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放課後の生徒会室にエリアナが入ると、既にカルロとクラウディオが揃っていた。
「フィオリーナ様は、まだいらしてないのね?」
「ああ、急ぎの書類だけ先に片付けたくてね。約束の時間までまだ少しあるよ」
そう答えるクラウディオの机には、相も変わらず書類の山が出来ている。
前年度の生徒会役員の仕事に適当なものが多く残っており、そのフォローに明け暮れているのだ。
エリアナが新年度早々対応に追われた会計のミスも、そのうちの1つだ。
現在は、前年度1年分をすべて見直し、他年度の書類等と照らし合わせての確認作業中である。
出るわ出るわ、故意なのかミスなのか不自然に偏った予算編成に、合わない数字と行き先不明の物品、明らかに適当に書かれた同じ名前同じ用途の領収書、等々
それらを今年度の仕事と並行してやっている。
忙しいはずである。
これらの「少し調べれば分かる」杜撰な悪事の証拠に見えるものが、本物なのか、第一王子の資質を見る為にわざと忍ばされたものなのか。
前者の場合、関わった者を卒業生等を含め全員調べ上げる必要があるし、後者の場合、第一王子を見定めている者か敵意を持つ者か、どちらか定かではないが、それらの手の者が学院内に居る事は明らかである。
クラウディオは学院内でも隙を見せる訳にはいかない立場だと言う事だ。
王子って本当に本当に大変だよね。
それなのに、あんなににこにこ穏やかな爽やかイケメンで、スゴイと言うか。心配と言うか。
そりゃ舌打ちの1つや2つ、仕方ないね。
むしろ、もっと何かこう。ストレス解消的な何か。
サンドバッグとか?あるといいんじゃないかな??
デートと言う名のお疲れ様会で気晴らし、とか思ったけど、その時間を休息に使ってもらって、サンドバッグを贈るべきなのでは。
だったら、癒しの効果を期待出来る自然の柄とか良いんじゃない?
あ、でも自然破壊だなんだと揶揄する連中が出てくるかも知れない。
イメージ戦略も大切だもんね。面倒くさいね。
前世でよく見たあのサンドバッグの色も素材も形状もすべて何かしら意味があるのだろう。
何かいろいろ計算し尽くされた結果がアレなんだとしたら、素人のあたしが癒し効果がどうとか余計な事を考えてはいけないのだ。
よし。今日の帰りにでも黒い本革の細長いサンドバッグを注文しに行こう。
「ふふ、エリーの百面相は見ていて本当に飽きないね。見ているこっちまで仕事が捗るよ」
エリアナの考え事が一段落ついたのを見計らってクラウディオが話しかける。
いつから見られていたのかと恥ずかしい気持ちを誤魔化すようにエリアナが尋ねる。
「クラウはもうフィオリーナ様とはお会いになられたのよね?」
「ああ、何度かね。カルロが面倒を見ている子だろう?幼馴染らしいね」
カルロが目線だけクラウディオに向けてから頷いたのを見て、クラウディオが続ける。
「境遇に恵まれなかったが、カルロのお陰で頭角を現していると聞く。だから気に掛けてやって欲しい、目を掛けてやって欲しい、労いの言葉の1つも掛けたらどうだとカルロに頼まれてね」
婚約者のいる立場で一生徒に過ぎないフィオリーナに何度も個人的に会っている事への弁明だろうか。
そんな事気にしなくてもいいのに。
そしてカルロ、あからさま。
もっとこう、男女の機微と言うものをさあ。
⋯⋯⋯うん。まあ黒川だしな。
「クラウもカルロ様もお優しいのね」
2人を見比べながらエリアナが嬉しそうに笑うと、クラウディオが苦笑いを返す。
「いつだったかカルロが、エリーに手紙は書いたか、贈り物はしたのか、と口うるさい時期があったが。それを思い出したよ」
「まあ、そんなことが?」
エリアナが、光凛の記憶を思い出す前のことだろう。
その頃は黒川自身の記憶は戻っていたのだろうか?
などと考え込んでいるとクラウディオが眉を下げてエリアナの目を見つめる。
「勿論、カルロに催促されたから手紙やプレゼントを送っていた訳じゃないからね」
エリアナは思わずふっと吹き出した。
そんな事思わないし、仮にそうだとしても何かしら事情があったのだろうと思う位には、エリアナはクラウディオを人として信頼しているし尊敬もしている。
そしてクラウディオが、エリアナにそんな誤解をされたくないと思ってくれている事が、素直に嬉しいなと思う。
もしかしたらこれは元々のエリアナの感情なのかも知れないが、光凛自身も、例え社交辞令だとしてもこんなに仕事熱心で責任感が強く誠実で穏やかな人に優しくされて嬉しくないはずがないのだ。
白馬の王子様は女の子の憧れだからね。
「ええ。ありがとう、クラウ。それにしてもフィオリーナ様は、こんな短期間でカルロ様のご指導の成果があらわれるなんて、本当に素晴らしい素質をお持ちのお方なのね」
流石はヒロイン。
だけどきっとそれだけじゃない、彼女の努力の結果なのだろう。
あんなに可愛くて頑張り屋さんのフィオリーナなら、カルロでもクラウディオでも、どちらとくっついても良いかな。
両方は無理だもんね。残念だけどね。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ん?
無理なのかな??
だって、聖女だよ?
多夫一妻制とかでもアリなんじゃない??
だって、聖女だもん。
え。これ。あとでカルロに相談してみようかな。
え。かなり良いんじゃない???
「なあ、お前。今、もの凄く碌でもない事考えてるだろう?」
冷え冷えとしたカルロの声で現実に引き戻された。
「失礼な!今あたしが思いついた事を聞いたら、今の言葉すっごい後悔するよ!!涙流して感激するレベルの思い付きだよ!」
「言ってみろ」
うわ。えらそう。
でも、確かまだフィオリーナは聖女の能力に目覚めてない時期だよね?
これは多分、カルロにだけ伝えるべき内容だ。
「ではカルロ様。お耳を拝借願えます?」
眉を顰めて耳を近付けるカルロに、前世の海外アニメで見た猫のような笑顔をしたエリアナが内緒話をする。
「(フィオリーナは聖女の特権で、カルロとクラウディオ、2人と結婚したら良いんじゃないかな?)」
エリアナが、ご主人様に褒めてもらうのを待つ犬のような目でカルロを見つめている。
しばらく天を仰いでいたカルロが徐ろにエリアナの方を向くと、深い溜息と共に先程より数段冷え切った声を出した。
「くっっそくだらねえ事言ってないで行くぞ。フィオリーナが来たから、休憩がてら茶を飲みに行くことになった」
見れば確かに先ほどまで机に向かっていたはずのクラウディオの姿がない。
素晴らしいアイディアと思ったものを一蹴された事に驚けば良いのか、いつの間にフィオリーナが来たのだと言う事に驚けば良いのか、更にいつの間にお茶休憩の話が進んだのだと言う事に驚けば良いのか。
とにかくエリアナが呆気にとられていると、生徒会室を出ようとしていたカルロが戻ってきて、エリアナの耳元で囁やいた。
「俺が結婚したい女は他にいるって言ったよな?」
カルロの不機嫌そうな、それでもとびきり綺麗な顔がエリアナから離れていく。
耳元に熱が集まる。エリアナは熱い顔を自身の両手で覆って冷ます。
そう言えばそんな事言ってたかも
あと、本当、声が良いな!!!!!!!




