリーナが先刻からティーカップに手を添えているだけで、全然飲んでいない。
冷えた指先を温めているのだろうか?
冷え性?末端冷え性??
何かつらいって聞いたことある。
でも、前にエリアナと2人でお茶をした時は美味しそうに飲んでいた。
だから可愛いな、連れて帰りたいなと思って⋯おっといけない。顔がヤバいことになる。
うん。多分これは。
カチャン
「おい!?」
エリアナが誤ってティーカップをひっくり返してしまった。
「あら嫌だ。ごめんなさい。麗しい殿方、しかも、第一王子であられるクラウディオ殿下と、その右腕と呼ばれるカルロ様とお茶をご一緒するなんて緊張で手が滑ってしまいましたわ」
カルロが鬼の形相でエリアナを見ている。
ちなみに先刻の「おい」もカルロだ。
大丈夫ですよ。中身はほとんど空ですよ。
それに自分に向かって倒したし。
音を立てた以外は誰にも迷惑を掛けていませんよ。
⋯⋯カップ、ヒビも入ってないし欠けてもないはずだけど。うん。
あとでちゃんと確認して必要なら弁償するからね。
だから、ちょっとカルロ、そんなに睨まないで。
ここからが本題なんだから。
「私、未だお二人がお揃いになると緊張してしまって、この様に粗相をしてしまう事がしょっちゅうですの。ほらクラウもカルロ様もそんな怖いお顔をなさらないで。フィオリーナ様もどうぞリラックスなさって」
第一王子とその右腕、更には婚約者まで揃って、あんな面接みたいなピリピリした空気、フィオリーナみたいな可憐な美少女の繊細な神経じゃビビりまくってお茶どころじゃないよ。
美形の無表情は怖いんだよ。
「なるほどね。エリーの考えてる事は分かったけど、その方法は最適ではないな。フィオリーナ嬢は私に任せて、カルロの機嫌を取ってもらえると非常に助かる」
クラウディオが困ったように笑うのでカルロに向き直る。
え。なに。まだ鬼の形相じゃん。
ずっとその顔してたの?
うーん。これはアレかな。
心配掛けちゃったんだろうな。
エリアナは小首をかしげるようにしてカルロの顔を覗き込むと、カルロだけに見えるように口を動かした。
「(ごめんね?)」
一瞬身じろぎしたカルロが溜め息を吐く。
「手を見せてみろ」
エリアナは素直にティーカップを倒した方の手を差し出す。
「火傷はしていないな?痛いところは?」
「ございませんわ」
カルロは本当にちょっと過保護過ぎないかな。
でもそうか、エリアナは貴族だから身体の作りが違うのかも知れない。
もっと丁重に扱うべきだったか。
カルロがミクロの傷も見逃すまいとエリアナの手をチェックしているのを眺めながら、エリアナは自分の手に目をやる。
白魚の様な美しい手。
瑞々しくしなやかで⋯
「あ」
しまった。思わず声が出た。
それを見逃すカルロではない。
「どうした?痛むのか?」
「いえ。そうではなく」
これはダメだ。間違いなく怒られる。
カルロは真剣にエリアナを心配してくれているのに。
「怒らないから言ってみろ」
どこまでもエスパーなカルロに隠し事は出来ないとエリアナは早々に観念した。
長引かせると余計に怒られる。学習した。
「あの、この間お話したことなのですが、その、お耳を拝借」
もう慣れたと言わんばかりにカルロがエリアナに顔を寄せる。
「(ね?ぷるぷるのスベスベでしょ?)」
眉間のしわをさらに深くしたカルロが目だけ動かしてエリアナを見ると、エリアナはウズウズとカルロの返事を待っている。
カルロはもう一度エリアナの手に視線を戻すと、支えるように添えていた自身の指を滑らせた。
その手は撫でるように包むように動きを変えてエリアナの手や腕に触れる。
(⋯⋯⋯⋯⋯うん。長い)
エリアナの肌の感触を確かめてもらう為に自分から言い出した事なので無下にも出来ない。
(あれー?そんなに触らないと分からない??あ、やば。最近ちょっと寝不足だったかも?エリアナの肌の質を落としてしまった??)
「確かに」
カルロは一言だけ言うと、ようやくエリアナの腕から手を離した。
それを見てクラウディオが苦笑いをしている。
「うーん、段々と遠慮がなくなっていくね?」
そんなやり取りを傍らで見ていたキースは赤くなったり青くなったり忙しく、ジルダはやれやれと溜め息を吐きケヴィンは相変わらずニヤニヤと笑っている。
ただ1人、フィオリーナは険しい顔をしている。
「やっぱりカルロ様は⋯⋯」




