穂花に
数学の授業が終わると、私は机に突っ伏せた。
気づけば、私の机の前に穂花が立っていた。
「ん……穂花…?」
目をこすりながら私は言う。
「ねむそうだねー、確かにあの授業つまらなかったもんね!!」
やけに明るく言う穂花。
「………急にあてられたし」
私はボソッと唇を尖らせて呟く。
「あー、あれは大変だったねぇ。先生もひどいよね」
穂花は無理して会話を続けてくれている感じがした。
なんとなく申し訳ないという気持ちになってしまう。
「………なんで穂花は、私でいいの?」
「え?」
突然の私の言葉に、穂花は目を見開いてそう言う。
「え……っとねえ」
その時、クラスのある子が「もうそろそろ時間だよ」という声かけをした。
「あ……もう時間みたい、また話そ」
穂花はそう言うと、自分の席に座った。
私と穂花、席は離れていないし、なんならお互い座っていても話せる。
だけど今は話す気分じゃなくて、穂花とは別の方向の窓を見て時間をつぶした。
***
次の授業は国語だった。
「じゃあ、ここの気持ち、チームのみんなで考えてみよう」
その言葉が耳に入ると、なぜだか急にお腹が痛くなる。
これは嘘じゃない、誇張してもない。
なのに。
「浅野……さん、机…ここに動かして」
同じチームの女子が空いている場所を指さす。
そう言われて、私は慌てて机を動かす。
変な言葉の間があった。同じクラス、同じチーム、同じ年齢のはずなのに、さっきの言葉には壁があった。それは、紛れもなく私のせいだ。私が壁を作ってしまっているからだ。
「……ごめん」
心晴がいないことを確認して、声を出す。
心晴がいるところでは、いつもの声が出したい。っていうかそうなってしまう。
───あれ?
そもそもこの教室には心晴なんていない。
この教室で仲良いのは……穂花だけだ。
穂花は、私がこのクラスで唯一話せる人だ。
きっと無意識に、穂花の方を見ていた。穂花に声が届かないか心配してしまった。
穂花の前では、普通に話せていた。心晴の前とは少し違うけど──他の人とも少し違う。
なぜだろう。なんで私は、穂花にこんなにも執着してしまったのだろう───。




