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「それでね、演劇をみに行くのはどうかなって」
エリアナは今日も少し多めの1人前の昼食を頬張りながら目の前に座るカルロに尋ねる。
「演劇、ねえ」
「王子も相変わらず忙しそうだし、体を休めるにはアチコチ動き回らない方が良いじゃん?」
我ながら良いアイディアだと思ったのだが、カルロの反応は芳しくない。
デートの定番かと思ったが、この世界では違ったのだろうか?
て言うか、まあカルロは、中身が光凛のエリアナが、王子とデートと言う名のお疲れ様会に出掛けること自体が気に入らないのだろう。
それは分かってる。
だが出掛けることはもう決定事項なのだ。
どうせ行くからには王子を楽しませてあげたいと思わないのか。薄情者め。
「お前さ、前世で男と映画見に行ったろ?」
「まさに、この物語、ね」
「最後までちゃんと見たか?」
「見たよ?」
怪訝そうなカルロにエリアナが首を傾げる。
何だいきなり。
あたしがこの物語を細かい所まで覚えてないから?
金と時間の無駄遣い、とか、そういう事??
それを言われてしまうと⋯、うん、でも、王子はちゃんと内容を頭にいれると思うんだ。だって王子だもん。
「あー⋯お前はな。そうなんだろうな。⋯⋯相手は?」
「相手?」
え、一緒に行った相手がどんな風に映画を見たかなんて知らないけど。
別に感想を言い合うタイプでもなかったしな。お互い。
映画の話、って言うか、カルロの再演をしてみせたのは黒川だけだし。
えー、うーん、どうだったかな。
悩むエリアナにカルロが溜め息を吐く。
「どうせエロいことしてたんだろ?」
「そーだっけ?て言うか、王子はしないでしょ」
あーそっかそっか。そうだわ。
て言うか。だから、何で黒川が知ってるんだよ。
とんだおしゃべりヤロー共だな。
「て言うかさ、本当、お前のそう言うところだぞ」
「え?おしゃべりヤロー?」
男尊女卑とかそう言う話?違うか、男女差別??
別におしゃべりな男がいても良いと思うよ。
だけど内容よ。しかも黒川相手に。
一体何をどこまでしゃべってんだっつーの。
「なんだそれ、違えよ。エロいことされて気にせず映画見てたんだろ?」
「あ、最後まではしてないよ」
そこはね。さすがにね。
意外とちゃんとしてるんですよ、あたしも。と言う顔でカルロを見るが、眉を顰めて溜め息を吐かれた。
別にそこは素直に褒めてくれていいんですよ。黒川さんよ。
「そう言う事じゃない。⋯⋯だから、好きに触らせるけどそれだけ、って事だ」
あーあーやだもう。だからさあ。誰よ。
黒川にそう言うの聞かせるのやめようよ。
何でもかんでも話してんじゃないっつーの。
「えーなになに。なんかあたしのえっち事情に興味ないとか言って、ダメ出しされてる。ウケる。⋯良いんだよ、あの集まりは。やりたい奴がやりたいようにやるの。積極的な女の子が好きな奴もいたけどさ、そーいう奴はだんだんあたし以外の女の子ばっかりを相手にするようになっていったよ」
「この話はおしまい」と言わんばかりにエリアナはしっしっと手を振る。
「それも違え。あの先輩が牽制掛けてたんだよ、お前に手を出すなって」
「なにそれ、ルール違反じゃん」
エリアナはふっと吹き出す。
なんだそれ。
初耳だし。そんなのあり得ないし。
そもそも本当だとして何で黒川が知ってるんだ。
「その代わりあの先輩も他の女に手を出さないって言ったらしいぞ」
「いや、誰が信じるのよ、それ」
「信じた奴が実際、お前に手を出さなくなっていったんだろ」
そーだっけ?もう正直、誰が相手とか気にしてなかった気がする。ああ、本当クソだわ。
うーん、何て言うか、黒川この話、楽しいのかな?
楽しくないとしても、何か意味があるから続けてんだよね?復讐かな?
これも復讐の一貫なんだとしたら、どういう反応をしてあげるべきだ?怒る?傷つく?笑い飛ばす?
