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「カルロ⋯様はとても⋯厳しいです」
ライラックの瞳が言葉を選ぶたびに困ったように瞬きを繰り返すのを、エリアナはティーカップに手を添えたまま見つめていた。
今日エリアナは意を決してフィオリーナをお茶に誘ってみた。確認しておきたい事があったからだ。
取り敢えず、会話の糸口としてカルロの話題を出してみたのだが、思っていたのと違う反応が返ってきて驚いているところである。
確か前世で光凛が観た映画では、フィオリーナはカルロのことを頼れるお兄さん的な存在として慕っていたはずなのだが。
目の前のフィオリーナはまるで、鬼上司に怯える新入社員のような、借金取りに怯える善良市民のような、そんな雰囲気を感じさせる。
どちらもTVでしか見たことないけど。
「⋯⋯⋯そうなのね?」
え、そうだっけ?
まーでも、頼れるお兄さんだって厳しい時くらいあるよね?
それに中身が黒川なだけに、厳しくても納得と言うか、むしろ厳しくないと黒川ではないと言うか。
て言うか実はあたし、あの作品自体別に好きってわけではなかったんだよね。
先輩に連れて行かれた映画で、たまたまカルロが好みだったってだけで、小説を読んだわけでもないし。
そりゃあ、ちゃんと細かいところまで内容を覚えてなくて当たり前ってもんで。
実は今日エリアナがフィオリーナを誘った目的は、フィオリーナがカルロをどう思っているか聞きたかったのだ。
映画のカルロはフィオリーナを妹としてではなく「お嫁さんにしたいNo.1」として好きだったはずだ。
ところが今のカルロは中身が黒川だからか、「なぜ結婚してまであいつの面倒をみないといけないのか」位の勢いだった。
これはあれか?
前世で光凛の面倒を見過ぎて、今世でフィオリーナを見守り支える事に辟易してしまっているとか、そう言う感じ??え?あたしのせい??
そんな訳で、中身が黒川のせいでカルロの感情に変化が生じたのか、はたまた、光凛の受け取り方が間違っていただけで映画のカルロも実はそんなにフィオリーナが好きではなかったのか。
どちらにしろ、カルロが光凛が思っていたのと違うのだから、フィオリーナも光凛が思っていたのと違う可能性がある。
つまり、フィオリーナがカルロを好きな可能性だ。
もしフィオリーナがカルロを好きなら、応援したいと思ったのだ。
カルロはああ言っていたが、結局こんな可愛い子に好かれていると分かればコロッといくと思うのだ。
何より、可愛げのないカルロより、可愛いの権化のフィオリーナの気持ちを尊重してあげたい。
そう思ったのだが。
どうしよう。
カルロ、フィオリーナに怯えられてない?
ああ、でも。こう言う早とちりが光凛の悪い所で。
怯えている=好きじゃない、とは限らない。
女心は複雑なのだ。
最初は印象最悪だったのが結果ラブラブになるのは前世でよく見た展開だ。
TVでしか見たことないけど。
どうする?一応聞いとく?
でももし、フィオリーナがカルロに対してトラウマ級の恐怖心をいだいてるとしたら、とんでもない質問だよな?
心に傷を作るかもしれない。困った。
「⋯あの、エリアナ様は、カルロ様の事をどう思われていますか⋯?」
⋯⋯⋯それは、それこそが、あたしが貴女に聞きたいことだよ、フィオリーナ。
「クラウの右腕として頼もしく、信頼の出来る方だと思っているわ。⋯貴女に厳しく接するのも、彼なりに考えがあっての事ではないかしら。貴女なら出来ると、信用している証だと思うの」
嘘は言っていない。
光凛として黒川に思うところがあるだけで、客観的に見るとカルロは、と言うか黒川も、かなり優秀で有能な人間なのだ。
「そう、でしょうか⋯」
「本当に辛くなったらその時は私も力になるから、もう少し頑張ってみてはどうかしら?私に教えられる事や手助けできる事があれば協力は惜しまないから」
あれ?
と言うか、映画ではエリアナは既にフィオリーナの教師役をやってる時期じゃない??
確か、イジメから助けてすぐクラウディオからも頼まれてマナーとか勉強とか教えてたはずじゃ⋯⋯
これはアレかな?原作クラッシャー黒川かな?
中身が光凛のエリアナを、フィオリーナに近付けたくないとか、そういう事かな?
それで代わりにカルロがフィオリーナの教師役としてスパルタな教育ママになっちゃって、結果、怯えられちゃってるとか、そう言う事かな?
やだもう!!あたしのせいじゃん!!!
「有難う、ございます⋯」
フィオリーナが少し安心した様に顔を綻ばせる。
美少女の微笑みの破壊力ハンパねえ。
うわあ、ずっと見ていたい。ずっと見てられる。
うわもう、なにこれ、どうしよう、持って帰りたい。
落ち着けあたし。今完全にヤバいやつだから。
エリアナは咳払いを1つすると尋ねた。
「ところで、フィオリーナ様は、カルロ様の事をどう思っていらっしゃるの?」
「ひっ⋯」
「⋯⋯ひ?」
「ひ、ひどく厳しい所もありますが、ひ、非常に面倒見の良い、ひ、人として尊敬の出来る方だと思っております」
えー、なにこれ。
何でいきなり「ひ」縛り?
貴族的な何か?若者の遊びとか?最近の流行りとかそう言うの?
えー、なにそれ、そう言うの、好き。
フィオリーナって可愛いうえに流行に敏感で面白いとか最強じゃね?
「ふふ、そうなのね?⋯男性としては?」
「ひぃ⋯っ」
「ひ?」
「ひ、ひよっこの私には恐れ多く滅相もないとんでもない相手でございます」
フィオリーナは決してひよっこではないと思うが、きっとこれは謙遜ってやつだ。
そしてカルロをそう言う相手として見るなんて恐れ多いと思ってる?
「つまり⋯、想いを寄せているけれど高嶺の花だと諦めている、とか、そう言う感じかしら?」
「!!!違います。無理です。嫌ですぅぅ」
えええええ!???
フィオリーナ超涙目じゃん!
どんだけスパルタなのさ、黒川!!
え、これはあたし、2人の仲を取り持ったほうが良いのでは?
後の聖女とそれを守る騎士として今の関係はかなりヤバいんじゃない??
⋯⋯あれ?
カルロって、聖女を守る騎士だったよね?
でも黒川って体より頭を使う方が得意なタイプっぽい。
現にクラウディオの右腕として何か色々小難しいことやってるっぽいし。
うーん、思い込みは良くないよね。
でもって、こう言うのはやっぱり、聞くのが早いよね。
「カルロは剣術も体術も強いよ」
え、まじか。




