警戒心を捨てたい
高揚感と言う名の、感情。
嬉しくないのに、なぜか喜んでいる心。
宵乃のことを思い出す理由がわかったからなのか、それとも───。
***
翌日、午前5時に設定したアラームの5分前に起きた私は、ラジカセに手を置いて、お気に入りのバンドのCDを流した。今どきラジカセなんて、古い。心晴にもそうやって言われたっけ。私も自覚している。
ただこれにはちゃんと理由がある。
私の部屋にスマホを持ち込むことは許されていなくて──、ラジカセじゃないと音楽が聞けない。
って、流した曲の、もう2番行ってるじゃん。
この曲は、心をそっと撫でてくれるような歌詞、メロディを持っている。昨日、何かとモヤモヤしていた私の心を、現在進行形で救ってくれてる曲。
「明日も明日も辛いけど」
「ぐるぐるぐるぐる続いてる」
ふと歌詞を口ずさむ。
何十回、何百回と聞いたこの曲──愛着以上の何かを感じている。
執着してしまっているのか、特別な何かを抱いてしまっているのか。
***
「心晴、おはよう」
心晴は、いちょう公園のブランコに乗っていた。
足をぶらんと揺らしていた。
「あ、千奈、おはよ」
心晴は私を見つけると、ブランコから足を着地させて明るく微笑んだ。
まるで天使のような、笑顔、所作。
私とは違う、優しさの塊。
「千奈、昨日保健委員の集まりあったよねぇ」
2人で並んで学校に行っていると、心晴がそう言った。
「あ、そうそう。保健委員でポスター作ってさー。結構大変だったよ」
今日の話題は委員会についてだった。
保健委員会は、集まりが多いとか。
放送委員会はたまに放送の当番を忘れる人がいるとか。
主に、心晴が入っている放送委員会についてだった。
「あ、千奈ちゃん……!!」
私と心晴で話していると、突然自分の名前を呼ばれて、心臓が大きく跳ねる。
後ろの方から誰かの声が聞こえた。
「わ、っとびっくりしたあ…」
驚きで、言葉が変なところで切れてしまう。
声の主は、そんな私を見て、横にいた友達に「ごめん、ちょっと話してくるね」と言う。
「あの……。千奈ちゃん、昨日は本当に、ごめんなさい!あの、千奈ちゃんと話したり、仲良くなったりしたくて……いらないことまで言っちゃった」
私に対する「申し訳ない」という気持ちが伝わる、早口だった。
目線を上げると、昨日の穂花とばっちり目が合った。
「あ、昨日の…。き、気にしてないから大丈夫」
まずい、声のトーンが……。
隣に心晴がいることで、警戒心がとけそうになっている。
「どうしよう、心晴に席外してもらうか」と思考が完結し、私は心晴に「ごめん、先学校行っててほしい」と心晴の耳元で言う。
「わかった、千奈、じゃあまた後でねー」
心晴は私に向かって手を振ると、背筋が伸びている、シュッとした体で学校に向かって歩いていった。
心晴も、さっきの穂花の会話で察してくれた。
心晴に申し訳ないという気持ちもわいてきてしまったが、今はまず穂花との会話に集中しないといけない。