結局、困ったように眉を下げて肩をすくめてエリアナは笑う。
「て言うか、なんで黒川がそんな事知ってんの」
「あの先輩が言ってたんだよ」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯まあ、そうだよね。
嫌だけど。そうとしか思えないよね。本当に嫌なんだけど。本人に聞かないと分からないようなことばっかだもんね。て言うか先輩なんで黒川と話してんの会ってんの近付いてんの
笑顔が張り付いたまま、エリアナの声が固くなる。
「⋯⋯⋯いつ先輩と話したの?他には何て?何も⋯何も、されなかった⋯?」
ねえ何で先輩は黒川にああもうどうしてあの時黒川にあたしは先輩は
「多分」
「多分、てなに?」
ああもうやだやだ聞きたくない聞きたくないけど聞かないと先輩は黒川になにをなんてどうして
「多分、された」
もっとちゃんとはっきり言ってほしい黒川早くでも言わないで聞きたくないだけどあたしは聞かなくちゃそうじゃないとあたしは
「だから多分って何?何されたの?」
黒川は一体黒川になにが黒川をいやだやめて黒川に黒川 黒川 が
「多分、殺された」
「⋯⋯カルロ卿、もう5日です」
カルロがクラウディオとエリアナを生徒会室に残して出てきた所を、ジルダが声を掛ける。
婚約関係にある2人に一応の気を利かせてカルロが退室しただけで、取り立てて急ぎの用事がある訳ではないと知った上での強行だ。
生徒会室の扉の前で待機するクラウディオの従者には前もって知らせておいたので、少しだけ離れた位置に移動する。
「カルロ卿がお嬢様と昼食を共にしなくなって、5日です」
あの後、エリアナは何も言わずに休養室を出ると、普段と変わらない生活を送った。
何も変わらない、「記憶持ち」が現れる前の生活を、だ。
怒っているのか悲しんでいるのか絶望しているのか拗ねているのか気を引こうとしているのかいじけているのか悪戯をしているのか何なのか、
とにかく「記憶持ち」が「記憶持ち」として言動をする事がなくなった。
常に完璧令嬢エリアナとして振る舞っている。
自宅の自室でも、ジルダがいる間は変わらない。
元のエリアナに戻ったのかとも思ったが、やはりどこか雰囲気が違う。
何より食事量が少ない。
前菜とスープで席を立つ。
間違いなくあの「記憶持ち」だ。
そしてそれが5日前。
つまりエリアナはもう5日も食事量が減った生活を送っている。
「確か、同席を拒否したのはエリアナ嬢だったな?」
カルロが貴族然として、しかしジルダの目をしっかりと見て答える。
そうなのだ。
完璧令嬢として振る舞い始めたエリアナは
「カルロ様には随分とご厚情に預かりまして深くお礼申し上げます。今後はどうぞお心遣いはご無用でお願い致します」
と言い、昼食を1人でとると宣言した。
宣言しただけで実際には食べていなかった。
何かしら口実を作っては1人での食事を避けていた。
もう一度言うが、エリアナはもう5日も食事量が減った生活を送っている。
ジルダは怒っているのだ。
「記憶持ち」がクロカワに負い目を感じている事は知っていた。
「恨まれて当たり前のことをした」と言っていた。
「なんやかんや」あった「記憶持ち」がカルロ卿から離れようとしていたのに、それを許さなかったのはカルロ卿だ。
確かにカルロ卿は「記憶持ち」を壊すことが目的だと言っていたが、それがこれだろうか?
いいや、違う。
それならば最初から昼食に同席などしないはずだ。
ジルダに「記憶持ち」に関する助言もしない。
つまりお嬢様のお食事に関しては、カルロ卿にとっても不測の事態と言えよう。
なのに何故、この現状に策を講じないのか。
何よりジルダが怒っている一番の理由が⋯⋯
「そしてお嬢様がクラウディオ殿下とご昼食をご一緒されるようになって2日です」
「婚約者らしくて結構じゃないか」
確かにカルロ卿は、お嬢様が誰かと食事をとるなら同席するのは自分でなくて構わないと、言っていた。言ってはいたが。
「恐れ多くも、クラウディオ殿下はお食事に対して大変無頓着であらせられます!!!」




